見えない2人を呼び合わせ
「お話中、失礼を承知でお願い致します!ギフトの御方様、今、そちらの、ルフレ公爵家のプレイヤード君の、見えない目を治すお話をしてらっしゃる?」
ルフレ公爵家の陣地(敷かれた毛氈)の隣、これまた貴族一家、壮年の身体の大きな男性が話しかけてきた。
隣の貴族一家は、親だろうか中年の男性と女性に、息子か壮年の男性に、そう、そこまではいかにも貴族らしく姿勢の良い、そして真剣に穏やかに微笑みを浮かべた3人と。
一人だけ、シュンと背中を丸めてふわふわクッションに座る痩せ型の青年。肩より長いストレートの藍色の髪が、俯いた顔にかかって。両手に持つ小さな花が集まって咲く、青紫の紫陽花の花束にも、髪が降りかかっている。
お隣の壮年の男性は、礼をしながら。
「すみません、気が逸ってしまって。というのも、私の弟、ピティエも、生まれながらに視力が弱くて。ギフトの御方様に本日御目通りし、少しでもお願いできればと、希望をもって参った次第です!ルフレ公爵家の皆様、ギフトの御方様にお願い申し上げます!どうか、お話を、一緒に伺う訳にはいきませんか?」
うんうん、と竜樹は頷いた。
聞きたいよね、そういう話。そしてやっぱりこの2人、お願いしてきてくれた!
心の中でホッとする。
そうなのだ。竜樹は企んだ。ルフレ公爵家のプレイヤード君と、お隣のアシュランス公爵家のピティエ青年が、自分にお願いしてきてくれるように、わざと挨拶周りもしたし、隣り合うようにもした。
ピティエ青年の兄、ジェネルーの申し出に、ルフレ公爵家一家は快く頷き、アシュランス公爵家も合同で、竜樹と話をする事になった。
「ピティエ。お花をギフトの御方様に、差し上げて。」
ジェネルーが促すも、しょんぼり、もじもじと。
「あ、あの、あの、この花、良い香りもしないから。ごめんなさい!」
そろそろ、と花束を差し出すピティエの瞳は憂いを帯びて、灰緑色にしょぼしょぼ瞬く。
「いえいえ、綺麗な花ですよ。ピティエ様は、どうしてこの花を選ばれたんですか?」
竜樹が、そっと花を受け取る。
「その、あの。あの、えと。」
「はい、はい。ゆっくり喋って大丈夫ですよ。」
カァ、と顔に朱を上らせて。
「に、匂いがする花、私は苦手で。ご、ごめんなさい、プレイヤード君のこと、貶めてる訳じゃないです!ただ、私が苦手で、だから、匂いのない、それでフワッと、花びらがいっぱいある、花が、触って気持ちいいなと思ったから•••。」
「ほんとだ、おはな、によいしないね。」
「色々なお花があるね!」
「私にも匂わせて〜!」
3王子は、スズランと紫陽花を交互にくんかくんかしている。
「2人とも、自分が思う、素敵な花を持ってきてくれたんですね。ありがとうございます。」
竜樹の言葉に、両家ホッとした雰囲気。
「さて、どちらの方も、治るか治らないか、気になる事でしょうから、早速言いますと。」
「「はい。」」
「私も専門家じゃないので、詳しくはないのですが、この世界では、生まれつきの弱視だと、まだ治らない、と思います。カラダスキャナーで見ながら後天的な網膜剥離なんかは治るし、飛蚊症も白内障も治癒の魔法で治るんですが、治癒の魔法って、生まれついての元々あった状態以上には、良くならないようなんです。多分、皆さん、治癒は試されたと思うんですが。」
「「は、はい•••。」」
しょんぼり。皆の眉が下がる。
「視力については、少し調べたんです。新聞売りの子供達の中で、行動が何だか変だな、と思った子がいまして。よくよく見てみると、視力が弱い事が分かって。」
「アミューズよ、ね。あたまいいの。」
「神経衰弱、すごく上手だよね。」
「覚えてるんだよ。読み上げたカードを。」
3王子も知ってる、8才のアミューズの為に、竜樹も視力について勉強したし、子供達も工夫して遊んでいる。
「プレイヤード君。君の目は、どんな風に見えているの?そしてそれは生まれつきなの?」
竜樹の問いかけに。
「はい。光があるのが分かるな、っていうくらいで、はっきり見えないのです。生まれつきです•••。」
「そうなの。よく眠れている?」
「?はい、夜はぐっすりです。朝、光がさしてくるの分かるから、そうすると、寝てられない!って起きます。お散歩するの、好きだから、一日中いっぱい動いて、バタンって寝ます。」
うんうん、いいねいいね。
「お部屋で大人しくして、って言っているのに、出掛けたがるから困っているんです。頬の怪我だって、付き人を待たないでどんどん歩いて、木に引っ掛けて•••。」
母親のトレフルが、苦々しい顔で言う。
「お母さんは、心配しますよね。怪我も痛そうだし。でも、光を朝ちゃんと浴びたり、動く事はいいんですよ。目って、見るだけじゃなくて、睡眠にも関わっているんですって。だから、良く眠れている事は、とっても良い事なんです。」
「私の目、よく見えないけど、眠るのは良くできてるの?」
自分の顔に手をやるプレイヤード。
「そうだよ。見ることはちょっと不得意だけど、良く眠らせてくれる、いいお目目なんだよ。」
そっとプレイヤードの手に、竜樹は手を重ねて。
「ああぁ。だから私は、良く眠れないのかぁ。」
ピティエが、はたと気づいた風で、頭を抱える。
「そうなんだな!ピティエは、どうせ見えないから、って言って、朝も夜も部屋のカーテンを開けずに暗くしたままだし、あまり動かず部屋でじっとしている事が多いものな•••。」
兄のジェネルーが、なるほど、と頷いた。
「それが分かっただけでも、お話できて良かった。ピティエ、まずは朝にはカーテンを開けような。」
「は、はい。ジェネルー兄上。」
むふふ。
竜樹はほくそ笑む。
治せないのに、なぜ2人を呼び合わせたのか、といえば。
「お二人とも。私のいた世界で、視力が弱い人たちが、どんなふうに工夫して生活してるか、知りたくありませんか?」
「「!知りたいです!」」
「うんうん。それとね、お二人にお仕事をお願いしたくて。ラジオ番組を、作ってみない?」
らじお番組???




