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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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スズランの香り

続々と王宮の広間に、パシフィストの貴族達が集まってくる。


靴を脱ぐ方式に抵抗のある者も、そして足が悪く膝に負担のかかる座り方が出来ない者も、布靴や、足の低い椅子を用意されて、何とか毛氈とフカフカクッションに腰を落ち着けた。


「何となく、靴を脱ぐと、足は楽だけど。」

「ええ、あまり着飾って来なくて良かったですわ、お母様。気が緩むというか、寛いでしまいますわよね。」


うんうん。中堅所の貴族の母娘が話し合うのに、耳にした周りの貴族一家達も頷く。

貴族の子供達は、躾はされているが、このような形の昼餐は初めてなので、フカフカすぎるクッションに埋まって勢い余って背中側にコロッとする者多数。

愉快に感じて笑う者もあれば、恥ずかしがって両親にもたれかかったり。


竜樹と王子達は、来る順番に貴族達に挨拶に回る。鐘6つ、大体午前10時に、みんな続々と入場してきたので、予定として、大体1時間を挨拶に当てていた。その間、緑茶か紅茶のサービスと、ちょっとしたお茶請けとして、レモンと杏のドライフルーツ、それからお煎餅を出した。

ドライフルーツはよく見るが、見たことがないお茶請けのお煎餅に、ポリポリと食べる音が彼方此方でする。


「良くいらっしゃいました。ルフレ公爵様、ご家族様。初めまして、私はギフトの人、畠中竜樹です。」

「第一王子、オランネージュです。」

「第二王子、ネクターです。」

「だいさんおうじ、ニリヤです。」


毛氈に膝をついてニコニコと挨拶をする竜樹と、その周りで竜樹の肩に手をかける王子達に、ルフレ公爵当主のアルタイルは、座ったまま注意深く胸に手を当てて、軽く礼をとった。妻のトレフルも、4歳の娘、フィーユを抱いたまま、ドレスのスカートをつまんで目礼。

「ギフトの御方様、王子様方、本日はお声かけくださりありがとうございます。私、ルフレ公爵当主アルタイル、妻のトレフル、娘のフィーユです。それから•••。」

「ルフレ公爵前当主、今は隠居しておりますサジテールと妻のシームです。」

ちょん、と目礼をする、白髪混じりの髪でも、まだまだ若く見える、前当主と妻。


あと、もう一人。

小さなベル型の白い花、花びらの先に黄緑色の三角が点々とついた可憐な花束を、顔の前に持つ、少年。

まだ紹介もされない、そして口も開かない少年は、オランネージュよりも小さくネクターよりは大きい。淡く緑色に光がある、くしゃくしゃの金髪が、揺れる。花束から顔をひょこ、と覗かせて、瞳は灰色だ。

そして右頬には、大きなガーゼが。ペタリとテープで止められている。


ルフレ公爵当主アルタイルが、そっと口を開く。

「•••ご挨拶なさい、プレイヤード。」


「はい。ギフトの御方様、王子様方、私は、ルフレ公爵家長男の、プレイヤードともうします。」

ニパッ と笑う、その灰色の瞳は、竜樹の方を向いているが、若干違和感がある。


「初めまして、プレイヤード君。」

「「「はじめまして!」」」


お茶は紅茶、お茶請けには、この一家のうち誰も手をつけていない。アルタイルもトレフルもフィーユも、そしてサジテールとシームも。花束を持ったプレイヤードも。


「おはなもってるの、ししょうにおねがいごと?」

「竜樹に、お話あるの?」

ニリヤとネクターが、話のきっかけをつくった。

花を持ってきた貴族も結構いて、竜樹の後ろに控えるタカラは腕いっぱいに鮮やかな花を抱えている。だが、竜樹に、どうぞ職を商売をと望む者達の花は、ここまでは薔薇や大振りな花が多かった。


「はい!私は、長男ですが、父様の跡は継がないので、何か何でもやりますから、働かせてもらいたいんです!」

しっかと竜樹を見詰めるプレイヤードに、母親のトレフルが口を挟んだ。

「違うでしょう!プレイヤード!!」 

ギン、と見張る目は、プレイヤードへ鋭く視線を投げる。そして、ふ、とため息を吐くと、竜樹に。


「ギフトの御方様、どうかこの子の目を、見えるように治してやって下さい!こんな小さな花束で、本当に失礼申し上げますけれど。私はもっと、お願いに見合うような大振りな花がいいと思ったのですが•••。」

「私、このお花が良いと思ったんです。だって、スキッとして良い香りだもの。」

「おめめ、みえないの?」

「でも、こっち向いてるし、綺麗な目だよね?」

不思議そうなニリヤとネクターは、じっとプレイヤードの瞳を見る。ぱち、ぱち、と瞬く瞳の違和感は、見えていない者の、相対する人物の方向への、微妙な合わなさか。

「いや、トレフル夫人。お花の種類が良いか悪いかでお願い叶えてる訳じゃないので。スズラン、かな?香りの気に入った花を持ってきてくれて、嬉しいよプレイヤード君。」

「はい!」


にじにじ、膝で歩み寄る。

手を前に突き出し、竜樹のマントへ指先が触れると、そっと花束を差し出した。


「•••本当だ、いい香りだね。」





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