オーブのたまご
フリーマーケットもプール開きも終わって落ち着いて、何日かした頃。
王宮内の寮では、子供達が、ランセ神様のめんどり、オーブの小屋の前に集まってしゃがんでいた。
むむむ、と、下の方を覗き込んで、見える?見えない!でも、あったんだよ、ほんとだよ!なんてやっている。
「早く早く!竜樹、こっち!」
ネクターが竜樹の手を引っ張って、オランネージュが後ろから押して、ニリヤがちょこちょこと横を走り。
竜樹はオーブの小屋の前までやって来た。
オーブの小屋は庭師さんが作ってくれた、しゃれた飾り扉がついた広いものだ。最初は、寮の部屋の中で飼っていたのだが、頻繁に外に出たがるので、試しに作ってあげたら気に入ったらしい。そうして、獣などがいない王宮なので、小屋の扉には鍵がかかっておらず。ついこの間も、迷ったふりで寮までやってきた貴族(竜樹と会いたかったらしい)を見つけて、撃退していた。
オーブが撃退するのだから、あまりいい人ではなかったのだろう。子供達も竜樹も守る、頼り甲斐あるめんどりである。
そして寒い日や激しい雨、風の日などは、足を拭いて部屋に入れている。
「竜樹父さん!オーブ、あっためてるよ!」
「たまご!」
「産んだんだって!」
「おー、それはそれは。たまご産むって、ランセ神様が言ってたもんね。ここには雄鶏いないけど、孵化するかなぁ。」
えっ!?と子供達は竜樹を見上げて。
「たまご、かえらない?」
「おんどりいないと、ダメなの?」
オーブを一番可愛がっている、ロシェが、真剣な顔して竜樹に取り縋る。
「そんな•••!オーブ、せっかく産んだのに!」
いやいやいや。
「神様のめんどりだから、普通とは違うかも?孵らないって決まってないよ。まあまあ、落ち着いて。オーブをのんびりさせてあげたらいいよ。」
オーブは、毛布が敷かれた巣箱の中で、ふくっ、となっている。その下で温めているらしいたまごは、見えな、い?
「あ、何かいっぱいあるね。」
「ほんとだ、たまご!」
「白いのと、ちゃいろいの!」
もぞり、と体勢を変えたオーブのおかげで、巣の中が見えた。たまごが、1、2、3•••5個。オーブは、脚とくちばしで、たまごをコロコロその場で回して、いいポジションを作り上げると、また、ふっかりと胸までたまごを覆って、あっため体勢をとった。
「みんな、オーブを自由にさせてあげよう。たまごが見たいのは分かるけど、そっとしといてあげるんだよ。」
「「「はーい!」」」
いいお返事で、だけどやっぱり気になるたまごに、チラチラ視線を向けつつ。子供達は竜樹と一緒に、遊ぶ事にした。
そうして3日後。
「早く早く!」
「ひよこ、ひよこなの!」
「5匹、全部ひよこになったよ!」
ニリヤが竜樹の手を引っ張って、ネクターが後ろから押して、オランネージュが横を走り。
アルディ王子とエフォールも、ジェム達とオーブの前にいた。
ピヨ ピヨ!ピヨピ ピヨ?
クチバシまでも黄色い、ふかふかのひよこが、庭に出たオーブの周りで、ヨタヨタしている。
子供達がひよこを触っても、特に気にはならないようで、何となくドヤ!と誇らしげなオーブである。
「本当だ、ひよこになった!」
やっぱり神様のめんどりなんだなあ。無精卵で孵るんだものなぁ。
竜樹はドヤってるオーブを撫でる。
コココ、コ! と返事のようにオーブは鳴いた。
「名前つける!」
「アレキサンダーII世!」
やはりか。アレキサンダーII世。
「ココちゃん!」
「ピヨちゃん!」
「どれがココちゃんで、どれがピヨちゃんか、混ざっちゃって分かんないな。」
ひよこに目印をつけるのも、育ったり動くのに邪魔っぽかったりと可哀想だから。少し育つまで、名付けは待とう、となって、ひよこを愛でながら子供達は、いつも通り遊びを。
3日後。
「リボンとか、首や脚に巻かなくて、本当に良かった!」
ココココココ。
ココ コココー!
「ひよこ、おとなのめんどりになったね。」
「めんどりばっかり、5匹だね!」
物凄いスピードで、大人のめんどりになった、たまご達に、竜樹も子供達も、そして周りの大人もびっくりした。
「いやー、たまご食べても良いってランセ神様がおっしゃっていましたが、それも頷ける成長の早さですね。」
ミランが、カメラを回しながら、めんどり達を追っている王子達を、追っている。
「たまご、今、需要が高まっていますから、高く売れますよ。」
そうなのだ。竜樹の提案した、たい焼きにも嵐桃のデニッシュにも、卵黄を使ったカスタードクリームが使われていて。このカスタードクリーム、口にトロリと美味しいと、大人気なのである。残りの卵白を使った、メレンゲクッキーや、ラングドシャも、庶民でも買えるたまごのお菓子となって、良く売れている。
ガタン!
はた、と大人達が振り返ると、ロシェが、葉っぱの沢山入った餌箱を落として。
「た、たまご、食べちゃうの!?」
「いや、ロシェ、あのね。」
竜樹は焦った。ミランも焦ってカメラがブレた。言った事は嘘ではないが、可愛がっている子の前で言う事でもない。
落ちた餌箱に、めんどり達が群がる。
嬉しそうに啄む、足元のめんどり達を見て、ロシェは、クシャ、と顔を歪めて。
「お願い竜樹父さん、たまご食べないで!売らないで!おれ、もっとはたらくから!!」
ガバリとめんどりを抱えて。
「いやいやロシェ、みんなに相談しないで食べたり売ったりしないから!」
食べないよとか、売らないよ、とは言えない。だって。
「ししょう〜!たまご、またうんだ!5こ、あるよ!」
「オーブ、あっためてる!」
「めんどり、いっぱいだね!」
産まれた子供のめんどりも、たまごを産んだら、どうしよう!?
めんどりばっかり、オーブも入れて6羽が、もしかすると5つずつのたまご•••一回の産卵で30羽。その次の産卵で、180羽!?
王宮の撮影隊寮は、養鶏場ではないのである。
いやいやをしながら、売らないで、食べないで、と涙目になるロシェ。
竜樹は、一緒にしゃがんでポンポンと背中を叩いてやり、どうしたもんかな、と、ため息にならないよう、スーッと息を吐く。
ミランは気まずげに、おろおろしている。
「ロシェ。竜樹父さんにワガママ言うのはダメだろ!オーブは売らないから、それでがまんだ!めんどりばっかり増えても、エサ代かかるし、神様がたまご食べていいって、言ってたろ!」
バシッと言ったのは、ジェムである。
ジェムにだって分かるのだ。竜樹が困ってるって事は。
そうして、多分、このめんどりは、お金になる。子供達の面倒をみている竜樹の、助けになるのだ。
「ジェ、ジェム、だって!」
「だってじゃねえ!何でもかんでも、竜樹父さんが面倒みるわけに、いかねぇだろ!」
揉めかけて、まあまあ、と宥める竜樹は、そうだ、と思いつく。
「神様に、聞いてみようか?」
「えっ!?」
「へ?」
ランセ神様に聞いてみたら、あんまり増えなくなる方法も、分かるかもしれないし。そうしたら、めんどり6羽くらいなら、何とか。
と竜樹は思ったのだが。
「それじゃ、竜樹父さんが、もうからないだろ!このめんどり、お金になるんだろ?ロシェ、何も食べられなかった時のこと、おもいだせ!何でも良いから仕事して、お金か食べ物がほしかった時のこと。たまご食べたい奴はたくさんいるし、これ以上、ぜいたく言えないんだ、おれたちは。」
「うう•••。」
案外そんなに世の中は厳しくないよ、って言ってあげたい。
でも、ジェムの言う事も、ジェム達の真実だから、違うよとも言えない。
それでも。
「ジェム、気にしてくれてありがとうな。でも、神様に聞くだけ聞いてみるのは、いいと思わない?返事くれるかも分からないし、何か神様に考えがあるかもだから。」
「う、うん。それは、良いけど。」
ポンポン。2人の背中を叩いてやる。
そうして、オーブの小屋の前のベンチで、子供達に囲まれて、竜樹はランセ神様に、メッセージを送ってみた。
竜樹
「ランセ神様、良かったらお返事ください。
めんどりの、オーブが、たまごを産んで、それが孵ったのです。
かなり早い日にちで、ひよこがめんどりに育って、すごく増えそうな予感です。
たまご、食べて良いって、おっしゃってましたが、子供達が、かわいそうがっています。無理矢理に、たまごを取り上げたくは、ないのです。
ランセ神様に、何かお考えはありますか?
説得して、たまごを食べるべきでしょうか?
また、神様のお力がこもった、オーブの子供の、めんどり達を、売ってもいいものですか?」
「と、こんな感じで、聞いたらどう?」
「うん、いいよ。ロシェもいいだろ?」
「うう、おれも、い、いいよ。」
ぐしゅ、と鼻をすすったロシェの頭を撫でてやって、神様の返事を待つ。
ぶるるるる。
ランセ
『オーブを可愛がってくれて ありがとう。みんな。
オーブの 産んだたまご 食べると
ちょっといい効果が あるんだよね。
少しだけど 身体が病気にかかりにくく 丈夫になるよ。
子供の めんどり達は 力が
オーブよりは 少ないかな。
私としては めんどりを 売ってもいいし
たまごを食べてもいい
めんどりの 肉を食べても いいんだよ。
普通の雄鶏と交配させると 増え方もちょうど良い感じに なるはず。
後は たくさん可愛がってもらったから
オーブが 力を込めた たまご達を
プレゼント したかったみたい。
オーブに 話を 聞いてごらん。』
竜樹
「お返事ありがとうございます。
ランセ神様。
オーブに話を聞くのは、どうすればいいですか?」
ランセ
『スマホの 翻訳あぷりで オーブの言いたい事が 分かるよ!
子供達 本当にオーブを 可愛がってくれてるんだね。
嬉しいよ。
じゃあ オーブに 聞いてみてね。』
竜樹
「ありがとうございます。
聞いてみます。」
「ーーーって、ことらしい。」
「オーブのお話、わかる?」
「ぷれぜんとだったの?めんどり?」
ロシェも、驚いて。
「とにかく、オーブに話を、きいてみよう。」
そうしよう、そうしよう。




