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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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最後じゃなくても、美術館


「美術館、ですって?」


グラン公爵家の三男、ボンの家の食卓で。ボンの母、シエル夫人が、岩場鹿のステーキ肉、赤ワインソースを一口、もぐもぐした後、聞いた。

ボンの髪色は、シエル夫人に似たらしく、まとめ髪に耳の前の髪が、銀紫にゆったりウェーブを描いて一筋、垂れている。

食卓には、家族全員が集まっている。

ボンの祖父、祖母。父に母、兄2人。それから嫁に行った姉と甥っ子のロビュスト。全員から視線を浴びて、興奮気味にボンは肉を噛み締めた。

「はい!常設で、素晴らしい絵画や彫刻などを、ゆったり見られるように考慮して館内に飾り。一般の、それこそ平民にも、入場料さえ払えば、それを鑑賞する事が出来。また、キュレーター、という、美術に詳しい者が、あるテーマを持って絵画を借りたり集めたりして、特別展を開いたりするのだそうです。美の事業、と竜樹様はおっしゃっていました。私は、『時代の転換点を彩る絵画たち』という企画で、最初の特別展を開催してみたいのです!」


おおー、おおおー。


かちん、と、長身でかっちりと、どこもかしこも四角い印象の長兄、イストワールがナイフを皿に置いて、ボンに。

「それならば、小品だが、ロンドの『代書屋とタイプライター』は欠かせないだろう。飾り文字、美文字の代書屋は、今でも残っているが、タイプライターの登場で、大きく数を減らした。そうして、庶民向けに、ざっくばらんな代読と代筆をやるようになった。それを捉えて、新しい物と古い物の代替わり、その切なさと光を的確に表現したロンドの•••。」

「あら、それなら、エルの『魔道具と魔法使い』も欠かせないわよ。あれなら大きくて、見栄えもするし、一般のお客様にも見応えあると思うわ。」

「それなら•••。」

喧喧諤諤。皆が、これは良いだろうと思う絵画や、新しい技術で作られた焼き物の為に、廃れて縮小した、けれど素敵な技法の器などを提案したり。

ボンは、ふむ、ふむ、と家族の提案それぞれに頷きながら、デザートのフルーツを食べ、こくりと飲みこんだ。


「それらの情報の文字を、パネルにして入り口に飾ったり、あとは、魔道具で、説明が聞きたい人には、他の人の鑑賞を妨げないように、いやほん?というのを耳につけて、自分のタイミングで聞きながら鑑賞するように出来たり。音声ガイド、という物なのだそうですが。鑑賞する人が大勢なら、案内役に人を立ててもいいですね。」

「ボンが、絵画を見る順番を決めたり、音声がいどや、案内人の、その原稿を作るという訳だな?」

「はい!美術館では、美を守り、保存して、それだけでなく、人々の心に訴えかけるような、そんな展示をする事ができます。解説も書かれた、綺麗な図録も作って、買って帰れば、ああ、こんな絵があった、彫刻があったな、と、時代に流されても懸命に生きた人々の営みを、家に持って帰る事ができます。勿論それも収入の手段です。」

おみやげなんかの企画も、美術館らしく、絵画の印刷が入ったはがきや、ハンカチ、復刻した焼き物のカップなどを作るのだそうです。


「それなら、オリジン焼きのティーカップセット、なんて、普段使いに素敵で良いんじゃない?古びた感じも、落ち着いていて。」

ボンの嫁に行った姉、アンが、素朴だが力強い印象の焼き物をおすすめする。

「ええ、ええ。それに、竜樹様は、若手の画家の参加を募って、コンクールをやるのもいいと言っていましたね。」

賞という評価が貰えれば、人に名が知られて、その画家の芸術活動を支援する事にもなる。パトロンも出来やすいだろう。

「売れるか売れないかは、そこにある美と少しズレた、違う価値基準ですけど、それも利用してしぶとく表現する若手を育てる事にもなる。」

「コンクール、私、出してみたい!」

甥っ子ロビュストが、はいっと手を上げて参加の意思表示をする。

良いわねロビュスト、挑戦するのは良い事だわ。シエル夫人が、ロビュストを褒めると、てへへ、と照れて、食後のお茶を啜った。


「それで、参考になるかもと、竜樹様がおすすめの情報を、テレビみたいに見られる魔道具を貸して下さったのですけど、一緒に見ます?」

見る、見る!


美術に目のないグラン公爵家の面々である。意気揚々と食卓から場所を移して、サロンでソファや椅子に固まって、竜樹おすすめ動画を見る事に。


「まずはこれを見てみましょうか。絵が可愛いし、ロビュストも楽しいかも。」


と選んだ動画は、最初に観るのに、良かったのか、悪かったのか。


貧しい少年は愛犬と牛乳運びしながら、コンクールに絵を出して。疲れ果て、雪の日に、ルーベンスのどうしても見たかった絵を、見る事ができて、そして昇天ーーー。



うっ、うっ、うっ。

ポロポロ、家族皆して、号泣である。

「ど、どうして、死ななければならなかったの!?ルーベンスの絵、見られて良かったけど、もっと早く、みんな助けてあげたらーーー。」

ロビュストが、小さな手でポロポロと溢れる涙を拭い、ぐしゅんと鼻を鳴らす。


「ううー!!最後に、絵が見たいなんて、ちゃんと芸術家だったわよ!大人達の無理解!ひどい!」

シエル夫人は、憤りを隠せない握り拳で。


「美術館は、子供の日を設けるべき!全員タダとは言わないが、安く芸術に触れてもらって、ルーベンスを見たいような子供の、芸術の芽を育てるべき!」

美術一家の中で、ガタイが良く、見かけはそうとは思えない次兄のミットが、ズビズビ鼻を啜りつつ、興奮して。


頬骨の張った父のラフが、ぐず、とハンカチで目を拭いつつ。

「そうだな。そして、子供達のコンクールも開催して、貧しい者には、支援をしてやろう。間に合うようにな。」


「美術館、館長は私が就こう。老いぼれだが、まだまだ美術を広げる為の人脈もある。収入の当ても、一緒に考えてやれる。ボンは安心して、キュレーターをやると良い。」

祖父のオルディネールが、眼を真っ赤にして、立候補する。


「ええ、ええ、あなた。私も協力しますわ!」

祖母のパルファンも、ハンカチを揉み揉みしつつ。


嫁に行った姉、ロビュストの母アンも、手のひらで泣き顔を覆いつつ。

「わ、私も手伝いますわ!お茶会で、美術館の事を宣伝したり!」


「「「みんなが、最後じゃなくても、見たい芸術を見られるように!!」」」


グラン公爵家の結束は、ここに一つに、固まった!






ピロリン。


竜樹は、王子達と王宮の私室で眠ろうとしていたが、スマホから音がしたので、んん?とベッドの上でスマホに手を伸ばした。


パッ、はらり。

紫色の、小さな花が茎に沢山ついた一房の花が、ベットに落ちた。


「5000いいね、追加されました。」


神々の庭に、メッセージ。


アール

『初めまして 私はアール神。

芸術の神。

よくぞ美術館を 提案してくれた。

ボン達が 美術館を作る決意を固めたぞ。

それにしても ルーベンスの絵!!

人生の最後にまで 見たくなるような 素晴らしい絵画を 私も見たい!』


竜樹

「初めまして、アール神様。

ルーベンスの絵は、スマホでなら、見られるかも?

俺が検索して、見たら、ご覧になれますか?」


アール

『うむ うむ。それで良い。

それにしても•••うっ うっ あんなに幼い 才能のある子供が 昇天してしまうなんて!

ボン達は 貧しい子供達の

美術への芽を 育てることに

したようだ。

勉強もいいが 他の才能がある

子供達にも 目をかけてやってほしい。

私も 何かと 気にかけてやろう。

竜樹も ボンの相談に 

乗ってやってくれ。

いいねを5000 送っておく。』


竜樹

「ありがとうございます!

もちろん相談にのります、アール神様!」


ランセ

『私もみたよ あの動画!

何て 切ない 物語なんだ!

人間の手で 紡ぎ出される

物語たちには 神々さえも

心動かされるよ。

それに

フリーマーケットは 物という

情報の 流通でもあるから

楽しかったよ!

人と 人との交流も 沢山あったしね。

来年も ぜひ やるといい!』


竜樹

「はい、ありがとうございます!」


ミュジーク

『テレビで吟遊詩人や 歌姫達の音楽

スっごく楽しかった!!

クジラの歌も いいね!

秋の競演会も 楽しみにしてる!!』


ランセ

『はいはい 楽しい企画 目白押しだね。

教育番組も あるしね!

では またよろしくね!』


竜樹

「はい!よろしくお願いします!」



それから、ルーベンスの絵を検索してみると、迫力ある絵を見る事ができた。いいねはなかったが、花がまた一輪、ひらりと降ってきた。

これで本当に、今年のフリーマーケットは、終わった、と。

ふすー、と息を吐いて、竜樹は、ツバメやオランネージュ、ネクターにニリヤがいるベットに、パタンと倒れると、ふすふすと眠った。


何もかも、また明日からの始まりだ。




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