おとこらしく
「ラフィネさん、サン君と会えて良かったわね。私も、今日、エフォールに会えたわ!」
「はい、コリエお姉さん。ありがとうございます。サンだけじゃなくて、沢山の子供が出来たんです。この子達は、セリューとロンです。お姉さんも、エフォール様に会えて、良かったですね。」
ええ、ええ。
女性同志、子供に会う事ができた喜びを分かち合って、手を握り合ってフリフリしている。セリューとロンが、はじめまして?はじめまして!とコリエに挨拶すると、まぁ、ちゃんとご挨拶できて偉いわ、良い子ね。とコリエは2人をなでなでした。
ニコニコしていたコリエだったが、ハッと何かに気づくと、手を口元に当てて。
「何か、揉めているわ。」
竜樹がエフォールのお店を振り返る。
そこでは、貴族の子らしい少女2人と、やはり貴族の男の子1人が揉めていた。どちらの子達も、ニリヤより一回り大きいから、6〜8歳位だろう。
エフォールは、困った顔で手を差し伸べて、止めたい感じに声を掛けている。
「何だろうね、揉めてるね。コリエさん、これは行ってみないと!」
「えっ、えっ!?でも、ああ、エフォール、どうしたのかしら?もう少し、少しだけ近くに、行ってみようかしら?」
「いこ、いこ!」
「たつきとうさんが、おはなしきいてくれるよ!」
セリューとロンに両手を取られて、あら、あらら、ええっ?という間に、エフォールのお店の前まで。
エフォールは、初めてのフリーマーケット、初めてのお店でドキドキしながらも、順調に切り盛りしていた。
通りかかるお客様から、ぬいぐるみや繊細な編み物のアクセサリーを見て、うわぁ可愛い!という声に、「良かったら、見ていってください〜。」と呼びかけるのは、周りから段々にやるようになっていったのを真似したのだ。みんなお店を開くのは初めてだから、手探りだけど、段々お店っぽくなってきて、慣れた頃に終わるのだろう。
どのアクセサリーにしようか、迷うお客様に、エフォールが思う、似合う色味のをおすすめする。
平民の小さな女の子が、どうしてもこれが欲しいの!ってお父さんにねだって、ウサギちゃんのぬいぐるみを買っていったり。
私も編み物するけれど、こういうぬいぐるみは作った事なかったわ〜、よく出来てるわね、と言う老婦人と編み物談義したり。
沢山の人と話をして。
「エフォール、お店って、とっても楽しいのね。お父様は領地でお店にも関わるお仕事しているけれど、お母様はお店で売るのは、初めてなのよ。家でいっぱい頑張って、編み物した甲斐があったわねぇ。」
今日のエフォールの相棒は、お母様。
パンセ伯爵家の、エフォールの育ての親、リオン夫人である。女性にしては大きく、すっと背筋が良い。金髪と金の瞳が麗しい。
「うん、お母様!お客様とお話しながら、作ったものを気に入って買ってもらうって、私、すごくすき!」
「良かったわねぇ。ふふ。将来、うちの領地の手伝いをしながら、編み物屋さんをやるのも良いかもねぇ。」
「本当?お母様!私、両方できるかな?」
エフォールの頭を撫でて、あなたなら、出来るわよ、とリオン夫人は言った。頑張り屋さんのエフォールが、立ちたい、編みたい、お兄様の手伝いをしたいと、夢を見始めたのはついこの間から。
持ち込んだ水筒に入れてもらった、出店の果実水を、2人して分け合って飲むのも嬉しい。父親であるパンセ伯爵家当主のエスポワールから、重々面倒を見るように、と仰せつかった従者も、ニッコリ2人の様子を見ている。
まったり店番していると。
「あ、ぬいぐるみ、可愛いわ!」
「本当ね。かわいい〜!」
貴族の女の子2人が通りかかって、エフォールのぬいぐるみを褒めてくれた。
「良かったら、見ていってください!」
どうする、どうする?と2人で話し合った女の子達は、見せてもらいましょう!と結論が出たらしく、お店に寄ってくれた。
「見せていただける?ぬいぐるみ、そちらのご夫人が作ったの?」
「いいえ、私が作ったんですよ。」
エフォールは、ちょっと得意になって、言った。
その時、通りかかった貴族の男の子が、ビクン!と震えて、一体のピンクのクマちゃんぬいぐるみをじいーっ、じいっと見つめて。それから、くっと唇を噛み締めると。
「ぬいぐるみなんて、赤ちゃんじゃないんだから。くだらない!」
フッと瞳を逸らし、吐き捨てた。
かちんときて、それを流せなかったのは。エフォールではなく、お客様の女の子2人だった。
「ちょっと!ぬいぐるみのどこが悪いっていうのよ!かわいいじゃない!」
「そうよそうよ!それに、お店の前でわるぐち、言うなんて、失礼よ!」
あわわわわ。
エフォールは手を差し伸べて、止めたいが、まだ子供同士の諍いごとに慣れていないので、止め方が分からない。王子達やジェム達は、歳の差があったり、仕事で協力し合ったりしなければならないからか、あんまり喧嘩ってしないのだ。争いぽくなると、すぐジェムや大きい子達が仲裁するし、そもそも男の喧嘩と違うし。
リオン夫人は、ちょっと面白そうな顔をして、黙って見守っている。
「あの、あの。ピンクのクマちゃん、気に入らなかったですか?他のもありますから、良かったら、見ていってください?」
エフォールが何とか声をかける。
「わ、私は!ぬいぐるみなんか、見ないっ!」
女の子に抗議されて、ウッとタジタジになっていた男の子は、エフォールの言葉にカアッと頬を赤くして拒絶した。
「作った人の前で、ぬいぐるみなんか、って、なによ!」
「私達は気に入ってみてるのに!」
こういう時の女の子は、強いのだ。
何だ何だ、と周りのお店やお客さんも聞き咎めて、大丈夫かな、って顔をしている。
「•••これ、君が作ったのか?」
男の子が、女の子達の抗議をスルーして、ピンクのクマちゃんを睨みつけながら、エフォールに聞いた。
「はい、そうですよ。」
何が気に障ったんだろう?分からないが、男の子は、うーっと今にも唸り出しそうなくらいな顔で。
「男なのに、編み物なんて、変なの!!おとこらしくないよ!」
まぁっ!
女の子達は憤懣やる方なく。
「あなたに関係ないじゃない!私はすてきっておもうわ!」
「私もよ!こんな人、気にする事ないわ!」
エフォールに助太刀を。
「おとこらしくなくても、私は編み物がすきだから。すきだから、やるし、将来は、お店をもちたいし。」
それに私は、おとこらしいこと、ほとんどできないから。身体の都合で。
エフォールは目を伏せる。
それを聞いて、グッ、と何かを飲み込んだ男の子だったが。
「•••男は、男らしくないと、いけないんだ•••!」
苦しそうに唇を噛んで。
「わ、私は、好きな事を好きって言えるのは、男らしいと思います!」
ベージュに白金の髪がさらりと揺れて、コリエが。
手を組んで胸の前に、真剣に。
苦しそうな男の子に、怒ってる女の子達、困ったエフォールに、見守るリオン夫人、と、不思議な雰囲気の争いの中、ひょこりと現れて、言い募った。
おや、とリオン夫人が、瞳をぴかりと光らせて、またまた面白そうに微笑んだ。
「何を揉めてるんだい〜、みんな。ほらほら、俺は運営のおじさんだよ。困った事があったら、相談してみて〜。」
「竜樹様!」
竜樹が黄色い、運営と書かれた腕章を見せて現れると、エフォールはホッとして表情を緩めた。
周りのお店やお客さんも、緩んで。良かった運営来たと、立ち去っていく人もいる。
「この方が、お店のわるぐちを言ったのよ!」
「すきじゃないなら、わるぐち言わないで、関わらなければいいのに!」
女の子達は、正当性を主張して、プン!と腰に手を当てる。
「わ、わるぐちじゃない!ただ、男は、おとこらしくないと、いけないから•••。」
グッと唇を噛んだまま、男の子は俯いて何も言わなくなってしまった。言われているエフォールより、よっぽど泣き出しそうで、でも堪えて。
コリエは、ハラハラして、エフォールを見つめた。




