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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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教会のこどもたち

本部でのご飯前、教会の出店に寄った時のこと。


並んだ列の凄さに慄いたが。それと同時に、列がはける速さにも驚き、子供達と竜樹は、いそいそと列に並んだのだった。

テレビの吟遊詩人達の歌を2曲聴く間に、順番が回ってきて、たい焼きとベビーカステラを焼いている目の前にやってきた。教会が抱える子供達は、竜樹に会うのは、夢の中以来、初めてである。不思議な感覚で、竜樹は声をかける。


「美味しそうだね!作ってるお菓子を買いに来たよ。こんにちは、畠中竜樹です。みんな頑張ってるねえ。」

いらっしゃい、と言った後、竜樹の顔を見て、ポポッと顔を赤らめた、12、13歳くらいの、たい焼き担当の男の子。そばかすが可愛い。夢の中ではお母さんとお父さんに抱きしめられて号泣していた子だ。名前はサクレという。

母親が、この子は生真面目すぎるから、この先辛い事を我慢して、悲しい思いをしやしないか心配なのです、と竜樹に言っていた。

竜樹は、真面目なのは良い事だから、ただ気持ちがいっぱいになって、壊れないように、楽しい事を見つけていきましょうね、と言うと、うんうんと母親も父親も頷き、ぎゅうぎゅうと竜樹の手を握りしめて、息子を万感の思いを込めて抱きしめて、消えていった。


竜樹は夢でみた子供のことを、一人残さず覚えている。今までにこんな才能はなかったので、多分、神様特典みたいなものだろうと思っているが、一生の思いを込めて託された子供達だから、覚えていられるのは嬉しいことだ。


「色んな餡があるんだねえ。たくさん買っても大丈夫?焼くの随分速いみたいで、あまり待たなかったよ。」

「は、はい!たくさん買っても大丈夫です!魔道具の焼き型だから、すぐに中まで焼けて、生焼けなんかもない仕組みです。安心して食べられます!」

意気込んで返事をするサクレに、ヘェ〜、と感心して、便利な道具があるんだねぇ、火傷とか、気をつけて、休憩もとってね。と労った。


「竜樹様、私共も気をつけて見ているので、大丈夫ですよ。」

初めてお目にかかります、助祭をしております。と、緊張した顔の、20代くらいの男性が挨拶してくる。あと1人、40代位の女性が、屋台を運営している子供達の後ろで、穏やかに微笑んで、ペコリと頭を下げた。

サクレや他の、たい焼きの包装をやったり、ベビーカステラや文字ビスケットを売ったりしている子供達を、教会の大人は基本的に手を出さずに見守り、何かあった時には大人が対応するのだそうだ。ちゃんと必ず大人が付いています、と胸に手を当てて、助祭が請け負った。

竜樹も、安心しました、と微笑みペコッと頭を下げ、まずは注文する事にした。


「味が6種類あるんだね。あんこ、カスタード、杏入り餡、胡麻餡、白餡、お好みたい焼き。どれも10個ずつ買ったのでいいかな。」

全部で60個もあれば、子供達と護衛さんまで含めたみんなに、1、2匹ずつ行き渡るだろう。

「ベビーカステラも20個入りを1袋。みんな、俺のお任せでいいかい?」

「「「いいよ〜!」」」

「は〜い、ありがとうございます!焼きたてをお出ししますので、焼けるまで少々お待ちください!」

「お待ち下さい!」


ベビーカステラ焼き担当の子は、女の子で、クーランという。14歳。貧しさから父母に花街に売られて、そこで下働きと花の見習いをしていたが、今回の未成年を守る法律のお陰で、教会に引き渡された。

もうすぐ花になる所で、危なかった子である。

夢では、クーランに面影が似ているお祖母さんが、竜樹に、まだ子供なのに、もうすぐ無惨に散らされる所だった、助かった、ありがとうありがとう、と何度も礼を言っていた。

クーランは、お祖母さんに、私でも好きな人と結婚できる?と不安げに聞いて、できるできる!と竜樹とお祖母さんに、背中をポンポンされたのだ。


「もじのびすけっとも、たべてください!」

「みんなで、やきました!」

かけられた声に、ん?と視線を下にやると、屋台の売り台から、女の子と男の子のちびちゃんたちが、頭半分、覗かせている。

「そうだね!文字ビスケットも、5袋もらおうか!ランにグラス、お願いするね。」

名前を呼べば、ぼくたちのなまえ!しってた!しってたね!と顔を見合わせて、ふす!と鼻息を荒くした。


ランとグラスは、双子の兄妹で、竜樹は夢で、亡くなったであろう素朴な風体の父親から、ランは元気な男の子、グラスはおしゃまな女の子。どちらも父親には似ず賢いから、勉強を教えてくれて嬉しいと、涙ながらにお礼を言われたのを思い出す。母親が失踪して放置された子で、大人の女性には警戒する、とも報告を受けている。

お店やさんに出られるくらい、落ち着いたのかな、と竜樹は思い、ランとグラスをよしよしと撫でた。

くすぐったそうにした後、ランとグラスは、ビスケットの袋を5つ、差し出した。

「ありがと、ござます!」

「ございます!」

竜樹の出した両手に渡されたビスケットを、タカラがそっと手を出して受け取り、肩から下げていたトートバッグに大事に入れる。


たい焼きも、とろーり生地を片側に入れて、餡差し、という長方形のあんこを切って差し入れる道具から、チャキチャキとあんこが落とされる。

「上手だね、サクレ。ちゃんと背鰭と尻尾の方にも、あんこが入るんだね。」

「! はい!けっこう、練習したから、おいしく焼けると思います!」

サクレは自分の名前も呼ばれて、嬉しく、ますます張り切って焼いた。


焼いている所を見るのは楽しい。

ニリヤ達も、ほわわ、とお口を開けて、背伸びして、見入っている。


「クーラン、教会暮らしは、どうだい?」


ポワッ、と頬を上気させて。ベビーカステラの開いた焼き型を、カチンと両合わせしたクーランは、シュワわ、と焼ける音と共に、呟いた。

「下働きの時みたいに、忙しくないから、何をしていいか、分からなかった、です。でも、ベビーカステラ焼いたり、勉強できたり、するから、段々、大丈夫に、なってきたかも。お客様が、男の大人の人でも、ベビーカステラ買うような人は、大体こわくないし。」


「そうなんだ。良かったね。怖くないのは、いいことだね。」

「はい。」

ちりりん!と音がする。焼き型の手元の石がぴっかり光って、中まで焼けた合図を出す。

クーランは、かちっと焼き型を開き、千枚通しで、ポポポポポポンポン!とベビーカステラを引っ掛けて取り出していく。

ふわぁ!とニリヤ達が歓声を上げて、すごいね!おねえさん!と話しかける。

うふふ、ありがとう。クーランは、嬉しそうに袋にベビーカステラを詰めた。


お金をタカラが払って。じゃあまたね、みんながんばりすぎずに、頑張るんだよ。と別れようとして。


「あ、あの!!」

サクレが竜樹を呼び止めた。


「ご、午後も良かったら、来てください!午後は焼く係が、交代するから、あいつらも、た、竜樹父さんに、会いたいって、きっと思うから。お願いします!」

「たつきとうさん!またきて!」

「まってるから!」

「私達、ずっと、竜樹父さんに、会いたかった•••。」


子供達は、頼りが竜樹だと知っている。縋るような目は、胸を引っ掻く。

もっと早く教会に会いに来るのだったな、名前を呼んであげることくらいしか、出来なくても。竜樹は後悔した。


助祭は、お忙しい方だから、ね、と宥めているが、会うとも会うとも。同じ広場内にいるんだし。

1人1人に、手を差し伸べる。順番にギュッと握って、ふりふりと振る。どの子も、手は熱く、小さく、少し湿っていた。


「お土産用に、たい焼きを全種類15こずつと、ベビーカステラを30個を1袋、文字ビスケットを2袋、ゆっくりでいいから、用意しておいてくれる?午後終わるまでに、取りにくるからね。会いにくるから、よろしくね。」


ふわぁ!とほころぶように笑う子供達に。

約束は、必ず果たさねばなるまい、と竜樹は強く思った。




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