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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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絵はがきをかって

『は〜い!それでは中継です!フリーマーケット会場、中程にあります、貴族の一般参加ブースに来ています。子供報道員さん達、お願いしま〜す!』


広場大画面テレビの画像が切り替わって、スーリールやニリヤ達を映し出す。会場の一般参加のお店、その一つ。何枚もの絵が、高さもある階段状の棚を使ってディスプレイされている。飾られているのは、ほとんどが水彩の絵葉書だが、中には精緻な油絵もある。


『は〜い。子供ほうどういんの、プランです。今は、ニリヤ様が、絵のお店を気になっていて、じっとみてます。ニリヤ様、テレビだよ。しゅざいしないと。』

『はっ! しゅざい!ここのおみせの、え、とってもすてきなの。きになるの。かあさまと、いっしょにおえかきしたの、おもえるの。』

『おもいだすの?』

『うん。きれいな、いろ。まぜすぎると、くろくなるの。でも、いろいっぱいなのに、きれいなの。すてき•••。』


『あ、ありがとう、気に入ってくれて。』

ニコニコ!


「あ、甥っ子です!」


ボンの甥っ子ちゃんのお店に行こう、と。オランネージュや、ジェム達、アルディ王子の子供新聞記者の面々と、ボンの案内で歩いている時だった。

広場前大画面テレビに、ニリヤ達の中継が映り、そしてそこが。


「おおー。ニリヤ達、ボンの甥っ子ちゃんのお店にいるのか。」

何という偶然。いや、偶然じゃなくて、必然かもしれない。物事は、バラバラのようで繋がっているから。いや、バラバラの出来事を、出会う個人が関わることで、繋げていくのだ。ニリヤはたまたま、通りかかって気になったのだろう。神様達の微笑みが見えるようだ。


『ここのおみせは、えのおみせ?みんな、きみがかいたの?ぼく、だいさんおうじ、ニリヤです。きょうは、こどもほうどういんで、テレビのしゅざいです。』

『俺たちも、子供ほうどういんだよ。プランです。』

『サージュです。』

『僕、ジェアンテ侯爵家のロビュスト。紙のやつは、僕が描いたよ。油絵は、おじさまが描いたの。』

ロビュストは、丁寧にニリヤ達に、絵をみせながら自己紹介する。紺色の髪紺色の目の、ちょっと猫目な、ニコッとした口元も愛嬌のある少年だ。歳は、オランネージュくらいだろうか。


『へー!おみせ、え、うれた?』

『あんまりいっぱいは、売れてないよ。でも、見てくれる人は、みんな、ちょっとずつ、気に入った、とか、きれい、とか言って買ってくれるから。僕、絵を描くのが好きなだけだったんだけど、見てもらえるのも良いなって思った。お店、楽しいよ!』

楽しいねぇ。

ニリヤもプランもサージュも、ウフフと楽しげにロビュストと話していく。


『僕、にがおえも、やってるよ。オランネージュ様の写真もすてきだけど、きれいな色をつかった、絵もいかが?写真があるから、絵はいらない、っておじさまは言われたらしいんだけど、僕、そんな事ないっておもうんだ。絵って、自由だもの!どんな風にも遊べるんだ。絵はがきになるから、誰かにゆうびんで、送れるよ!』


「絵は自由•••。」

ボンは、テレビ画面を見ながら、ギュッと拳を握る。


『ぼく、かう!かいてほしいの。かぞくしゃしん、もってるけど、じいちゃまとばぁちゃまに、おてがみかくの。えはがきで!』

んと、んと、と、首に掛かった紐を手繰って、シャツの襟の中に入れていた巾着袋を出す。

『どうか、5まいで、かいてくれる?』

『3まいでいいよ。好きな色は、ふたつ、なにいろ?』

『ぴんくと、きみどり!』


ピンクと黄緑ね。と言って、ロビュストはニリヤをジッ、と見て、水入れに筆をさすと、パレットをするりと撫で、さらり、さらり、と絵筆を動かし始めた。

テレビカメラは、モデルになったニリヤを映し、それから真剣に、でも楽しそうに描くロビュストを映し、描かれる絵の手元を、ジィーッと長撮りして映した。


「綺麗なものだね。ピンクと黄緑を、ちゃんと使って、お花のデザインが背景に咲いて、ニリヤの特徴が、良く出てる。」

「ええ•••。」


悔しい。とボンは思った。

ボンは、甥っ子ロビュストより、長い事、絵を描いてきたのに。職業にさえしてきたのに、絵の良さを分かっていなかった。自由というのは、ロビュストの事だろう。囚われずに、伸び伸びと絵を描くロビュストが、羨ましい。


負けては、いられない。


「行きましょう!甥っ子の絵も、私の絵も、どうか見て下さい!まずはこの、フリーマーケットのお店屋さんを、楽しんでみたいです!」

「おお!行きましょう。」

「行こう行こう!」


『できた!今、まほうで乾かすからね。僕、ちょっとだけまほう使えるんだ。』

『『へえー!』』

ふわり。ロビュストが手をかざすと、紙が靡いて、一瞬で乾く。

『出来上がり!どう?』


目を大きく開いて、ニリヤは渡された絵はがきを見て、キャハ!と笑い声を漏らした。テレビカメラは、ニリヤ越しに完成した絵を映している。

『すてき!ぼく、かっこいい!』

『へえ〜!上手だねえ。ニリヤ様に、ちゃんと似てる。』

『ほんとにきれいな色だね!』


ウフッ。

『割とよくできたよ。銅貨3まいもらうね。買ってくれてありがとう!』



「ニリヤ!プラン、サージュ!中継、ご苦労様でした!」

「あ、ししょう!えはがき、もらった〜!」

「竜樹父さん、ちゅうけい、みてくれた?」

「俺たち、一回ずつ、きにいったお店に取材するんだ〜!」


見たよ見たよ、よくできてたよ!と竜樹が言えば、3人共得意気な顔をして。


「ボンおじさま!遅かったね。どこにいってたの?」

「う、うん、ちょっとね。ロビュスト、テレビに映ってたぞ、良く描けてたじゃないか。」

「うん、ニリヤ殿下に買ってもらえたんだ、絵はがき。おじさまの油絵も、1まい売れたよ。川の流れを描いたやつ。」


売れてた。

ボンは、ハッとしてロビュストの言葉を飲み込む。


「故郷のけしきに、似てるって。懐かしくて、うれしい、って言ってたよ。お部屋にかざりたいんだって、お客さん。」


そうか。

そうかぁ。


ロビュストの髪を、くしゃくしゃにして撫でた。


竜樹達はボンの絵を見る事ができた。

とても丁寧に描かれた、どこか郷愁のある、地味だが味のある絵だった。

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