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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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写真館にて


オランネージュの写真館は、2か所に分かれている。会場の東西、どちらの写真館でも、貴族も平民も撮影してくれるが、列は2つに分かれていて、カメラも2台ある。待ち時間が長そうなので、トラブルを避ける為だ。尚、並び順は、早い者が先で、身分の差で入れ替えはご法度である。

近いので東側の方へ行くと、丁度オランネージュはそこにいた。猫耳のキャスケット帽をかぶって。


「はい〜撮りますよ、笑って笑って。」

「赤ちゃん可愛いね〜、ほらこっち向いて〜。猫ちゃんだよ〜ニャンニャン!」


簡単に背景に布が張ってあり、人物が映えるようになっている。照明もキラッと照らして、顔映りもいい。カメラマンの横に並び、カメラのレンズの上で。オランネージュが、エフォールに作ってもらった、お気に入りの猫ちゃんぬいぐるみを、ニャンニャン、と振った。キャキャ!と笑う赤ちゃんの視線も、笑顔も、バッチリである!


何枚か撮影したら、お客様に、写した画面を見せながら、どれが良いですかね〜?これなんか、笑顔がよく撮れてますよ、なんてお話して決めて、それを魔道具でプリントする。ピッと印刷機にデータを送って、レバーをガチャン、ぐーっと押して、ぐるぐる取手を回すと、どういう仕組みか、ウニーとピカピカの写真が出てくる。

それを、お客様も、ワクワクと見つめて。ふわぁ、と歓声。


「素敵に撮れたわ!ブロマイドみたい!」

「ああ、家に飾っておこう!良い記念になるね。子供の成長を、ちょくちょく撮りたいけど、この写真館って、今日だけなのですか?」

オランネージュがすかさず。

「写真館は、2ヶ所、貴族向けと平民向けで、街中に開店しますよ!今日はその2店が協力して、りんじの写真館をやってるんです。また、何かの記念に、今度は街中の写真館におこしください。今日みたいに、簡単なお化粧直しや、姿をととのえてくれる、びよういん達も、写真館にいますからね!」


あと、飾るためのフレームもこちらで売ってます!いくつか、フレームが選べますよ!素朴な木のフレーム、キラキラした色ガラスのもの、金属の洗練されたもの、同じく金属だけど、ふるい色を出したエレガントなやさしいフレーム。写真の保護もできますから、よかったら、ゆっくり選んで、写真を入れて帰られては?


「まあ!どれか、いただきたいわ!どれにしようかしら•••。」


う〜ん商売上手。

お客様の対応が一旦途切れた所で、竜樹はオランネージュに声をかけた。

「お〜いオランネージュ。写真館、繁盛してるね。」

「あ、竜樹ぃ!」

タタタ、と駆け寄ってくるオランネージュは、頬を紅潮させて、興奮しているようだった。一生懸命、報告してくれる。


「お店やさんて、楽しいね!皆、良い記念だね、って笑ってくれるんだよ。厳しい顔したお爺さんなんかも、この猫ちゃんぬいぐるみのトリコ!ちょっと目元が微笑んでくれるだけで、良くなるから!」

ウフフ、とイタズラっぽく笑う。


「良かったなぁオランネージュ。」

「うん!もう片方の西の写真館にも、午後から行くつもり。会場もすこしまわりたいけど、なんだか写真館がたのしいから、どうしようかなぁ!」

猫ちゃんぬいぐるみをギュッと抱きしめ、フリフリ振って、キラキラお目目のオランネージュだった。


「やっぱり、写真、人気ですよね•••。」

何故かショボン、としたグラン公爵家のボンに、オランネージュが気付き、声をかける。

「初めまして。私は第一王子、オランネージュです。竜樹と一緒ってことは、何か困ったことがある人なのかな?写真、人気だと、まずかった?」

ハッ、と、オランネージュの前で写真館の繁盛を残念がるという失言に、焦ったボンは、ササっと跪こうとし。いやいや、今日は礼は、いいからね、とフリフリ手を振ってオランネージュが王子の微笑みをするのに、口をぎゅむと閉じて、胸に手を当てて目礼をした。


「お声がけいただき、光栄に存じます。私、グラン公爵家の三男、ボンと申します。本日は、ギフトの御方様に同行させていただき、困り事を何とかするきっかけを、考える機会をいただきました。」

「やっぱり、困り事があるんだね。それって何?」

ん?何だい?

ニパァ〜と笑うオランネージュは、逃がさない。ボンはタジタジとなって、う、う、と唸った。

「いやあ〜、グラン公爵家のボン様は、俺に頼りきるんじゃなくて、自分で考えてみたいんだって。」

竜樹が助け舟を出すが。

「それって、それほど困ってないってこと?何でもいいから、キッカケがあるなら、って思うじゃない?」

うっ、うう!

ガーン!とボンはショックを受けて、胸を抑える。


「竜樹は、自分では、子供は育てるけど、実務はお任せしてくれるし、やるもやらないも、やり方を私たちに合うように、どう工夫するかも、任せてくれるから。聞いてみたらいいじゃない?何に困ってるか。」

う、ううう。ガクン。

あ、落ちた。

「そ、そうですね。私の些細な、些細な矜持にこだわって、機会を逃しては、絵画のこれからの発展に、暗雲が。」

んむむむむ、と悩ましく唸って、はー、とため息をつく。

いやいやいや。

「矜持大事。自分が頑張るために必要なら、だいじにするんだよ?」

「いえっ!もう!私など、私の絵画の腕で矜持など!」

ぶるるるる、と頭と手をいやいやいやと振って下がっていくボン。あちゃー。自分で自分を卑下しなくて良いんだよ〜。


「私、一休みしたかったんだ!隣の出店に、間引いた未熟なかんきつの、美味しい果実水が出てるから、座って皆んなでのまない?ゆっくり話しようよ。」

ウフッ面白そう!

オランネージュ、心の声が漏れてるよ。


オランネージュの従者が、果実水を人数分お盆に乗せて買ってきてくれた。写真館の休憩室で、ボンの話を、オランネージュと竜樹とタカラとマルサで聞く。仮の間仕切りをしただけの、オープンなスペースなので、オランネージュに付いた護衛などは、姿の見える所で守っている。


「のもうのもう!これも、竜樹の案で出てきた果実水だよ。もっと幼い果実は、精油をとって、髪につけたりするんだって。」

「地方では、自家製で酢みたいに使っていたんだよねえ。」

コク、コク。さっぱり酸っぱくて、美味しい。

「•••で?ボン、何を困っているの?」

ボンは、指をもじもじ絡ませながら、話を始めた。

「私は、絵が好きなんです。」

うん、うん。


グラン公爵家は、絵画の収集に熱心な家柄で、家に沢山の絵画や美術品があったそうだ。幼い頃から美しい物や絵画に触れて育ったボンは、それらがとても好きだった。親達も美術品について一家言あったので、ボンも熱心にそれを吸収した。知識だけでなく、油絵や水彩、陶芸に彫刻と、貪欲に技術を習得した。


「というか、他の事が、私、全くできませんで•••。政治もダメ、計算も、文章も、美術に関してでなければ、どれもダメ。人付き合いはできるけど、領地の為に、細々とした売り込みが出来ない。美しいものについてなら、幾らでも話ができるのですが•••。」

「バラン王兄みたいだね。」


いやいや、とボンは眉を下げる。

「バラン王兄殿下のように、音楽で芸術に貢献できるような、そういう働きができる訳ではないのです。」


何か職を奉じる事ができなければ、遊びの人生になってしまう。ボンの父や母、祖父母に兄達は、お金に困っている訳じゃなし、お前は美術品に触れていれば、それで良いんじゃない、なんて、甘やかしてくれるのだが。


うん、貴族って優雅だな。

竜樹は遠い目になった。ジェム達を思えば、贅沢なのだが、人により悩みは様々だ。


「私は、美術の何らかで、職を得たかった。一通りはできるんです。でも、突き抜けた才能は、どの作品にも、ない•••。整っていて、よく出来た作品だね、とは言われても、嫌われてもいいから人をガツンと引き寄せる魅力は、ない。私は、それでも他の事ができない。だから。」


肖像画を描く、工房に入りました。




ああ〜。


「それで写真。」

「はい•••。写真は素晴らしいです。見たままの美しさ、時を閉じ込めて、ありありと記録できる。私も写真に魅了されましたが。仕事の肖像画は。」


ボンは、貴族の坊ちゃんの道楽、と言われながらも、工房で幾許かの給金を得て、働いていた。だが、写真が出来て、王様一家が撮影したり、ブロマイドが売られたりすると、皆の興味は絵画から写真に移ってしまった。


「実際、注文は減っています。写真館ができると噂を聞いて、皆それを待っているのです。工房は、まだ技術が拙い者、見習いを首切りしました。時代はどんどん変わっていく。肖像画が、今以上に隆盛する事はないでしょう。そして私も、首切り、されました。」

すまないな、首を切られて困る者は、切る事が出来ない。ボン様は、貴族だしお金に困ってないから、大丈夫だろう?


「私は、整った真面目な絵しか描けません。だから、肖像画工房は、天職のように感じていました。才能に、ちょっと諦めもあったけど、仕事にまあまあ満足して働いていました。でも、もう仕事が出来ません。私一人なら良いけれど、甥っ子が。」


嫁いだ姉の子が。絵の才能があるのだ。


「もちろんまだ子供で、拙い技術です。でも、人をハッとさせる、輝きがある。このフリーマーケットでも、似顔絵と絵葉書を売っています。私はそれを、ちょっと悔しいと思いますけど、応援したい。でも。」


人物も、風景も、写真があれば絵画は、要らないんじゃないか。時代遅れだ。


「そんな風に言う人も、いるのです。」


「そんな訳、あるかー!」

竜樹は思わず叫んだ。

そうしてグビッと果実水を飲むと、はーどうしたもんか、と頭を抱えた。



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