おじさんと幼女
結局、クジラの歌の原曲を、みんな聴きたい、それからじゃないと歌えない!ほけほけと自分が歌ってる番に、聴き逃す訳にはいかない!と詰め寄られたので、カメラとマイクにスマホを近づけて、会場に流してみた。
陽気な歌と合いの手、ノリノリに身体を揺する音楽の使徒達。元々子供番組の歌だった事もあって、子供達も、楽しんでくれた。笑った声が、あちこちで聞かれた。
ちょっとこの国の音楽にしては、テンポが速い所もあるかな、と竜樹は心配したのだが、無事受け入れてもらえたようだ。
いいねは、100いいねが消費された。聴く人が多かったからだろう。幸運、作った人や歌った人に、是非訪れて下さい。
『さあお次は?』
舞台に上がってくる吟遊詩人に、侍従さんアシスタントがマイクを用意。リュートを手に、スタンドにマイクを差し、調整。座って歌うのに椅子と楽器用のマイクも。のんびりゆるい感じでやっていく。そして自己紹介から。
『はい!私は南地方を主に旅してきた、フェットと申します。お見知り置きを。』
『フェットさん。南地方は、どんな所ですか?』
『日の光が明るくて、果樹も沢山の、花がいっぱいの土地です。人々も陽気で、働き者。歌好きです。』
『じゃあ、得意なのは、陽気な曲?』
『はい!これから歌う曲は、娘さんが若者に恋して、お祭りの日に私を誘って欲しい、とお願いする曲です。題名はーーーー。』
はーっ。
竜樹はため息をついた。いきなり歌う事になるとは、思わなかった。夢みるおっとり垂れ目のバラン王兄が、ふふふと笑いながら、肩に手をポンと乗せてきた。
「なかなかの美声だったじゃないか、竜樹君。それに、曲も素敵だった。音が踊るようだったね!君も踊ってたし。」
歌いながら、なんか変なノリで、振りがついてしまったのだ。護衛のマルサ王弟が、後ろでプププと笑っている。
「お褒めいただき、光栄です。歌ったの、久しぶりだったなぁ。」
バラン王兄の従者が、籠に入れ紙でお捻りに作った銀貨を、恭しく差し出して。バラン王兄が一つを取って渡してきた。
「俺にまで、いいですよ。」
「いやいや決まりだし縁起物だから。会場のみんなの出品物を、買ってあげて。子供達にも、お小遣い渡したんだって?」
「はい。銅貨5枚ずつ。ちょっとだけど、何とか教会の子達や、新聞配達に新しく雇われた、新聞配達寮の子達にも配れて、良かったです。」
ばら撒くつもりはないけど、お祭りらしき時に、お小遣い貰えるのは、子供の楽しみだと思うのだ。寮に住まわせて貰って、働かせてもらって勉強も教えてもらえる上に、貰えない!と言った子もいたそうだが、今回は特別だよ、子供のお祭りだから、と言って貰ってもらった。
「王子達も、何か買えたら良いなぁ、なんて楽しそうに言ってましたよ。銅貨の入った巾着袋を、首から下げて。」
「良い事だ。こういう場であまりに贅沢したり、無理に買う事はないが、我々王族が、率先して経済に貢献しないとね。出店するのも良いけど、会場歩きや買い物も楽しめると良いね。」
「ですね!」
それから、新聞で告知していたので、本当に秋の音楽競演会の練習みたいに、フリーマーケットに合わせて全国から吟遊詩人や歌姫の皆さんが来てくれたんだ。と、バラン王兄が嬉しそうに笑った。歌声喫茶やキャバレーで職に就けた音楽の使徒も割といて、地方でも歌声喫茶は広がる予定が既にあり。執事喫茶にメイド喫茶も、室内音楽を生で、バックにそっと流して雰囲気作ったりしているので、音楽関係は盛り上がっているよ!とニッコリした。
「後は讃美歌だが、年末の祭礼の時に披露できればな、と鋭意作曲中だよ。音楽番組の出演者も、今日や、秋の競演会で、ある程度、目星をつけときたいね。個人でテレビを買える時期に合わせて、音楽番組やりたいしね。」
ムフフ、とやる気充分のバラン王兄であった。
「それじゃ俺は会場回ってきますね!舞台の事、よろしくお願いします!」
「私とパージュに任せたまえ!良い1日を!」
手を大きく振るバラン王兄に、手を振り返しながら、さてまずどこに行こう。
「あの、あの!係員さん!」
「はいはい!?」
そうだ、俺は今日、運営でもあったよ。歩き出したら、足元から声がした。
ニリヤ位の、モスグリーンの、胸元にリボンがついた可愛いワンピースを着た、ふくふくした小さな女の子が、竜樹を見上げて話しかけてきた。淡い珊瑚色の髪を、一部取って三つ編みにして、髪飾りのお花、真っ赤なほっぺも可愛い。
貴族かな。良い所の商人の子かな。
今日は貴族の方々にも、歩きやすい格好と靴で来てください、とお願いしてある。そうでないと、全部従者に回らせて、とか、貴族ゾーンだけちょっと挨拶に回って終わり、となったら、つまらないからだ。だから竜樹には、見分けはつかない。
貴族ゾーンと一般ゾーンに分けたのは、いざこざを避ける為だけれど、今日は基本的に、身分差での話しかけ方などの、触れ合い上の無礼は御免とさせてもらった。
一般の人も、貴族ゾーンの物の良い、けどいらない品物を、お買い得に見られたら嬉しいし、逆に貴族も、一般ゾーンの安くて工夫した手軽なものや、美味しい物をお祭り気分で手に入れたら、いいじゃない。と思った。
だから王子達もガンガンお客さんや参加者に、話しかけて触れ合いする予定なのだ。
その為に、チリに保護魔法の新しいのを開発してもらった。兎に角、何が来ても弾く。魔法も物理攻撃も毒も反応して弾く。護衛もいるし、魔道具版GPSも作って貰ったし、安全性は高い、と思われる。
因みに、貴族ゾーンの場所割は、すっごく面倒だったらしい。この家はあの家と仲が悪くて、こっちと仲がいい、とかあったからである。
考慮して配置したが、完成した後、これも諸々、貴族同士での喧嘩や揉め事は御法度、とさせてもらった。
「お嬢さん、どうしましたか?」
ニコッと腰を折って聞いてやる。
瞳も珊瑚色だ。うるうるさせて、まつ毛に涙が滲んでいる。
「あの、あの、お母様と、はぐれてしまったの。でも、行きたいところ、言ってあるから、そこに行ったかもなの。」
うん。迷子。
「どこに行きたかったの?」
「あの、ネクターでんかの、あらしももシェイクのお店に、どうしても行きたかったの。おいしそうとおもって。でも、どこがお店かわからないの。」
ふむふむ。ネクター、お客さんここにいるよ。
「じゃあ、おじさんと、ネクター殿下のお店に行ってみて、お母さんと会えなかったら、本部の迷子コーナー行こう。見つからなかったら、放送すれば、きっと来てくれるからね。」
「はい!おじ様の、おなまえを、きいてもいいですか?」
顔を傾けて、必死になって聞いてくる。
うーん、女の子も、可愛いものだねぇ。
「畠中竜樹、っていいます。竜樹が名前だよ。」
「たつき、さま?ギフトのかた?」
「そうだよ。」
まぁ、と小さく驚いて、ペコリとお辞儀をする。ホッとした風なのは、名前が一応知られてる人だからか。
「私は、スュクレはくしゃくけの、コライユと申します。よろしくおねがい、いたします。」
「よろしくね〜。じゃあ、おてて繋いで行きましょう。はぐれないようにね。」
「はい!」
幼女とおじさんでは、何とも絵面が危ない感じだが、護衛やタカラなどが付いて来てくれているので、少なくとも犯罪とは思われないと思う。運営、の腕章もしてるし。
コライユちゃんと訪れた、ネクターのシェイク屋さんは、始まったばかりなのにそこそこ混んでいた。人が10人程並んでいる。
「えーっと、嵐プラムのミルクで。」
「はーい!銅貨3枚です!嵐プラムミルク1つ!」
「りょうかーい!」
白いシャツにエプロンの、男性店員が、上が開く冷凍庫のガラスのふたを持ち上げる。ザクッと凍らせた果実をスコップで掬って、ミキサーにイン。冷蔵容器に入った、ミルクを少々。
ガガーッと音がして、とろーりと、ツヤツヤした木の縦長オシャレコップに注ぎ、花模様の書かれたガラスのストローを差して、シェイクの完成である。
注文取り、お金のやり取り、シェイクの作成は、クレールじいちゃんの持ち店、レストランヴィーヴの従業員がやっているが、出来上がったシェイクはネクターがニコッと1人1人に手渡している。嵐桃関連の商品ピックアップや、アンテナショップの地図付きチラシも渡して、どうぞよろしくね、なんて言っている。
そして、ねくたーさまてつだう、と言っていたサンは、飲み終わったコップを受け取って、洗い場に持って行き、コップとストローに分ける係をやっていた。ありがとうございました〜、と恥ずかしがり屋なのにちゃんと言い、一緒懸命に働いている。
忙しそうだなあ、と思って、話しかけはせずに見ていると、コライユちゃんが、「あ。」と言って、手を引っ張る。「お母様!」
はた、とコライユちゃんが引っ張る方を見ると、クワッと目を開き、般若の顔をした、コライユちゃんと似ている珊瑚色お母様が。
「ちょっとあなたどなた!?コライユ!こっちいらっしゃい!コライユをどこに連れて行くつもり!?」
ああ〜おじさん、犯罪者認定か。
ツカツカ、高い踵の靴でこちらに来ると、お母様はバシッと竜樹の手を叩いて、コライユちゃんと離されて。護衛のマルサが、むむ、と前へ出ようとするが、竜樹は、いやいや、と手を振って待ってもらった。
「畠中竜樹と申します。運営です。係員です。迷子だったコライユちゃんを、ここまで連れてきたのは私ですが、悪い者ではありません。」
「大抵悪いやつは、悪くないって言うわよ!ちょっとそこの兵士の方!・・・王弟殿下!?」
はいはい俺がマルサ王弟です。と言いたげに、マルサが、うむ、と1つ、頷いて見せた。
「王弟殿下が何故、うちの娘を!?やはり下賤な血を引いた方は野蛮ね!何をなさろうとされたのかしら!?」
「おか、お母様、違うの、ちがっ!」
もが、とコライユちゃんの口を塞いで。
うん。コライユちゃん。
お母様、ちょっと面倒くさい。




