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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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良く来てくれた

王様は執務室にいると思ったら、誰かと会っているようで、大きな応接室にいるのだ、と執務室に待機していた文官さんとホロウ宰相が教えてくれた。

竜樹様がいらっしゃるなら、会っている人も会いたいかも、とホロウ宰相が取り次いでくれた。誰と会っているのだろう。


と、思ったら。


「ファヴール教皇がいらしてたんですね。お話し中、すみません。」

黒く長い上着がトレードマークの、短い白髪混じり焦茶髪が、相変わらずの眼光の鋭さで、どっしりソファに座っていた。

王様が朗らかに言葉を掛けてくる。


「いや、話したい事もあったから、ちょうどいい。サテリットの父様も、良ければお付き合い下さい。王子達は、良い子に話が聞けるかい?」

「私の身分で高貴な方々のお話にお邪魔いたし、失礼申し上げます。私で良ければ、喜んで。」

「はい、父上!私達、良い子に聞けます!」

「聞けます!」

「いいこ、します!」

うんうん、と王様はにっこりする。

ファヴール教皇は、ニヤリと笑って竜樹に手を招き、来い来いした。


「王様ともお話していたんですがね。竜樹様、花街に教会を建てて欲しいとか?」

四面あるソファの、王様とファヴール教皇が対面して座る、その横の座に、王子達とクレールじいちゃんと竜樹は促されて座り、すぐにファヴール教皇が話しかけてきた。

フフフと不敵な笑みである。


「私共、教会関係者は、紛糾しておりますよ。あのような汚れた地に!と言う者や、苦界の中、救いを待つ彼らにこそ教会ができる事がある、さすがギフトの御方様だ、と燃える者。」

「や、や、そんな大した事じゃなくて。だって、花街、女の子の子供多そうだし。それに、ああいう商売の方達は、割と信心深い所がある、んじゃないかな、と思った次第で。」

祈る所があったら、良いなと思っただけですよ。


「ふむ、ふむ。実務を気にする立場の者としては、効果と採算が気になりますがね。」


うーん。多分、建てたら絶対に流行ると思う、教会。だってラフィネさんのいたお店のお姉さんに聞いたら、市井の人に混じってなかなか行けない人達に、自分達の教会ができるんだもの。


「あの、良かったら、ステンドグラスで採光を効果的に使ったメール神様の教会、作ってみませんか?綺麗で温かな所には、みんな来たいですよ。俺だって、そこにあどけない子供達と聖職者の方がいて、綺麗に清掃されていて、神様が祀られていれば、清らかな気持ちになりますもん。告解室とかあったりして、お話聞いてもらえたら、胸のつかえも、幾分かとれますよ。そして、花街の花の姉さん達はですね。借金がある人もいますが、それでも市井の人達よりは。」

使えるお金、持ってます。


「建てましょう。」


あっさり。

「告解室について説明を。」

ちょいちょい、と指で招いて、ファヴール教皇が促すので。


「誰だって罪を犯してしまう事は、ありますよね?罪悪感持ってる事も。壁と格子で2つに仕切られた、小さな部屋があって、そこで司祭様に罪の告白ができるんです。許しを乞うんですね。司祭様は、そこで聞いた話は神かけて他言してはならない。だから、安心して話せます。そこではメール神様の教会になるから、やはり女性たち特有の、許して欲しい事があったりするかな?と思ったりします。」

お互い、顔が見えないようになっていた、と思います。


「それも、竜樹様の元の教会にあったものですか?」

「はい、そうですよ。俺は家族に話ができたから、そして仏教徒だったから、使った事ないけど、罪に思ってる事を、話せる人がいたら、やっぱり安心しますよね。みんな自分の心を話したい、かなって思います。」


「それは我々聖職者にとっても、修行となるでしょう。」

「かも、しれないですね。人の話を、黙って聞くのって、簡単なようで技術がいりますもの。」

「いや、貴族のボンボンあがりの、市井の苦労を知らない経験不足なエリート司祭には、厳しかろうなと。案外そういう者も、真面目なやつがいるから、真剣に悩んだりしそうだ。」

ふ、と息を吐いて、ファヴール教皇は手を組み顎の下で擦り合わす。

「解決するのではない。ただ話を聞いてやる。それができない事が、結構ある。それを、教会のシステムの中でやるというのは、良いかもしれない。」

「ですね。」

「私はまた。」


私が、娼婦の子供だと知っているから。


「そんな事を言ってきたのかな、と勘ぐりましたよ。」

ニヤッ、といい笑顔で。


竜樹は、ほえっ、と間抜けな声が出た。

「知りませんでしたよ?そうだったんですか?」

「一応隠していますが、出自はそうです。その後孤児になり、前教皇に拾われました。未だに言われますよ、陰口を。花街に教会が建ったら、あいつらまた何か言うな、とは思いますね。まあ、瑣末な事ですが。」

しかし、本当に建ったら、爽快だなあ、とも思いますね!

うっふふ。

ファヴール教皇は、何だか楽しそうである。


「是非ご検討ください。」

「承りました。」


「うむ、うむ。そんな綺麗なメール神様の温かい教会ができたら、さぞかし良かろうな。あとな、竜樹殿。」

王様が頷いて。


「未成年の、幼い女子を売買するのを、国で禁止しようと思う。もちろん国外に売るのも国外から買うのもだ。」

「王様!それは良い事ですが•••反発が。」

クレールじいちゃんも心配そうだ。


まぁまぁ。竜樹殿の慎重な性格は知っているがね。

手を挙げて、抑える。

ひとまず聞こうと、竜樹は口を閉じた。


「それから、未成年の女子に花を売らせる事、花と酒を提供する所での就労を禁止する。破ったら罰則が厳しくあり、また監査も定期的に行う。」


うん。嬉しい。王様。


「王様、花街の元締め達や、裏社会の人間から、嫌われて狙われてしまいませんか?」

嬉しいが、心配である。


ふふふ。

王様は、朗らかに笑って。

「嫌われても、良き事をなすべき時はなす。それが王の役目であろう。」

どや!という顔も、許しちゃう。

王様ぁ!!さすがだヨォ!

オランネージュが、ハッとした顔で、真剣に話を聞いている。


「それに、メール神様から神託まであったそうではないか、花街で?報告を聞いて、きっとこれが、きっかけという奴なのだろうと思った。竜樹殿が、花街に花を売らない花の店を持つと、健全な大人の店で流行らせると、それに乗っかっていくのが、メール神様の御心にも合うだろうと。」


裏社会に嫌われるより、神に嫌われる方が怖い。


肩をすくめる王様に、タハっと竜樹は、笑いが漏れてしまった。



パッ ひらりん。


王様の顔の横で、ピンクの薔薇が。


『良く言いました、私の息子たち。』


あっ 神託。


『私はメール神。ハルサ王、あなたの決断、私が聞き届けました。やんちゃな息子達には、神託を送っておきましょう。何、もしもの時は、母神よりも恐ろしいものはないと、あの息子達は思い知るでしょう。』


『それからファヴール。花街の教会、楽しみにしていますよ。これも、斜めに拗ねた教会の息子達に、神託しておきます。』


『竜樹。差し出口ばかりですまないわね。貴方達が自分でやるのを、見守らなければならないのに。母とは心配性なもの。子供達を守る為には、修羅ともなります。後はなるべく大人しくしているから、これからもよろしくね。ウフフ。』


「「「ありがとうございます、メール神様!」」」


男達は、跪くのみである。

「あたまのなかで、かみさましゃべった!」

「神託っていうんだよ。」

「ありがたーい、んだよ。」

見よう見まねで、王子達も跪く。


「ああ、本当に、ありがたい!この歳で、この職に就いて、初めて直接、神の言葉をいただけた。もう二度と聞ける事はあるまいが、きっと生涯忘れられない!」

本職のファヴール教皇は、感極まって手を組み、祈りを捧げる。

王様も、ふーっと興奮して吐息を漏らした。

神様の薔薇の花。この間ファヴール教皇といた時に貰ったものは、花びらに剥がして押し花の栞にして、年末年始に配ろうと思う在庫の中に入れてしまった。今回は、どうかどうか教会にいただきたい、とファヴール教皇に熱く願われてしまったので、差し上げた。

枯らさないように保存する容器に入れて、メール神様の花街教会に飾りたいそうである。早速保存のケースを、控えていた教会の付き人に持って来させる手配をしている。高級な花屋で、かなりお高いが、売ってるとの事。


「さて、カッコいい王様にプレゼントがあります。」

「うむ?何かね?」

思い当たらないな、という顔した王様に、くふっ!とニリヤが笑う。


「こちらです。」

写真を入れたフレームごと、ギフトの御方マントの下から出してみた。

どれ、と手を出して、ひっくり返してあったフレームの表をはたりと見た王様は。ひゅ、と息を吸った。


「リュビ妃のいたずらですよ。アンジュちゃん、顔が見られて良かったですね。みんな一緒で、いい顔です。」

「•••うむ、うむ。」

ジーンと、染み入るように写真を眺めて。


「あ、ありがとう、ありがとう。竜樹殿、今日は神の声を聞くし、リュビとの家族写真まで。何というか、なんという。」


なんという日であろうか。


目の上に手のひら、グイッと顔をあげて、頬には涙が溢れていた。


「それから王妃様にも。」


なんと、王妃様とリュビ妃の、にっこり仲良く腕を組んでいる写真もあったのだった。リュビ様、ノリノリだな。

「ハハハ!姉妹のようだな!マルグリットもさぞかし喜ぶだろう!竜樹殿、本当に、本当に、この国に、ここに来てくれて、ありがとう。」

テーブルにフレームを置くと、がしっと両手を取って、ぐぐっぐっと力強く握った。

ニハッと笑うニリヤ。

複雑そうに、でもニコニコしているネクター。

ふふふ、と笑って顔見合わせ合う、オランネージュとクレールじいちゃん。

ニヤリと鋭い眼光の笑顔を崩さない、多分これが地顔のファヴール教皇。

応接室には、ピンクの薔薇の優しい匂いが溢れていた。




さて数週間して。


「メイド喫茶、めちゃくちゃ流行っていますな。」

「マジですか•••。」


クレールじいちゃんからの報告会兼、ネクターの実地経済勉強会が、ただ今行われている。

ネクターは、嵐桃を見て、量も考えて、販売計画を立て、クレールじいちゃんの持つ飲食店、レストランヴィーヴの支配人から、一つ一つにツッコミをもらっている。最初は自由にさせて、その仕入れ値段だとこうなるよね、そうなら儲けと経費コミで売値はこのくらいだよね、で、それってどうだと思う?逆に考えて、どのくらいの値段で売りたい?赤字にせず、儲け過ぎず、産地も潤い、美味しさを予算内で最大限に、お客様も満足するには?工夫する所は?そして一番大事な、この商品にかける思いは?

なんてやっている。オランネージュもニリヤも、ふんふん、なんて頷いて、ちょこちょこ考えを言っている。

嵐桃が全てお金になるまで時間はかかるが、産地のみんなは、それまでは事前に収穫した桃で凌ぐよ!嵐桃、もうパン屋なんかではちょこちょこ売れてるし、と笑顔だ。

人件費忘れるなよ、と竜樹はネクターを撫でて、クレールじいちゃんに向き合った。


「今は人数制限を設けて、予約制でやっています。優雅な雰囲気を壊したくないので、ゆったりめに。」

庶民の若い男性が主に利用していますが、物見遊山的に貴族の若者も来ているようですね。家のメイドより、可愛いし、褒めたり労ったりしてくれると。中には、お茶の淹れ方からお迎えの仕方まで、こうするのが望ましい、なんて鼻高々に教える者も。


「そんな時も、『ご主人様はやっぱり素晴らしい方ですね、勉強になります。また教えて下さいね。』何てメイドの子が言えば、大抵は、ホワッとなるようですね。」

「あ〜、花街は夢の世界ですから。夢を壊さない、見事な接客です。」

「メイドの子達も、売り物のお茶が本格的だったり、お菓子や軽食が美味しくて、基本の知識あっての夢、というのが売りになると、張り切って勉強しているようです。」

「おお、素晴らしいです。」


「案外、花を売らなくても、成立するものなのですなぁ。」

切羽詰まった人はいましょうが。

しみじみ。クレールじいちゃんは呟く。


バー兼花とお話できる店、は、しっとりした雰囲気で、お酒も綺麗で美味しいと、そして花達の衣装も色っぽくて素敵だと。

そう、チャイナドレスや、リボンタイのある華やかなブラウスに、切れ込みのある、ピッタリしたロングタイト、なんて提案してみました。

衣装協力に、若手のデザイナーを雇って。

夜のバーにいそうなお姉さん達と、ちょっと大人でクールな夜。背伸びをしたい若者は、グループでは入れなくて、落ち着いて一人で飲みたいおじ様や、勇気を出して一人で夜の街に来た、若い男の子に、ちょっとした冒険を。

何だか、しみじみうふふと楽しそうに、結構流行っている。


後は、歌声喫茶もあるよね、カラオケとか。とひょいと放った竜樹の言葉から、あれよあれよという間に、ステージもあって、最新の歌の歌詞が順次入るタブレットが沢山置いてあって、マイクがあって、吟遊詩人やピアニスト、その他楽器を弾く伴奏者が常駐している歌声喫茶ができた。

マイクは声が大きすぎず、程よくエコーがかかるのを、ムジカが作ってくれた。凄く良い顔してた。やりきった。

歌声喫茶の流儀は、ステージにあがるお客さんも、そしてそれを聴いているお客さんも、一緒にノリノリで歌う。そんな、不文律ができている。

お酒も出るが、ソフトドリンクでも長くいて大丈夫で、歌って日頃のモヤモヤを解消したいお客さんが、店から溢れるほど訪れた。

バラン王兄が、行きたい行きたいとダダをこねたが、お店が落ち着いてからお忍びでね、とデコピンしてパージュさんに言われ、はい、と良い子の返事をしていた。


花街の衛生状況は、劇的に変化した。

花を売るお店も、避妊も病気も浄化でできるそうなのだが、今までは浄化治療師がいたりいなかったりを、常駐でなければ店が開けなくした。

そうしておもてなし的に、着衣の綺麗なお姉さんがお風呂に事前に入れてくれ、爪や手の手入れをしてくれて、それから、というのがスタンダードになってきた。

写真はここでも活躍し、お店に入って、アルバムからお姉さんのプロ撮影写真やプロフィール、性格や、得意なほにゃららから、好きな人を選べるのは、男達に大人気。これが読みたい、と、冒険者組合の学習コース(無料)で、簡単な文字を習う男達が増えた。エロがエネルギーになって、ってやつである。

そして案外、若い花ばかりでなく、熟女の花にも、需要があった。

それは、過重労働させない、という方針から、充分休んだ花が、身も整えて美しくなってきた事もある。


花街のリフォームなど、建築関係は、とにかく素早かった。そもそもこの世界の建築方法は、魔法が使えたり、力が人よりある獣人がいたり、と、かなり速く建つようだ。

花街の教会も建築が始まった。

この分なら、各地の教会の孤児院兼学校兼保育園も、無事順次建つだろう。


平民向けのお菓子屋さんも、無事出来て、フルーツの飴がけや、ラングドシャ、きなこ飴、メレンゲクッキーなどを売っている。ファヴール教皇には、教会のお菓子•••とツッコミ入れられたが、それはそれでレシピを教えますよーと言って実際タブレットに入れて色々送ったら、お返しに美味しいお菓子(子供達の試作)が来た。ドーナツとか、ナッツ入りヌガーとか、たい焼き、ベビーカステラ、あと喜ばれたのが、アルファベットに当たる、この世界の文字を一つずつ模ったビスケット、それから、小鳥、や、本、などの形と単語の焼印が押された薄いビスケット。勉強になると、売れ始めている。

そしてなかなか美味しいのである。


怒涛の開発ラッシュが、ある程度花開いたといえよう。

そんな花街騒動であった。




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