写真のお代
ラフィネを花街に売ったマントゥールは、今、一人の若者と会っていた。そして、差し出された書類、説明を聞いても穴ばかりで、それが詐欺だと、一目で分かった。
「という事で、ギフトの御方様が、この度、花街に出店されるとなっては、花街のこの地区の繁栄は、約束されたも同然なのです。いかがですか、おひとつ、お店をお持ちになっては。経営は私共に任せていただき、オーナーとして時々気にかけていただければ、黙っていてもお金が手に入りますよ!」
ギフトの御方様が、花街などに店を出すはずないだろう。
断る、と言おうとしたマントゥールだが、口から出たのは別の言葉だった。
「良いだろう。私の全財産をもって、投資しよう。」
「え。」
若者の名は、ティミッドという。
ティミッドは、あれー耳がおかしくなったかなぁ、と思った。全財産なんて、言ってないよね。
自分でもよくできた詐欺だと思う。金もそこそこ貰えれば、後は、適当に街外れに借りた店の体裁だか整えて、儲かりませんでしたーとトンズラすれば良い。箱をわざわざ見になど来ないだろう、来ても準備中で、とか言えばと。
「全財産を出すと言ってる。サインもしよう。この書類を持つ者に、私の資産全てを預けると。」
嘘だ!こんな事、俺は言ってない!言いたくない!口から出ているのは、誰の声だ!言葉だ!
「フォルス•••。」
「フォルスの声だ•••。」
周りにいた、冒険者上がりの護衛の者達が、ひっ、と身を縮めて、震え、呟いた。この者達は、あの、フォルスとかいう冒険者の仲間だった奴らだ。金で裏切って、その後殺しに怯えていたから、体良く使ってやれと思って薄給で雇った。
フォルスが死んで清々した。妻のラフィネは、言う事を聞かなかったから、花街へ売ってやった。それもかなり安い店に。酷い扱いを受ければいい!
あの、不細工な夫に嫁いだ女だから、背が低くて太っていて、目の小さい、つまりあまり容姿に自信のないマントゥールでも受け入れるだろう、資産の差はありありとあるのだし。そう思ったが、何を操だてしてか、頑固な女だった。
無理矢理モノにしたが、毎度死のうとするので、面倒くさくも腹立たしくもなり、処分したのだ。
あの、忌々しいフォルスの声だと?
「ああ、私の持つ資産の、権利関係の書類もいるな。全て今用意するから持っていきなさい。自由に活用して、利益を出してくれたまえ。」
嘘だ!嫌だ!何故私の声が、身体が、言う事をきかない!
「•••え、あの、白金貨10枚もあれば、余裕でタリマスヨ??」
ティミッドは小心者だ。だからこそ、今まで捕まらずにやってきた。今回は、自分でも頑張ってデカい案件をこなしてやろう、と、何故か思い立ち、勇んで金満家のマントゥールの元にやってきたのだが。
(全財産なんて、俺言ってないよ!何この流れ、怖すぎる!)
ひええええ。
「私が払うと言ったら払うのだ!いいから、黙って全部持って行きなさい!」
それから淡々と、マントゥールが出してきた全ての権利書類に、譲渡のサインを。
ぐぐ、ぐ、と抵抗しながら、カリ、カリカリ、書くマントゥールの手に。
ごつい、傷跡のある手が、空中にふわっと現れて。がっしり被せて、ぐっと包んで、導いてサインを書ききった。
『全ての権利を、ハタナカ・タツキに、譲ります。ルールド・マントゥール』
「あの傷跡!フォルスだ!」
「フォルスの手だ!」
元冒険者の護衛は、身体も声も自由のきかないマントゥールを、助けるどころか怯えきって後ずさるばかり。
(ハタナカ・タツキってだれー!!??)
ティミッドは、空中に現れた手にギョッとして、ガタタン!と椅子を蹴った。
これ絶対普通の取引じゃない!いや詐欺なんだけど!でも、普通じゃない!
帰りたい!怖い!帰りたい!
でも、足が動かない!
「書けた。全部持って行きなさい。」
「は、ハイ•••。」
マントゥールが出してきた封筒に、書類を全部一まとめにして入れて、ティミッドはそそくさと席を立った。
どたん、バタバタ、ササーッと帰っていくティミッドが、マントゥールの家の扉を出た頃。
ふっ、とマントゥールの身体の自由が戻り。
「な、なん、何だったんだ!お前たち、早く•••。」
あの若造の後を追って、書類を取り返して来い!と、マントゥールは言いたかった。
頭の中で、プツン、と何かが切れて、倒れてしまって、続きは。
この先、永遠に言えなかった。
マントゥールの家を出たティミッドは、怖くて怖くて、手に持った書類を捨ててしまいたかったが。それも怖くてできず。
「あ、そうだ、寄付、寄付すれば!」
誰か知らん人におっつけてしまおう。
冒険者組合に隣接した、郵便局にその足で行く。
封筒は、ノリで封してくださいね〜、なんてにっこり言われて借りながら、宛先を書こうとして。
(誰に送ったらいいか、わからん•••。)
ピクン。
手がペンを掴む。
え。今、俺、手、動かしてないんだ、け、ど。
サラサラ、サラ。
勝手に書かれる宛先に、ひえええ!と顔が引き攣る。
『王宮内撮影隊寮 ハタナカ・タツキ様』
『サンの父、フォルスより』
(だからハタナカ・タツキって誰〜!!!?フォルスも誰〜!?)
切手貼って。
「重たいですから、銀貨1枚になりますよ。」
「はい、払います!」
なけなしの銀貨1枚分の切手を、ぺたっと貼って、受付のお姉さんの後ろの籠にポイされた。
書類がティミッドの手にあったのは、ものの10分だけだった。
そして、この取引での儲けは、ゼロどころか、銀貨1枚の赤字になった。
(ダメだ。怖い。悪い事できない。詐欺、向いてない。)
「俺、真面目に生きよう。」
グッタリとねぐらに帰りつつ、ティミッドは、ため息ついて自分に誓った。
そして早々に酒を飲んで寝た。
ティミッドが怖い目にあった2日後。
「竜樹様。珍しく、寮宛に郵便が来てますよ。」
「おーありがとう、タカラ!何だろうね?んん、んんん?」
誰からか、封筒をひっくり返した竜樹は、『サンの父、フォルスより』と書かれてあるのを見て、驚いて。
「ええ、そうなんですよね。差し出し人が差し出し人なので、こちらで開けるか迷ったのですが。」
タカラが、まずは竜樹様に聞いてみようと、と眉を下げて。
「いや、良いよ良いよ、開けてみよう。」
バリバリ、封筒を開けて、中身を見ると、竜樹には何だか分からなかった。
「俺の名前が書いてあるのは分かるんだけど。タカラとミラン、見てみてくれる?」
「「はい。」」
「詳しくは私も分かりかねますが、これは、マントゥールの持っていた、資産の権利の譲渡書類ですね•••。」
ミランが、ペララと書類をめくって、タカラが傍から覗き込み、ふんふん頷いている。
「んんん?マントゥールって、あの、サンのお父さんをハメて殺した、悪い金持ち?」
「そうですね。」
ぶるらるる。
はっ とみんなでスマホに目を向けて。
メッセージが。
「150いいね使いました。」
「5000いいね、追加されました。」
ランセ
『サンの父 フォルスに
150いいね貸したよー。
それから 郵便で送ったものは
「しゃしん代にしてくれ」
だって。
しゃしん すごく嬉しいって。』
竜樹
「ありがとうございます??何だかすごい金額っぽそうだけど、貰って良いんです??」
ランセ
『良いよ 良いよ。
好きに使ってよ。』
ルヴァンシュ
『我は 復讐の女神 ルヴァンシュ。
今回も 面白き復讐であった!
死に 死を返さない 復讐とは
フォルスも やるな!
マントゥールは 再起不能であろう。
これで ラフィネや サンに
ちょっかいも かけられまい。
竜樹の周りは 面白いのう。
これからも 我々神は
見守っているからな。
5000いいね 送っておいた。』
竜樹
「ありがとうございます。
面白い、ですか?
それなら良かったです?
これからも、どうぞよろしくお願いします。」
ランセ
『ウンウン よろしくね。
じゃあ またね。』
パタリ。みんなで覗き込んでいた、スマホを伏せる。
「何か、復讐が出来たらしいね。」
「「そのようですね。」」
書類は、そのまま貰ったら何となく騙して取った、と悪く言われそうだ。とミランとタカラが言うので、クレールじいちゃん経由で、マネーをロンダリングしてもらった。
サンの父でラフィネの夫、フォルスさんからのお金だから、幾らか受け取って欲しい、とラフィネに言ったのだが、受け取れません!と断固として言われてしまった。
「あの人も、そんなつもり、ないでしょうから。」と、嬉しそうに微笑んで、ラフィネは子供達と遊んでいる。
竜樹は、ちょっとだけ、サンにお金をとっておく事にして、クレールじいちゃんに頼んだ。
そしてまた、クレールじいちゃんが、復讐の後のことを調べてくれた。寮で、お茶を飲みつつ、じいちゃんと報告会だ。
「マントゥールは、譲渡書類を書いた後、倒れて寝たきりだそうです。話をする事もできないと。」
「おおう。そうなんだ。治療で治らないんだ。」
「すぐに分からなかったらしいです。倒れた原因が。治療はしたけれど、頭の中をやられたらしくて。」
「あー。なるほど。」
「裏切ってマントゥールに雇われていた、元冒険者達は、恐れてマントゥールの世話を仕方なくやっています。家だけはマントゥールに残されたので、それを売って、小さな家に移し、元冒険者達に面倒をみる金を渡してきましたよ。すごくへしゃげてましたね。」
「うん。介護って、大変だもんね。」
クレールじいちゃんは、マントゥールに詐欺を仕掛けてビビって竜樹に書類を送ってきた、ティミッドという若者もとっ捕まえて、その場であった事を話させたそうだ。そうして、真面目に働きたい、と言うティミッドを、使いっ走りとして厳しく教育している。
「ティミッドは、悪党にしておくには、間抜けで小心者です。でも、使い所はあるでしょう。よほど怖かったとみえて、神様案件だと知って、震え上がって真面目にやっています。神さまはいるんだなぁ、なんて言って。奴も孤児上がりなんですよね。少しは人の役に立つよう、ビシバシいきますよ。」
ハハハ!と笑うじいちゃんは、マジ頼りになるのだった。
今日は写真のフレームが出来てきたから、子供達に写真を配って、フレームに入れてもらおう。
じいちゃんもニコニコ見守っている。
1人1人に、名前を呼びながら、フレームと写真を渡していく。ジェムが、渡された、父と母の間に挟まって笑う自分の写真を、ぎゅむ、と胸に抱きしめて、それから嬉しそうにまじまじと見た。子供達みんな、じんわり嬉しそうだ。
サンとラフィネにも1枚ずつ、印刷したのを渡す。ラフィネは個室で飾れるように。サンはいつでも見られるように。
「はい、フレームの後ろの留め金を外して、写真はめてみてね。良かったら俺の部屋の、豚さん貯金箱のある棚にでも置いて、いつでも見に来てね。まだみんなに個室はないから、悪いねー。」
「「「はーい!」」」
「それから、ニリヤ。クレールじいちゃんにも。」
「??ぼくこないだ、かぞくしゃしんとったよ??」
「撮りましたな。飾ってありますよ。これは、何の写真です、か、な?」
ニコリと笑う、王様と、リュビ妃と、おくるみに包まれてリュビ妃が抱いた小さな赤ん坊と、ニリヤ。
「リュビさんて、やっぱりいたずら好きですよね。この写真、スマホに、さらっと入ってました。」
笑ってしまったよ。
じんわり。
じいちゃんは目を瞬いて湿らせ、ニリヤは、「とうさまと、かあさまと、あかちゃんと、ぼく!!」ニコりん!とした。
「王様にも、渡してあげよう。」
「ええ、ええ、そうしましょう!」
「私達も行くよ〜!」
「うん、行く!」
「ぼくも〜!」
ぐいっ、と涙を拭いて、クレールじいちゃんと王子達と、いざ、王様の執務室へ。




