サンのお父さん
サンは、今日も竜樹の後追いをする。
お昼を食べて、王子達と寮のみんなに、果実のちょっと入ったフレーバーウォーターを飲ませて、ご馳走様をする。ちょっと落ち着いたら、食器の片付けをさせる。竜樹も自分の分を片付ける。
サンは、片付けも、とてとて竜樹の後を追っていく。
食器をまとめて入れる籠に、順々に重ねていく時、竜樹は自分の腹の横から、ちょいと身体を滑り込ませて食器を置いたサンの顔を、ん?と見る。
「サン、口にお肉のかけらがついてるよ。」
今日はひき肉のカレー風味、ドライカレーというやつだ。もちろん子供向けなので、ほとんど辛くはない。
肉のかけらをつまんでやり、サンのお口の、唇にちょんと肉付きの指をくっつける。
サンはニヘヘと笑って、かけらを竜樹の指ごと、ぱくりと食べた。
子供達といるとなんだかんだ汚れるので、使っている素朴な綿のハンカチを取り出し、サンの口回りを拭ってやる。
「サンいいな〜。おれも〜。」
「はいはい、竜樹父さんがふいちゃろうね。」
「ぼく、ぜんぶきれいにたべたよ!」
「いいね〜。」
小さい子組は、たまにこんな感じで、わちゃっと竜樹に絡んでいる。
まだまだ親の手が欲しい年頃の子供達は、街暮らしでの経験から、寮に大人のお客さんがくると警戒して、まずは竜樹がその人にどんな対応をするか見ている。
竜樹は割と正直で、あまりまだ仲良くないとか、好きではない人の時には、口数少なく丁寧になったりするので、子供達のジャッジの目安になっている。
そうして、良かろうという評価を得た人は、子供達の気ままに懐かれる。
「サンは、竜樹が大好きだなあ。」
マルサが、一緒にお昼をとり、大人の量を食べてお腹をさすり。片付けをする竜樹と、後追いするサンを見ながら、何とはなく口にする。
「ウン。ぼく、たつきとうさん、すき。」
竜樹の足に取り付いて、見上げて言う。
「ありがとう〜嬉しいな!俺もサン好きだよ〜。」
なでなで。
えへ。サンが照れくさそうに笑うので、竜樹もニッコリ笑顔になる。
ぼくも〜!おれも〜!となって、撫でまくり好き好きしまくりの竜樹だ。わしゃわしゃわしゃ。
「どういう所が好きなわけ?」
マルサは、何で竜樹こんなに子供に好かれるんだろ、まあ面倒見はいいよな、と思いながら聞いてみる。
「おとうさんは、サンを、まもってくれるの。いっしょにいたら、いつも、だいじょぶなる。」
「ふんふん。」
「サンのまえのおとうさんは、ぼうけんしゃだよ。サンをまもってくれたの。おかあさんも、まもった。それで、ぼうけんでしっぱいしたの。しんじゃった。そうしたら、おかあさん、つれていかれちゃった。」
「うん?守ってくれる人が、いなくなったから?誰に連れていかれた?」
「しらないおじさん〜。」
そ、そうか。
何かシビアな話なのだな、とマルサは気まずい気持ちになり、う、うん、と咳払いした。
「サンのお父さんは、はめられたんだよ。」
ジェムが、サンの肩を抱いて。目を逸らすマルサに、強い目をして流さなかった。
竜樹は、目をちょっと見開いて。
「サンのお父さんの、冒険者仲間が、本当はバレると自分たちも危ない、って言って、サンを俺たちの所に連れてきたんだ。」
「そうそう、あのとき、もらったお金で、みんなパンが食べられたんだった。」
ロシェが思い出して、しばらくひとりいっこ食べられたのは良かったよね〜、とウンウンする。
「嵌められた?」
「わざと失敗するように、冒険者仲間に、カネで頼んだやつがいるんだって。」
「冒険者仲間が裏切ったんだ。ケガすれば良い、ぐらいの気持ちだったらしいけど、サンのお父さんは死んじゃった。」
アガットも、そうそう、と参戦する。
「冒険者仲間たちは、なんか悪かったと思ったらしいよ。サンだけ残ったのを気にして、もらったカネを少しくれた。面倒は見られないけど、ただ捨てるにも気分悪かったんだろ。」
フン!と鼻息荒く、ジェムは、うらぎっといて!と罵る。
「でも、カネはもらっといたけど!」
「ウンウン、それで?」
竜樹が、しゃがんでみんなの話を促す。
話を聞いてくれる所が、好かれる理由の一つでもあるかなあ、とマルサは思う。
「サンのお母さん、びじんなんだってさ。金持ちの悪いやつが、目をつけたんだけど、サンのお母さんは、サンのお父さんと結婚してた。いっぱい嫌がらせあったらしいよ。でも、サンのお父さんが、守ってた。」
「だから、サンのお父さんがいなくなったら、サンのお母さん連れていっちゃったんだって。」
「ウンウン。そうか。それで、サンは、家に置いてかれちゃったのか。」
そうなんだよ。
アガットも、思い出して指を顎にあてて考える。
「あのときサンは、家で、一人で、お父さんとお母さんをずっと待ってた。ごはんもないから、よわってた。俺たちのところに来て、みんなでパン食べて、仲間になったんだ。」
そうかそうか。竜樹が頷いて。
「みんなと仲間になれて、良かったなぁサン。」
「ウン!よかった!」
ふふふ。
しゃがんだ竜樹の背中にひっついて、サンは笑う。
お父さんがいると、安心するんだな、とマルサは口の端を上げて。冒険者だった父親からすれば、鍛えているマルサにこそ懐きそうなものだが、サンはマルサを、それほど気にしていない。
「とすると、サンのお母さんは、多分、生きてるって事になるね。」
今、どんな状態なのかは、分からないけれど。
竜樹が、タカラに目配せして、お願いな、と頷くと、タカラも了承して、一礼する。
「探してみようよね。また良かったら、みんなの話を聞かせてね。」
「「「はーい!」」」
それじゃあ、小っちゃい子組は、昼寝だよ〜。
サンのお母さんは、割とすぐ見つかった。花街の、かなりお安い方のお店に勤めていたのである。
花街の花、エフォールの実の母、コリエとたどたどしく文通をしている竜樹は、サンのお母さん、ラフィネはどんな人か知っていますか?と聞いてみた。王宮の、影で調査をするところにも、調べてもらってある。同じ職の女性からみてどうか、サンと会わせて大丈夫か、知りたかったのだ。
調査では、借金のために働いていて、美人ではあるが、やる気がなく、大人しく地味な様子。しかしそれが、最近少し元気になった、らしい。
「金持ちの悪人、マントゥールは、随分すぐにラフィネさんを手放したんだね。」
「サンの母親は、夫を殺されて無理に連れて来られたから、最後まで徹底的にマントゥールを嫌ったらしいです。それで、思い通りにならないなら、と、借金を被せて、花街に売ったと。」
悪いやつ、いるもんだね。
竜樹はため息をつく。
コリエからの手紙は、すぐ返ってきた。
何でも、最近元気になった訳は、テレビに引き離された息子が映って、無事に暮らしているのが分かったから。
『嵐桃のお願いテレビに、映っていたサン君を観て、ご飯をちゃんともらえてふくふくしている事、ギフトの御方様預かりになっている事を、随分喜んでいました。一緒にお茶してお話したのですが、会いたいか、と聞いたら、花街の母親がいては、サン君の重荷になるから、と。会うつもりはないようです。』
何だそれは。
「ちょっと、タカラ。俺は今、花街の花を買い取るくらいのお金は、ありますか?」
ニッコリ笑ったタカラは。
「はい、充分ございます。」




