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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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131/692

ワイルドウルフから、辺境騎士団長とコーディネーターがやって来た

「辺境騎士団長が来るのは、この飛びトカゲ発着所で良いのかい?」


王宮の外れにある、林の遊歩道に近い飛びトカゲ発着所へ、竜樹とアルディ王子と3王子はやって来た。エフォールと小さい子供達は、寮でお留守番。新聞売りは通常通り仕事である。


「はい、こちらに着く予定です。」

タカラが竜樹に応える。護衛達は、王子達を停留所の柵から出ないように気をつけている。飛びトカゲの駐まる場所を明けておくためだ。


「竜樹様や、殿下達に、兄を出迎えていただいて、良かったのでしょうか。」

アルディ王子の護衛、クルーが、何だか申し訳なさそうに、トースト色の耳を倒している。


「辺境騎士団長の治療は、私が言い出した事だし。お父様が、コーディネーターも一緒に、派遣してくれるって言っていたから、早くみんなに会いたいなと思ったんだ。」

アルディ王子が、ぶん!と尻尾を振って柵に手をかけて、つま先立って遠くの空を見つめる。

3王子達も、それぞれ柵に足をかけたり、手をかけたりして、アルディ王子と同じ方向の空を見る。


「足に怪我している人に、挨拶に寄ってもらうより、元気な者が出迎えれば良いよ。王子達がいれば、王様に挨拶する代わりになるだろう?良くなったら王様に会えばいい、って、ハルサ王も言ってたし。」

と言う事で、3王子達も、これはお仕事なのである。何か楽しそうに空を見上げているが。


「あ、ありがとうございます。」

ぺこり、と頭を下げて、チャラさは卒業したクルーは、きっちりアルディ王子の後ろで守っている。


小さな点が空に見えた、と思ったら、ひゅおおおお、と飛びトカゲが降りて来た。ぴょ〜ん、と〜ん、と足を土につけて、近づいてくる。


ととん!どん!


ふおおおお。

乗っていても中々ダイナミックなのだが、近くで地面に降りるのを見るのも、迫力がある。

飛びトカゲがすぐ側に、土煙が舞う中、背から何人か獣人が、縄梯子を降りてくる。その内の1人、丸く茶色い耳をもった、ムキムキした身体の大きい男性が、同じく身体の大きいトースト色の耳尻尾に先っぽの白い、男性を背負子で背負っている。

テキパキと、背の小さい黄土色丸耳の男性、おそらく侍従の人、が、折りたたんだ車椅子を開いて、そこに背負っていた男性を座らせた。

肩も腕もそして足もムキっと厳ついが、朗らかそうに濃い男性的な眉をあげるその男性は、目をくりくりして。


「パシフィストの皆様、お出迎えいただき、ありがとうございます!これはこれは、そのマントに宝石の留め具、ギフトの御方様では?そして、3人の王子殿下でいらっしゃいますか?アルディ殿下まで!この度は、格別のご配慮いただいて、身に余る光栄でございます!ワイルドウルフ、パラディ辺境領伯、辺境騎士団長をしております、アミと申します。このような身体ですので、礼に足りぬ事ではございますが、お許しください。」

跪くことができないのを謝って、似合った低い響きのある声で、アミ辺境騎士団長は挨拶をした。


「ようこそ、パシフィストへ。私は第一王子、オランネージュです。どうか父王には、足が治った後にごあいさつ下さい。ここでは私が父王の名代を務めて礼をうけとりますから、どうかゆるりと身体を大事に。」

「勿体無いお言葉、ありがとうございます。」


「第二王子、ネクターです。」

「だいさんおうじ、ニリヤです。」

「初めてお目にかかります。ギフトの人、畠中竜樹です。」

「お会いできて嬉しいです。ネクター殿下、ニリヤ殿下。ギフトの御方様も、こちらこそ初めまして。新しい治療を発案して下さり、こうして希望が持てました。」


「アミ辺境騎士団長、私と話すのは、電話で話したのとで、二度目だね。ハルサ王様や竜樹様が、治療させて下さって、本当に良かった。」

「はい!アルディ殿下。騎士団長を引退しようかとも思ったのですが、私の怠慢で、個々に戦う事はできても、人を纏められるような程よい後任者が育っておらず、ご迷惑をおかけします。」


騎士団長は、隣接する樹海に生息して時折迫り来る、獣との戦いを余儀なくされているそうだ。獣は、肉は食べられるし、皮、骨や血など、素材としていい値段になるので、良い面もあるが、1つ間違えば命の危険さえある。そして、辺境で獣を抑えなければ、段々と人の沢山住む都市へ、樹海がせり出してくる。

今回は、若い騎士団員が爬虫類型の獣に止めを刺そうとした時、最後の力を振り絞り爪を立てた獣から、咄嗟に庇って怪我をした。


「獣も、殺されてしまうから、必死ですもんね。」

「はい、そうなのです。そして、私自身も、まだまだ私がやれる、と思って過信していたのですね。怪我をすれば、穴が空くのに決まっています。忙しさにとりまぎれてはダメで。戦う事を生業にした一癖ある者達を、纏められるような、複数名を、徐々に育てなければ、と思いましたよ。」

「アミ辺境騎士団長、治ったら、これから、すれば良いよね。留守の間は、どうしてるの?」

アルディ王子の問いに。


むふ。

とアミ辺境騎士団長は笑い。

「早速の実地訓練です。育てば見込みがあるか、という者達を仮のリーダーとして、守りを固めろと、班わけして任せて参りました。もちろん深追いするなとは厳命しています。私にもですが、良い勉強です。」

ふふふ、と不敵な笑いを見せた。

「さて、私の事はさておき、今回一緒に来たコーディネーターの皆さんも、ご挨拶がありましょう。」


「うん、私、待ってたよ。子供新聞を作るのに、意見を聞いたんだけど、結構、強い力を持つ獣人達と、普通の人との間では、摩擦が起きてるらしいんだ。」

気は良いやつなんだけど、って言ってくれる人もいっぱいいたが、いまいち伝わらない、とお互い思っている事も多かったのだ。


「はい。私、コーディネーター第一号隊に志願しました、ネズミ獣人のキャマラードと申します。今まで、民間の工事業者と役所を繋ぐ、文官をしておりました。ワイルドウルフでも、良く力の強い獣人達と、弱い獣人達との、間を取り持つ事が多かったので、お役に立てればと思います。」


「栗鼠獣人の、シャルルーです。私は、販売員をしておりました!色々な人とお話するのが上手なのでは?と見込んでいただき、私も、立候補した次第です!」


「カワウソ獣人の、オネットです。私は、水運業の事務をしていたんですが、荒っぽい乗組員達とも話をする事が多くて、適任ではないかと推薦いただき、お役に立てればと参りました。」


3人とも跪き、そして直って構わないよ、と告げられて、照れ臭そうに自己紹介をした。

ネズミのキャラマードは、灰色丸耳、細い尻尾男子。

栗鼠獣人のシャルルーは、ライトブラウンのちみっちゃい耳、長髪まとめ髪ふんわりくるくる尻尾女子。

カワウソ獣人のオネットは、褐色の小さい耳、太い滑らかな被毛の尻尾男子。

3人とも、背が竜樹より小さいし、細っこいが、耳尻尾もぴこぴこと、明るく元気なパワーを感じる。


「良く来てくれたね!私はワイルドウルフの第二王子、アルディだよ。みんなの活躍を楽しみにしてるからね!」

アルディ王子はフリフリと尻尾を振って、嬉し気に拳を握った。


「まずは、みなさん、王宮内の客室で落ち着いてお茶にしましょう。一息ついたら、アミ辺境騎士団長は、こちらにさっそく医師団が来るので、診察を受けられて下さい。」

オランネージュがお仕事をしていると、タカラが、そそ、と促す。


「コーディネーター達は、こちらにワイルドウルフの外交官が来るから、拠点を作ったり住んだりする所の説明を聞いてね。ここにも外交官が来たがったんだけど、迎え入れる準備を優先してもらったんだ。」

アルディ王子が耳をぴょこぴょこしながら説明する。は〜い!と元気な返事で。コーディネーター1年生達は、飛びトカゲ運転手の獣人に荷物を降ろしてもらい、パタパタと着いてくる。


「クルー、良くやっているかい?」

アミ辺境騎士団長が、アルディ王子の後ろについたクルーに話しかけた。

「は、はい、何とか頑張っています。」

「そうか。」

うんうん、と頷き、仕事中だろうから、また後でな、とアミ辺境騎士団長は、茶色小さい耳のムキっとしたお付きの者に車椅子を押され、みんなと同じく王宮へ向かう。

クルーは居心地悪そうに、耳を倒したが、気を取り直してアルディ王子に引き続きついた。


「おらんねーじゅにいさま、おしごと、すごくすごいね!ちちうえ、みたいね!」

「お話し上手だね。私たちも、大きくなったら、お客様をご案内とか、できるようになるんだぞ、ニリヤ。」

「はい!ねくたーにいさま!」

「うふふふ。それほどでもないよ。」

3王子は安定のきゃっきゃである。

竜樹はお仕事中を慮って、なでなでしたい手を止めておいた。



皆さんを客室に案内して、タカラがお茶を淹れる。お菓子は、嵐プラムのパイにクリームチーズ添え。甘酸っぱいのがたまらない美味しさである。

今日はまだおやつを食べていないので、王子達も御相伴に預かる。振動の大きい飛びトカゲに乗っていると、知らず足や腰に力が入って疲れたりするので、ワイルドウルフのみんなが、嬉しそうに珍しそうに、パイを食べた。


そうこうしている内に、外交官も来て、一緒にお茶をしながらコーディネーター達に今後の話をしていく。何でも外交官が決めるのではなく、拠点などの世話をしてからは、自由にやってみさせる。

間に人が入ることで、金銭も発生するので、その説明はすることと。なるべく利用してもらい、齟齬のある間を円滑にしたいのが狙いなので、1件ごとにではなく、一社毎月ごとにお手当をもらい、担当してみよう、と話し合っている。

まずはその依頼先の開拓からだが、最初は外交官が、試しにやらせてくれる候補を絞って持って来ていた。現場で困りごとが起きている所である。

アルディ王子も、フンフン、と話を聞きながら、意見を言ったりしている。


「興奮してお話している所に入っていくんだから、ちょっとしたお菓子なんかを持って行くといいよね。疲れてると、荒っぽくなるから。新聞で、みんなに意見きくときも、ツンツンしてる人が、お菓子食べたら丸くなる事があったよ。ちょっと疲れててごめんね、って言われたんだ。」

ほんとにちょっとしたお菓子でいいんだけど。とアルディ王子はいい、なんかそれ、会社に来る保険のおばちゃんのくれる飴思い出す、と竜樹は思い。そしてコーディネーター達は、それはいい、私たちだって疲れてるとイライラするもの、と、用意された支度金の中から、お菓子を準備しようと話し合った。

「もし良かったら、メレンゲクッキー使ってみてね。卵の黄身を使って残った白身でできるお菓子なんだけど、普及すると嬉しいから。べっこう飴なんかもいいかもね。あまりもたないけど、イチゴやぶどう、あんずの飴がけなんかも美味しいし、月でお金もらうなら、定期的に来て話を聞いてあげて、その時にちょっとお菓子あげてもいいんじゃない?私にはくれないの?なんて言われたら困るから、あまり高いものじゃなくて、みんなに配れるような、一粒、一包み、くらいの感じがいいね。」

竜樹が言えば。


「「「飴ってなんですか?」」」


はてな?と3人で首を傾げるコーディネーター達。

「飴は、お砂糖を溶かして、固めたものだよ。口の中でコロコロ溶かして食べて、甘いんだ。イチゴやブドウの飴がけは、熱でトロッと溶かした飴をフレッシュな果物にかけて、固まった飴を舐めながら食べてもいいし、パリパリ噛んで食べてもいい、ツヤツヤした、綺麗で美味しい食べ物だよ。」


へぇぇ〜!と目をまん丸くした後、

「それ、美味しそうです!どこに頼むと作ってもらえますか?」

と、ネズミ獣人のキャラマードが意気込んだ。


「う〜ん、どこに頼んだらいいかなぁ。作り方は知ってるんだけど。」

「おかしやさん、つくろ!」

ニリヤが、お茶を飲みながら竜樹を見上げる。

「そうだよ、平民のおかしは、パン屋さんが作ってる、って教わったけど、お菓子いっぱい作るには、嵐桃のパンも焼かなきゃだから、むずかしいんじゃない。だから、専門のおかし作る人に、お店出してもらおうよ!」

ネクターもフン!と鼻息荒く意見を出す。

「そうしたら、今までに作ったお菓子を、定期的に食べれるかも!私もいい案だと思うよ!」

お砂糖の普及にもいいし。

オランネージュが後押しする。


「それじゃ、お菓子屋さんを一つ、試しに作ってみるか。ニリヤのじいちゃんばあちゃんにも相談した方がいいなあ。」

ゼゼル料理長にも相談してみような。

竜樹は、子供達が買える、楽しいお菓子屋さんになったらいいなぁ、と想像した。

後々、大人から子供まで、そして専門のお菓子屋から出店まで、広く愛されるようになるといい。

そして、あんこ飴やどら焼きなど、あんこのお菓子も普及させよう。

「新しいお菓子は、まずは王宮の厨房で試しに作ると思いますから、まずは味をみてみて下さいね。最初のお菓子は、王宮から調達してもいいかもです。間に合いませんもんね。」

「はい!楽しみです!」


「医師団の方々がみえました。」

侍女さんがすすっと現れて、オランネージュに伝える。

アミ辺境騎士団長が、むっと気合いを入れて、そちらを見る。

「では医師団のいるお部屋に案内してあげて。私たちも、勉強に、治療に同行して構いませんか?もし気になるなら、別室にいます。」


「いえいえ、どうぞご覧になってください。私の治療する姿で良ければ。」

ニコリ、とアミ辺境騎士団長は笑い、それで外交官とコーディネーター組、治療組と別れて行動する事になった。


「コーディネーター、やってみてどうだったか、私にも教えてね。むずかしい事があったら、私で良ければ、一緒に考えるからね。ワイルドウルフに連絡したい事があれば、電話があるから、私が取り次いで、あげられるからね。」

「「「ありがとうございます、アルディ殿下。」」」


コーディネーター達は、病気がちであまり表に出てこないアルディ王子が、こんなにも自分達に期待し、同じ場所で意見を出してくれ、考えてくれるとは思ってみなかった。

嬉しく、頼り甲斐に思い、アルディ殿下のためにも頑張ろう!と3人思いを新たにしたのだった。



あんこの鍋を王子達がスプーンでこそぐ、というのをどっかで書いた気がします。どこだんべ。

飴がけの果物、美しいですよね。

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