夜明けの聖歌
「今日は、もう、本当に眠いから、バラン王兄様、讃美歌、このイヤホンで、ここで聞いて行ってくだせえ。」
「いやほん?この紐で繋がっているものを使うのかい?」
竜樹が元いた世界から持ち込んであったスマホのイヤホンは、コードレスではなかった。この世界で使うにも、見た目分かりやすいかもしれない。
差し込み口に端子を差し、バラン王兄の耳の片方に入れて。
竜樹の寝ている所で、子供達にまみれながら、バラン王兄も腹這いになって布団に横たわった。
「ここで、文字を入れます。さ、ん、び、か。で、検索して出て来たやつを、順々に聞いてみて下さい。はい、こっちの耳もイヤホン入れて。音は大きすぎませんか?このボタンで調整できますよ。」
「!!!ああ、大丈夫だ!•••〜♪♪♪」
ずっとくすくすしているパージュさんは、眠くて、でもお客さんが来たから起きていたい、うにうにしている子供達を撫でて、布団の円の端っこに、パタンコと添い寝した。
うん、バラン王兄、すぐ終わりそうもないよね。そして、事実婚状態のバラン王兄がいれば、竜樹がいるが、子供達と寝てても大丈夫といえよう。
フッ と灯をタカラが消して、薄暗くなった中、バラン王兄の手元のスマホだけが、ぽわぁ、と光っている。
ああ、本当今日は長かった、な、あ。
竜樹は目を瞑り、あっという間に眠りの国へ落ちていった。
何度か、ツバメの授乳で起きて。
その度にバラン王兄の聞きたい音楽を、聖歌、で検索してみたり、讃美歌の説明の文章を出して読ませたり、パイプオルガンの曲を出したりして。
バラン王兄は、くつろいで上着を脱ぎ、すやすや寝ているパージュさんにかけておいて。フンフン、足をゆらゆら、音楽を聞いてご機嫌である。
竜樹は、そっと呟く。
「ツバメはよいこ、まだあんまりぐずらないねぇ。本当に生まれたてだったんかねぇ。誕生日聞いておけば良かったねぇ。いっぱいお乳を飲んで、どんどん元気に大きくおなり。」
よいよい、と抱っこして、タカラが用意してくれた哺乳瓶で授乳していると、バラン王兄が、ツバメの小さなおててをゆっくり握った。
「聖なるかな、愛し子達。少年達が合唱するものもあるんだね。とても、清らかで、荘厳で、神秘的で。神を讃える音楽とは、何と美しいものだろう。子供達と一緒に、ここで聞くというのも、また味がある。」
そっと、親指で、おててを撫でた。
「やる気が出るね。秋の音楽競演会や、音楽番組も、そろそろ形にしたいが、フリーマーケット後の方がいいだろう?聖歌を発表するのは、音楽番組じゃなくて教会の方が良いだろうなぁ。」
「生の音を、その場に行って聞く良さ、特別感も、ありますもんね。音楽番組では、広場がテレビに使われてしまった吟遊詩人達を、ぜひ特集して欲しいですね。」
もちろん。とバラン王兄。
ちゅむ、ちゅう。とお乳を飲み終わったツバメの背中をトントン、さすさすして。なかなかゲップしないのだが、けぷりとしたら、そっと布団の上に横たえる。吐いてもいいよう、顔を横に、そして布をツバメの布団の上には敷いてある。
「ああ、夜が明けてゆくね。」
「ねむい•••。」
起きたらバラン王兄とは、讃美歌や聖歌、パイプオルガンの曲を、いいね払いで別のタブレット魔道具にコピーして渡す事を約束した。
パージュさんは、寝起きの顔をバラン王兄に見られて照れていた。
子供達は、お姉さんが起きてもいたので、何となく嬉しそうだった。
嵐桃の試作を、桃兄弟のフリュイとタンジェリン、2人が住むラペーシュ村を治める領主のカリス子爵と、味わってみることになり。
ゼゼル料理長が作ったシェイクとパイとデニッシュを、3人は目を輝かせてパクついた。
貴族には大きなパイを、庶民向けには小さなデニッシュを。と決まり、カスタードを作って余る卵白を、ラングドシャやメレンゲクッキーにして売ることも合わせて決まった。
シェイクはどちらも買えるように。
それから、ツバメの面倒を、竜樹が夜疲れている時にみてくれるもう1人の侍女さんも決まった。
バラン王兄が、昼間活動しながら夜も赤子の面倒見では大変だろう、と、口添えをしてくれたらしい。
竜樹はツバメの面倒をなるべくみたいと思っているので、夜の前半と後半に分かれて、どちらかを侍女さんに任せる事とした。
忙しく過ごし、そして次の日。
今日は、ワイルドウルフから、アルディ王子の護衛クルーの、兄、辺境騎士団の団長が、両足の神経を繋ぐ治療をしにやってくる日だ。




