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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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願いを叶えて

コンコン、と扉がノックされた。

扉前にいた、護衛の兵から、「王様からの先触れです。」と一言あり、王様付きの侍従がやって来た。

「王様と王妃様が、サテリットご夫妻に、非公式にお会いになりたいそうです。こちらへ向かっておりますので、そのままお待ちください。」


と言ってもそのまま座っては待てず、王様と王妃様の座る椅子をサササと運び入れて侍従達が準備する間、竜樹達は立ち上がって待っていた。


「王様と王妃様がいらっしゃいました。」

侍従がドアを開けたまま、待機している所へ、あの気のいい王様が、何となく緊張した顔で入ってくる。王妃様も硬い顔だ。

じいちゃんばあちゃんは跪き、竜樹と王子達は顔を伏せて、礼をとった。


「サテリットの父様、母様よ。どうぞ頭を上げて下さい。竜樹殿も。公式の場ではないし、皆座って話をしましょう。」

王様が一言、それでみんなソファや椅子に腰掛けた。


先程、じいちゃんばあちゃんが知らなかった、ニリヤへの扱いを暴露した所なので、何となく気まずい空気が流れる。王様が、それを知ってか知らずか、口火を切った。


「サテリットの父様、母様、今日はニリヤに会いに来てくださり、ありがとうございます。ニリヤもお祖父様お祖母様とお話できたかい?」

「はい!おはなし、しました!」

ニリヤは楽しげに、元気にお返事する。

うんうん、と王様は頷いて。

ふーっ、と一息つくと。


「久しぶりに王宮に来ていると聞いて、少しだけでもお話をと思い、邪魔させてもらいました。その、謝って済む事ではないが、リュビと、お腹の子の事を、守れなくて、本当にすまなかったと•••。大事な娘を、覚悟を持って嫁がせてくれた、サテリットの父様、母様、本当に申し訳なかった。」


「私も、リュビ様とは仲良くさせてもらっていたのに。肝心な所でお守りできずに。なんと言ってお詫びをしたら良いかわかりません。申し訳ございません。」

王妃も、一緒に頭を下げる。

王と王妃が頭を下げるのは、中々ない事だろう。けれど、人の命が失われた事だから、じいちゃんは、止めるように手を差し出したけれど、何と言って良いかと、口ごもり、いや、とか、その、とか言って、ため息を吐いた。


「先程、ニリヤがどういう状況だったかも、お話ししたんですよ。今は大丈夫だよ、とも。」

竜樹が口を挟むと、そうか、そうか。と王様も、ふーっとため息を吐いた。


「王宮は、リュビにとっては窮屈で、暮らしにくい所だっただろう。それでも、小さな事を楽しんで暮らしてくれて、朗らかな所に、私達は随分助けられたし、そうしてニリヤを産んでくれた。その大事なニリヤにさえ、あんな仕打ちをしてしまうとは、父親失格と思われても仕方ない。」

だが。

「ニリヤを育てる資格がないと思われようが、どうか、私達に、今一度機会をください。リュビの最後の願いを叶えてやりたい。」

「お願い致します。」



「•••王様、王妃様。連名で、お手紙を、下さいましたな。」

謝罪と一緒に、ニリヤ殿下に会って欲しいと。後見の、ギフトの御方様にも、会ってみて欲しいと。

「その時に、ニリヤ殿下に、あった事も、私共に伝わるとは思いませんでしたか?」


王様は、目を伏せたまま。

「•••思わぬ事もなかった。私は、卑怯なのだ。自分からは、王の名の下に、王宮であった事を、なかなか話す事ができぬ。だが、サテリットの父様母様に、嘘はつきたくなかった。」


まだ王子であった頃から、3人の妃を娶ると決まっていた私に、大事な娘を会わせてくれ、民の暮らしを教えてくれて、それでいて王や側妃の地位の恩恵を頼む所がなかった貴方達だ。

自惚れでなければ、私を信じてくれたのだ、と思っている。


「私は、貴方達に嫌われるのが怖かった。だから、言う事も出来ないが、伝えない事も出来なかった。」

項垂れる王様は、先程まで見ていた光景と、そっくりだった。


ふふふ。

ばあちゃんが、そっと笑う。

じいちゃんも、ふふ、と笑う。


「ネクター殿下は、父王様にそっくりなんですな。」


ネクターが、ふお?と赤い顔をして、王様とじいちゃんを見る。

ふふふふ、と笑いが止まらないじいちゃんは、ニヤリとして。

「じじいは、ネクター殿下からも謝罪をいただきまして、見返りに、嵐桃のしぇいくを売る手伝いをせしめましたよ。さて、王様からは、何をせしめましょうかな?」

「そうよねえ。悪いと思ってる人からは、何か頂かなければ、しこりが残りましょう。」

ばあちゃんも、ふふふと笑いながら加勢する。


ふ?と王様も王妃様も目を見張る。

王様と王妃様は、下の者からのお願いには辟易するくらい慣れていようが、あまり欲をかいてこなかった人達からのお願いに、虚をつかれたのだ。


「貴方達は、王宮に関わる面倒をよしとしていなかっただろう?それを、ネクターの、手伝いと?」

「はい。平民が、側妃の身分を後ろ盾に力をふるえば、リュビが後ろ指をさされましょうし、貴族の方とも折り合いが悪くなりましょうから、と、思っていたのですが。」

じいちゃんは、胸の前で手を組み、考え考え、言葉にする。


「テレビに出るニリヤ殿下を見て、先程のギフトの御方の話を聞いても、思ったのですよ。隠された王宮にいるより、沢山の目のある所にいるのも、また一つの守りになりうるだろうと。」

ええ、とばあちゃんが頷いている。


「その一つの目に、私共がなっても、良いのではないか?と。目に触れれば、口さがない連中はおりましょうし、警備も大変でしょうが、大多数の人は、人の目線を意識したら、あまり無体な事もできないと、『神の目』で知りました。」

だから、これからは、潰されないように、でも、その目を離さぬように。


「私共は、ニリヤ殿下に、そして仲良しの王子殿下達に、関わっていきたいと思います。リュビの最後の願いを叶える、その手助けを、どうか私共にも、させてください。」

じいちゃんとばあちゃんは、深く、深く、頭を下げた。


話を聞きながら、うるりと王様は瞳を潤ませて。

「見ていてくださると言うか。私の子供達を?」

「よろしければ。」

じいちゃんが、にっかり笑うと、ばあちゃんも微笑む。


「先程も話していたのですが、王様に願う、私共の願いは、家族で記念の写真を撮って欲しいということなのですよ。」

なあ、ミゼ。

ええ、ええ。

「そうして、家に飾っておきたい。リュビもいれば、嬉しかったですが、リュビは、テレビで最後に私共にも姿を見せてくれましたから。」

「あのテレビを見た時、リュビが、王様に、本当に可愛い、いい笑顔で、微笑んでいたから。」

ぐす、と滲んだ涙を、ばあちゃんはハンカチで抑える。


私共は、リュビが、王様に愛されていて、王妃様を信頼しているのだ、ということがわかりました。


思い残しは、ニリヤ殿下の事で、それ以外は満足して暮らしていたのだと。


「家族と、言ってくださるか。」

「はい。恐れながら、王妃様も、ご一緒されませんか?」

「はい•••!」

王妃様も涙ぐんで手を組み、こくこくと頷く。


「綺麗に、撮影してもらおう!子供達は大きくなるから、年に一回は、揃って記念の写真を撮ろう。ニリヤだけのものも、竜樹殿も一緒のも、沢山撮ろう!」

王様の一声に、ほころんだ。みんなでホッと柔らかな空気に満たされた。


「写真館、なるものを、ギフトの御方様がご存知で。そこでは、衣装を整えて、記念に写真を撮ることができると。フリーマーケットでも、簡単に身だしなみを整えて撮影できるよう、商いしてみたい、とおっしゃって。」

「それは、私がやってみたいのです。父上!」

オランネージュが、意気揚々と手を挙げる。


「そうか、そうか。オランネージュも勉強にやってみるがいい。決して自分だけでするのではなく、竜樹殿と、サテリットの父様とも相談してな。」

「はい!」


「オランネージュ殿下とネクター殿下と両方ともでは、おそらく他の商会から圧力がありましょうが、フリーマーケットの場に限る、街にできる写真館はまた別の商会と協力して、と引き継ぎをすれば、出来ない事はないでしょう。その商会も、商売の方法や素性の良い所を見繕って、フリーマーケットで共同でやってもいいですな。嵐桃関連は、私共の商会に限らず手がいりましょう。それに、この間の、嵐桃のニュースのように、テレビや新聞で色々な商品を紹介しても良いですな。」


「じいちゃま、かっこいい!」

「ふふふ、そうですか?」

ニカリン、と商機を捉えたじいちゃんは、なるほど、ニリヤが言うようにカッコ良い。


「じいちゃま、ばぁちゃま、ぼくのほうどういんのテレビも、みてね!」

「見るとも、見るとも!みんなで、フリーマーケット、頑張ろう!」

「「「おー!!」」」


記念撮影の日にちは、お互い調整して追って連絡。

と決まって、王様と王妃様は、退出していった。忙しい最中、時間を割いて出て来たのだろう。


後は、交流室にじいちゃんばあちゃんもみんなで戻った。オランネージュ、ネクター、ニリヤと存分に触れ合い、ジェム達みんなと話をし、エフォールの編み物の話を聞いたり、アルディ王子と遊び、侍女のシャンテさんがみていたツバメを抱っこして、夕飯まで食べて帰っていった。

竜樹とも話を沢山して、庶民感覚があって実務能力のある商人さんと話するの、超話がはやい!助かる!

と言う事がわかったひとときだった。


お風呂もはいって、さあ寝よう。

といったところで。



「竜樹君。讃美歌とはなんだね?」


みんなが寝る所だからか、交流室の入り口から、そっと顔を覗かせた、バラン王兄。それからその後ろにいる、くすくす笑う、婚約者のパージュさん。


今日は、とっても長い日だ。



多分、交流室が土足厳禁だから、みんな靴下姿で話をしていたに違いない。

よくテレビの寄席で、漫才師が、舞台で靴下でなんか微笑ましいのと同じ感覚です。


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