桃が落ちた
新聞売りの子供達は、制服を着て、ピシッとやる気になって竜樹の前に並んだ。
スーリール達ニュース隊も、嵐の過ぎ去った街のレポートをするというので、一緒に行く。
サンは、珍しく竜樹と手を繋いで一緒に行けるので、繋いだ手をゆらゆら振ってご機嫌で、ウフフと笑っている。
街中は、テレビで、外にある風で飛びそうなものはしまっておきましょう!と放送したこともあって、それほど荒れてはいなかった。が、やはり、飛んだ看板や、どこからか風に運ばれた板などがちらほらあって、それを撤去している者がいる。
新聞売りの店舗まで来ると、いつも子供達の護衛を担当している兵士が、店の鍵と戸を開けて、オープンな店構えにする。2号店に向かう子供達を半分の兵士が送っていく。子供達は店の中をささっと掃除して、これからアンパンやミルク、新聞が納品されるのを待つ。
竜樹とサン、スーリール達は、「じゃあ、頑張ってね〜!」と新聞売りの子供達に手を振ると、そのまま街の路面市場へ繰り出した。
「市場も、ポツポツとはじまってるかな。いつもと変わりは、ないのかな?」
「早朝には、嵐は治っていたから、商品を運ぶのは問題なかったですかね。あとは品揃えですけど。昨日作業ができなかった分、品薄気味になるかもですね。」
スーリールは、ニュース隊の前に大道芸人をやっていたので、街から街へ渡り歩くうちに、その街の血ともなる物流の様子なども見知っている。
「なるほど、後は、風での被害が出た農作物なんかの影響がどうかだね。まぁそちらは、王様達がやるだろうと•••ドカッ!ポテン!「わっ!!」」
ポテン、コロコロ、ポロポロコロン!
「あーっ!!」
手を繋いで機嫌良く歩いていたサンに、店と店の間から出てきたでっかい男が勢いよくぶつかって、サンは吹っ飛ばされた。竜樹と手を繋いでいたから良かったけれど、それでも通りかかった桃売りの屋台店に体がぶつかって、桃がポロリコロコロと落ちて散らばった。
「サン!大丈夫か!? あぁ〜すみません!」
竜樹はサンを抱えて、ぶつかった所を撫でてやると、転がった桃を焦って拾った。サンは、ビックリして、痛いの前に、目が潤んで竜樹にピッタリくっついた。
「わわわ!坊や、ごめんよ!す、すいません!」
ぶつかった男も謝るけれど、忙しく桃を拾うと立ち去ろうとする。
竜樹の護衛達が、ザワッと慌てて男を押し留める。
「ちょっと!お客さん!落とした桃、傷むだろ!買って行ってよ!」
「ええーっ!困るよ!今から出かけるのに、桃なんか持っていけないよ!それに、その桃、落ちてないやつも最初から傷みがあるじゃん!」
グッ、と口をつぐんだ、2人いる店員のうち、元気な白金色のツンツン短い髪の青年が、憤懣やる方ない顔をする。
もう1人、大人しそうな、こちらも白金色の長髪を、後ろで縛った青年も、言われて目を伏せる。
そうなのだ。
桃は、熟れ熟れで瑞々しく美味しそうなのだが、所々、傷んでいる。
「し、仕方ないだろ!嵐で落ちちゃったんだ。いっぱい落ちちゃったから、少しでも良いやつを売らないと、俺たちだって食えなくなっちまう!さっき落としたのはアンタが悪いんだから、少しでも買ってくれよ!」
「困るよ!約束があるんだから!早く行かないと、ちょっと何で俺を通せんぼするんですか、騎士様!」
「あぁ〜。護衛さん、その男の人から、桃ひとかご分だけお金もらおう。桃、いらないんですよね?俺たちがもらっても?」
「あ、ああ。俺も悪いから仕方ない。あまり高くなければいいよ。」
ひとかご分の桃は、5つ入って銅貨10枚だった。格安だ。
「離してあげていいよ。ちょっと店員さん、話を聞いてもいい?」
「何ですか?」
「桃、結構落ちたの?」
ふーっ、とため息ついて、店員2人が代わる代わる説明する。
「本当に、熟して今日収穫するかって時に、嵐が来たんだ。」
「嵐前に必死で取ったけど、間に合わなくて落ちたのもいっぱいあって、僕たち、それが幾らかでもならないかと思って、早起きして拾って持ってきたんだ。」
多分、間に合ってなくて実が落ちた桃農家、沢山あると思う。
ふむ。
竜樹は、考えて。
「味は、熟して美味しいんだよね?」
「食べてみてくれよ。今年は上手くできて、ほんとに惜しいんだ。」
ナイフを出して。竜樹がもらった桃を、ツンツン髪君が、するすると剥き、4分の1ずつにしたのをそれぞれ護衛の2人、竜樹、それからサンに渡した。じゅるりと柔らかく、甘くて美味しい。サンも、やっと驚きから気を取り直して、甘い桃を齧った。
「うん、美味しい。」
「だろ?」
「じゃあ、この店の桃、全部買うよ。というか、落ちた桃全部買うよ。だから、早く帰って、もっと拾って欲しい。スーリール!テレビで、果樹農家さんに、嵐で落ちた果樹の実を捨てないで、って放送してくれない?未熟なものも、使い道考えるから。」
「はいっ!?」
はあ!?
となってる周りを見渡して。
「落ちた桃の良いところを加工して、美味しい何かを作って売ろう。とりあえずこの店ので試作して。桃、保存する方法ある?丸ごと冷凍したり、良いところをカットしたものを冷凍して、ある程度とっておくことはできるけど、冷凍する所ある?チリ呼んで、パッと作ってもらう?冷凍庫。」
「え、あの、あんた、一体誰なの?偉い人?」
偉くはありません。
自由な人、ギフトの人です。
「ぎ、ギフトの御方様•••!」
2人の店員が、驚きに目を白黒させている。
「さあ、時は金なり!早くしないと実が本当に食べられなくなっちゃうよ!」




