クルーの涙
「昨日は、嵐なのに1人にしてごめんね、アルディ。」
寮でみんなと朝ごはんを終え、オーブの朝ごはんも終え、ネクターが、寮までやってきたアルディ王子に謝った。
「さびしかった?」
ニリヤが、悲しげな顔して聞けば、オランネージュも。
「誘おうかと思ったけど、安全を考えて、ご遠慮くださいって、ワイルドウルフの護衛さん達にも言われちゃったから。」
アルディ王子は、ううん。と首と尻尾を振って。
「嵐の間、ワイルドウルフのお父様や、お母様、兄様達とお話してたんだ。いっぱいお話できたし、こちらについてきてくれてる、ワイルドウルフの者たちも、家族とお話させてあげられたから、良かったよ。」
どうやらまったりと、有意義に過ごせたようだ。
アルディ王子は、片方の耳をピクッとさせ、チラッと竜樹を見て、それからついてきている護衛の狐獣人、クルーを振り返って、見た。
アルディ王子を、金食い虫だと馬鹿にしていたクルーは、何だか。
今日は、顔色が悪くて、トースト色の耳も、しゅんと落ち込んで、アルディ王子の後ろで大人しく護衛をしている。
「竜樹様。あの、お願いがあるのです。」
アルディ王子が、竜樹を見上げて、手を組んでお願いをする。
「うちの護衛の者の家族が、両足を怪我して、動かないそうなのです。その家族の者は、辺境の騎士で、ワイルドウルフの辺境騎士団の団長をやっています。身体だけでなく、頭脳も秀でた、代わりのいない職業なのです。普通の治癒で治らないから、多分、足の神経がやられてるんだと思うのです。」
「うん。それは大変だねぇ。」
それで、それで。
「こちらに呼んで、神経を繋ぐ魔法を、かけてあげたいのです。もちろん、ハルサ王様にもお願いをします。カラダすきゃなーを作った、竜樹様にも、どうか許してもらいたいと思って。ワイルドウルフにその医療が来てからでは、その者が治るのに、時間がかかりすぎてしまって、まだ後継が出来上がっていないので、混乱しそうなのです。」
「うんうん。1人に寄りかかった組織は、そういう時に弱いよねぇ。もちろん俺は、王様が良いって言えばいいよ。」
竜樹がツバメの背を、ポン、ポン、とたたきながら応える。
いきなり、クルーが、ガバッと頭を下げて礼をした。
「ありがとうございます!」
ふるふると、握った拳を震わせて。
「クルーの家族なんだ?辺境騎士団長は。」
「あ、兄です。引退して、領地の経営一本をやる事にするから、私に帰ってこいなどと言って。わ、私では兄の代わりは務まりません!それに、あんなに勇猛だった兄が、歩けないだなんて!兄を、兄を、どうかお助けください!」
ポロリ、ぽたっ。礼をしたままのクルーの下の床に、一粒、雫が落ちた。
「うんうん。王様も、ワイルドウルフの中がモメるのは困るだろうから、きっと許してくれるよ。医療を受けに、アルディ王子がこちらに来ていて、不運な中にも運が良かったね。」
「はいっ!」
ビシッと背筋を伸ばして、潤んだ瞳でクルーはアルディ王子にも一礼をした。
クルーにとっては青天の霹靂であったろう。そうして、アルディ王子を馬鹿にしていた気持ちが、きっと変わったに違いない。ピンと張った耳と尻尾で、アルディ王子の後ろについて、護衛を真面目に務めるらしかった。
「それじゃ、父上に会えるか確かめてみよう?」
オランネージュが、アルディ王子の肩に手をやり、ポンポンと叩く。
「いこっ、いこっ!」
「父上のところ、私たちも行くよ!」
「電話でお父様とも話ができるように、持っていくね。」
わきゃ!と湧き立つ王子達。
「午前中はお勉強もあるだろ。俺は、新聞売りの子達を送って行きがてら、街の様子見てくるよ。午後また寮で会おう。エフォール君も来るかな?」
「嵐が止んだら、来るって言ってたよ!」
「ぬいぐるみ、持ってきてくれるって。」
「そりゃ楽しみだな。さぁ、みんな動き出そうか?ツバメは侍女さんに預けていこうねぇ。お留守番よろしくだよ、ツバメ。」
よいよい。
「サンも、行く!」
「サンも街に行ってみるかい?じゃあ手を繋いでな。他の子達は?」
「ぼく、ツバメとお留守番する!」
「押し花、やりたい!」
あいあい。了解です。
じゃあ新聞売りの今日の係とサンと、手を繋いで、街に出かけてみよう。




