異世界は山の中?
畠中竜樹は、32歳のサラリーマンであった。昨日までは。
子供を授かることがなかった両親のもと、他にも大学生の弟と高校生の妹と同様、養子として、そして頼り甲斐のある兄ちゃんとして、実家暮らしをやってきた。
子供は多い方がいい!という豪快な両親は心暖かく、だがしかし養育費学費を稼ぐ為に2人とも働いていて、歳の離れた弟妹の面倒をみたのは主に竜樹であった。だから弟が泣きそうになりながら問い詰めてくるのも仕方ないという気がする。だって昨夜は、竜樹がつくるハンバーグが夕飯だったのに。
「あ〜ハンバーグ、冷蔵庫にあったタネ、使ってくれた?一回空気と混ぜちゃった肉、腐りやすいから、まだなら今夜使って欲しいな〜。」
『抜かりなく夕べ焼いて食べたよ!竜樹兄の分も焼いちゃったからね!そんなことより、異世界って正気なの•••。』
そうだ。言ってもわからぬなら見てもらおう。竜樹はスマホの電話を、カメラで画像を写しながらすることにした。
「ほら後ろ王様〜。」
王様は、ノリがいいのかフリフリ、と手を振った。金髪碧眼、髭に王冠、細身の穏やかそうなしかしいかにも王様らしい王様である。たおやかなドレスのこれまた金髪王妃様、ちょっとキツネ目の銀髪側妃様、フリフリのシャツに縁飾りのついた上着を着た金髪と銀髪の王子様2人。
他にも外国人らしき容貌の臣下やローブを羽織ったファンタジーな人々が幾人か。
部屋の中もぐるーっとカメラをまわせば、赤絨毯に大理石チックな壁、彫刻の施された柱に隅々の装飾。広々と、そして窓のない室内はまさに謁見室である。
「俺も壮大なるいたずら、と思いたいとこだけど、たぶん警察に連絡してスマホの発信元突き止めてもらっても、おかしなことになってると思う。帰れないらしいから、父さん母さんによろしくな。職場のみんなにも引き継ぎできなくてごめんて言って。サチにも、困ったことあったらコウキに相談して頑張れよって。頼む。相談相手になってやってくれ。充電いつ切れるかわかんないから、とにかく頼む。」
職場や、お年頃の妹サチの事を弟コウキに頼んで、慌てて話を終える。
そうして、後日、弟コウキが両親に頼んで警察から携帯電話会社に問い合わせてもらったところ、発信元は、なんと山の中。それも、この間電波が届くようになったばかりの、人里離れた山の中だったのである。
この後、竜樹からの連絡は弟コウキに、何度も入ることになるのだが、発信元はいつも山の中な為、警察が動き、そして見つからず。その後も発信があり。
困った警察から、うーん大人の失踪は事件ではない、からね。と言われた竜樹の家族たちは、異世界、ほんとかも•••と、やっと信じる事になるのだった。