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勇者タクト

「うーん、キミはうちのパーティではなあ…」


鎧で武装した男が言葉を濁す。またこの反応だった。

マリはもううんざりしていた。

いくつかのパーティに仲間入りの申し込みしたにもかかわらず全くと言っていいほど手ごたえがない。


「なにがだめなの?魔力だって申し分ないはずでしょ!」


そう問い詰めると男は困ったように頭をかいた。


「いや…まあ魔力はたしかに問題ないよ。けど使える魔法がなあ…」


この言葉ももう聞き飽きた言葉だった。

「魔法使い応募」の文字に惹かれて応募してみると今のところすべて空振りであった。みんな同じことを言うのである。


『HP15とか守ってあげられないから…』

『消滅魔法って触らないと発動しないのか…君が近づくまで魔法は使えないってこと?』

『うちのヒーラー、蘇生魔法使えなくて君が死んだら責任持てないよ…』


結局つまるところ、みんな同じところに達するのである。


つまり…


「『魔力があるのはいいことだけど肝心の魔法とステータスがクソすぎる』ってことかにゃ…」


クロロがそう言うとマリはうなだれた。

冒険者の男は軽く謝罪し、「健闘を祈る!」とさわやかに笑うとどこかに去ってしまっていた。


マリは残された酒場の一席でもういちどコーヒーを頼んだ。

これで三杯目だからカフェインを摂取しすぎかもしれないが、この際どうでもいいことだ。


「どーしよ。。このままじゃ行き倒れじゃん…どうやって生計を立てていこう」


軽くこれからの宿代と食事代を計算したが、すぐにやめることにした。

考えただけでも、途方に暮れてくる。

孤児院にいたときの計画では、よいパーティの仲間に入り、モンスター退治で食べていくつもりだった。

それが、早々のうちに完全に計画倒れしてしまっている。

旅に出ることができなければ、復讐のために人探しもできない。

うーん、とマリは頭を抱えた。


「あはははははは!」


ふいに大きな笑い声が響いた。酒場の一角でほかの客が景気よく一杯やっているらしい。

昼間からいいご身分だな・・とマリは一層苛立ってちらりとその客を見た。

どうやら、冒険者らしい。

青いマントを羽織って武装している。

彼の周りに人だかりができており、はっきりとは見えなかったがなかなかのイケメンの様子だ。

その証拠に彼の両脇には大胆にはだけた衣装の踊り子や女性騎士がお供していた。

周りにいる町娘たちもきゃあきゃあと騒いでいる。

どうやらこの辺では有名な冒険者たちらしい。アイドル的な人気があるように見える。


マリはそちらに冷めた視線を送りながら、コーヒーを持ってきたウェイターに話しかけた。


「あのご一行はなに?めちゃくちゃほかの客の迷惑なんだけど」


「あー、、すみません。けど、マリさんご存じないんですか?天下の勇者タクト様ですよ」


「は?タクト…」


「はい、魔法戦士です。治癒魔法も剣術もできるマルチプレーヤーです。

最近ここらのドラゴンをやっつけてから町の英雄ってかんじですね。

あの顔つきだから女性人気がすごくって。

注意すると女性たちからのやっかみがひどいんですよね。

だから、ちょっとだけ辛抱してくださいな。」


そういうとウェイターはそそくさとカウンターに引っ込んでしまった。

あまりかかわりたくないという態度が見え見えだ。


「おい、もう酒はないのか??せっかくタクト様がいらっしゃっているというのに!」


そういうとタクトのご機嫌を取っていた長髪の剣士がせっかく隠れたウェイターを呼びつけた。

ウェイターはいやいやながら引っ張り出されてしまった。注文を受け、どんどんと酒を運ぶ。タクト一行の盛り上がりは酒が入るたびにエスカレートしていっていた。


「もう限界だにゃ!」


静かな雰囲気を好むクロロは耐えきれなくなり、外に出て行ってしまった。


「え、ちょっと…まってよ!」


しかたなく、マリもコーヒーを慌てて飲み干した。

ウェイターを呼びつけて、勘定を終える。

外に出ていこうとして、ふいにちらりとしか見られなかったタクトの顔が気になった。


(女子がこれだけ騒ぐって…一体どんだけイケメンなんだ・・・?)


せっかくだから顔を拝んでやろうと思い、わざとバカ騒ぎする集団の近くを通ってみた。

タクトは黒髪を短く切った青年であった。たしかに目鼻立ちがはっきりとしていて整っている。

仲間たちにじゃれて笑顔になっているが、どこか人に対して冷たい雰囲気も感じさせる。


ふとした瞬間、タクトの目線がこちらに向いた。バチリ、と視線が合った。

その瞬間、マリは前世の記憶が蘇った。


『お前は重い女だから』


そう言って去っていった佐野拓斗の瞳。

いまだに許すことができないマリの前世の元カレ…

それが今、目が合ったタクトの鳶色の瞳と同じだった。

マリは、不思議なくらい落ち着いていた。

タクトの顔を見て満足すると、そのままクロロを追いかけることにした。

そして、伝えなければいけない、と思った。

旅に出なくても復讐することができそうだということを。

そう、佐野拓斗は勇者タクトに転生しているのだ。


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