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旅立ち

あれから、7年がたった。

マリの消滅魔法の技術はめきめきと上達していった。

最初は種しか消滅できなかったが、だんだんとその大きさは広がっていった。

種どころか神様が言った通りフルーツ自体を消せることだってできる。

もちろん皮だけを器用に消滅することもできた。

魚の骨のような複雑な構造のものも消滅できる。

どれだけの食材で練習したのだろうか。

最終的に孤児院では「皮や種をとる人」という謎の役割で周りに知られていった。


しかし、その生活ももう終わりだった。時は満ちていた。

17歳になれば、孤児院から独り立ちしなければいけない。しかし、大きな問題が一つあった。


「全然、成長しないじゃん!!!」


マリは鏡の前で大きな独り言を言った。鏡の中には10歳から成長していないマリの姿があった。


「不老スキルって…10歳で発動するもの?!」


そういって、今日も自分の胸板を触って確認する。あいかわらず、ぺったんこのままである。


「にゃー。しょうがないにゃ。ないものはないにゃ」


そういってクロロは伸びをした。マリはキッと睨んだ。あわててクロロはフォローする。


「それでも老いがないことはいいことだにゃ。うらやましいにゃー」


「けどこれじゃあ計画が台無し!これじゃあ色仕掛けもクソもないじゃん!」


そういって近くの柱に背丈と同じ高さに印をつけた。図ってみる。もちろん7年前と同じだ。

マリは鉛筆を投げ出して八つ当たりをした。

そしてそのままベッドに寝転んでみる。ベッドの横には荷造りした鞄があった。


(明日にはもうここを旅立たなければいけない。)


最初はこんな孤児院なんてと思っていたが、過ごしてみると愛着がわくものだった。

はじめはたしかに一人でいることが多かった。

しかし、マリは復讐にしか興味がなかったので、他人に干渉されない生活は快適だった。練習に没頭することができた。

しかし、正式に厨房に入ることになった時から、周りの見る目が徐々に変わっていったように思える。

最初マリが練習で使ったフルーツを年下の子に分けたとき、子供たちはおびえていた。

しかし、しばらくそれを続けていると、すっかりと「種なしフルーツをくれる人」に代わっていったのである。

魔法の授業も以前より積極的に取り組むようになった。人に対して魔法をかけることができるように人体の勉強もした。

おもえばできる限りのことはやってみたのである。

そんな中でも消滅魔法を悪く言う人ももちろんいたが、それでもマリは前よりも周りになじんでいるかのように思えた。


だがそうはいっても、マリの中にくすぶっている復讐の炎も途絶えているわけではなかった。

それどころか消滅魔法が上達するたびに、一層燃え上がっていった。

この孤児院の子たちが悪い男に騙される前に、なんとかしてあいつらの×××を消滅させてしまおうと思うこともあった。


マリはベッドから飛び起きた。よし、と気合を入れる。明日は旅立ちだ。


(成長していないことは予想外だったけど、私には消滅魔法がある。

きっとなんとかなる。クロロもついてきてくれるというし。)


マリは機嫌を直してクロロを撫でた。クロロはごろごろと喉の奥を鳴らした。




「マリ、もう行っちゃうのね!」


館長は寂しそうに言った。しばらくさめざめと泣いていたが、たまらなくなったのか今度はマリに抱き着いてきた。マリは苦しそうにぐえ、と声を漏らした。


「また会いにきますから。そんな泣かないでください。」


そう笑いながらも、マリもつられて涙が出そうだった。館長は本当に素晴らしい指導者だった。あの一件以来、マリは館長が期待し応援してくれているのをひしひしと感じていた。

もともと一人一人の個性を伸ばすためにこの魔法専門の孤児院を運営している功労者である。

人格の良さはひとしおであった。

マリは前日に感謝を述べていた。その時からずっと館長はこんな調子である。


マリは旅立ちの格好をしていた。旅立ちに伝統的な魔術師のマントを羽織り、三角帽子をかぶっている。

ツインテールの上からかぶるが迷ったが、かぶってみると案外しっくりときた。

三角帽子のつばは広く、気を抜いているとすぐずれて前が見えなくなる。大人用のサイズになっているからである。

館長に抱き着かれてずれた三角帽子を直した。

10歳の体のままのマリにとってみるとやはり少し大きい。


「色は本当に黒でよかったの?」


仲良くなった料理長が聞いてきた。

確かにマントと帽子の色は選べるといわれたが、迷わず黒にした。

うん、と真理はうなずいた。


「だって私は黒魔女だもの!」


そうやってふふんっと威張ってみる。マリが目指したいのは復讐に燃える黒魔女だからだ。


「たしかに、黒魔女だわ。あんたの消滅魔法のこだわりっぷりは不気味だったもの」


そういって料理長がいうとみんな一斉に笑った。


「え?そんな不気味?」そういってマリは焦った。たしかに復讐のことを考えて不気味に笑っていたかもしれない。


「マリちゃん、たまには帰ってきてね」


「クロロも元気で仲良くしてね。これあげるね。」


そう言って今度は慕ってくれていた双子の姉妹、アリアとダリアからお別れの小さな花束をもらった。

双子は「緑の手」と呼ばれる植物を育てるのに長けている魔法使いだ。

この時のために一生懸命育ててくれた花たちだろう。


「ありがとう。アリア、ダリア。嬉しい」


そういって今度はアリアとダリアを抱きしめた。

アリアとダリアは嬉しそうにニコニコと笑った。


「そろそろ行こう、マリ。」


そういったのはクロロだった。


「うん!」


マリはうなずくと、みんなに向いて手を振りながら踏み出だした。


「それじゃあ、いってきます!」


マリは後ろ髪をひかれながらも、近くの町へと旅立った。



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