表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/22

危険な魔法との向き合い方

「うーん、まだ練習が足りない気がする」


そういって自分が種を抜いたフルーツの食べながら、クロロに話しかけた。

フルーツはこれでもう五個目だった。


「またフルーツを盗むのかにゃ?ばれたらえらいことになるにゃ」


クロロはそっぽを向いてそういった。もう協力しないぞ、と言いたげな態度だ。

マリは心の中で舌打ちしたが、クロロの言い分ももっともである。

それに、そんなにフルーツを種なしにしたところですべてを食べきることもできない。

なにより、みんなで食べるはずの食料を盗むのは忍びないものだ。


「しょうがないな…」


そういって、マリは歩き出した。今いる庭から施設の入口へ向かう。

クロロは心配そうについてきた。


「なにするのにゃ?」


「んー、館長に申し出るの。厨房にはいって魔法の練習させてほしいって。種抜きならフルーツだけじゃなく野菜でもできそうでしょ。それならみんな食べてくれるし。」


「そううまくいくかにゃ…」


クロロはそう言ったが、ついてきてくれた。なんだかんだいっていいやつである。


マリは一回の角部屋にある館長の部屋をノックした。

返事がしたので、開けると館長が忙しそうに事務作業をしていた。

館長は40代くらいの女性で髪を一本にまとめている。

目つきはとてもやさしそうで、孤児院の館長になるにふさわしいやわらかい雰囲気の女性である。

消滅魔法という恐ろしい魔法を持つマリに話しかける唯一の大人でもある。

マリも館長を何度も頼ってきたし、今回もマリは自分のお願いを聞いてくれるだろうと思っていた。



「だめです。」


返事はシンプルかつ直球だった。

館長はいつものニコニコした雰囲気とは違っていて厳しい。


「なんでですか?理由を教えてください!」


マリは期待を裏切られて面喰いながらも理由を聞いた。

館長はいつもとは打って変わって、だるそうに説明をした。


「なんでって…マリ、あなたの魔法は危険だと言われている消滅魔法ですよ。

そんなもののは練習などしなくてよろしいのですよ。何もしないのが一番です。」


「けど、ほかの子たちは魔法を練習しているじゃないですか。

わたしだけ練習できないのは不公平です!」


そうやってマリは一生懸命訴えた。


事実、マリ以外の子たちは適性がある魔法について学習をしている。

練習はもちろん、その魔法の活用方法、応用、取り扱いの注意をそれぞれ把握しているのである。

そうやって独り立ちしたときに魔法を活かして社会に適合できるようにしているのだ。


「急にどうしたのですか。今まではそんなこと言わなかったじゃないですか。」


ため息をつきながら館長はそう言った。

たしかにマリはいままで魔法の授業に参加はしていたものの、実際に使うことがなかった。

先生たちももちろん使うことを勧めることはしなかった。

ひとえにマリの力が危険であることをみんなが理解していたからである。


「たしかに自分の力が恐ろしいものであることは知っています。

けれど、このままなにも知らないままでいたらもっと怖いと思いませんか。

このままこの力にふりまわされる人生は嫌です。

せっかくなら使って役立てていきたい。」


もちろん復讐が一番やりたいことなんだけど、とマリは心の中で付け加えたが口には出さなかった。

なるべく館長が納得できるような形で説得したい。

それに、本心でもあった。

マリは今までの人生がこの魔法に振り回されてきたように思えてならなかった。

せっかく強力な魔法を選んだのに、それを使わないまま思うように生きられないのはただ息苦しいだけだ。


「そうはいっても…困らせないで、マリ。」


館長はマリに近づき、マリの両肩を抱いた。しゃがみ込み、マリの目線に合わせる。


「今までどおりでいいのよ。魔法なんかなくても生きていけるじゃない。

使っても恐ろしいだけで役に立たない魔法よ。だから、使わないのが一番なのよ」


館長はそう言ってマリの瞳を覗き込む。マリの瞳に館長が映った。

館長はひどく疲れているように見えた。なにかに耐えているようにも見える。

マリが今まで見てきた館長とは大きく違っていた。

いつも子供たちのそばにいて見守ってくれる優しいひだまりのような存在。

それが館長だったはずだ。


疑問に思ったマリは館長をスキャンしてみた。


スキャンすると左の親知らずの奥歯が「弱点」として出てきた。

スキャンした体内のイメージ図では左奥歯の親知らずだけが赤く点灯している。


(これは…虫歯??)


マリは合点がいった。

館長は親知らずの虫歯の痛みに耐えていたのである。

そういえば館長は甘いものが大好物で食べている姿をよく見かけていた。

それに加えて子供の擦り傷の血を見ただけでも、卒倒してしまうような館長である。

歯を抜くなんて所業は館長にとってみれば「スプラッター」だ。

おそらく歯を抜くのが嫌で放置していたに違いない。


そう現状を把握して、マリはあることを思いついた。


(正直危険な賭けだけど、、、)


マリは一瞬葛藤したがすぐにもちなおし、決心した。


(やってやる!)


マリはそう勢いづくと、館長に語り掛けた。


「館長の言い分はわかりました。ただ私何もしないで役に立たないと決めつけるなんてできません。

危険なだけというのであれば一回試してからそう判断してください!」


「試すってなにを・・・?」


そう館長が言った瞬間にマリはマリの肩にあった館長の手を外した。

そしてそのままマリの手で包み込むように館長の手を握りしめる。


「バラス・・・・!」


呪文を唱えると、館長の左奥歯が光った。

館長は一瞬何をされたのがわからず、びっくりしていた。

が、魔法を発動されたことに気づき、慌てふためいた。

口の中の光はあふれ目を開けることもできないほど目の前を覆った。


「なにをしたの?!」


そう館長が叫んだとたん、光は一瞬で消えた。

館長は哀れにも取り乱していた。息遣いが荒れている。


「なにをしたの?!」


もういちど荒れた息を整えながら館長はマリに聞いた。

マリはその様子に罪悪感にかられたので、うつむいて謝った。


「ごめんなさい。館長の左の親知らずを消滅させたんです。」


そういうと館長はあわてて左のほほに手を当てた。

舌を使い、左奥の親知らずの存在の有無を確かめる仕草をしている。

館長は「信じられない・・」とつぶやき、今度は手鏡を机の引き出しから取り出した。

大きな口を開ける。

その左奥には親知らずは忽然と消滅していた。

館長は穴を開くほど鏡を見ていたが、今度は勢いよくマリのほうに視線を向けた。


「全然痛くなかったわ…」


そう呆然としたようにつぶやいた。


「それはよかった…!!」


マリはほっとした様子で胸をなでおろした。

そして、今度は気を引き締めるようにして館長に向き合った。


「…私の魔法、役に立たないっていいきれますか…?

私、自分の魔法と向き合って役立てていきたいだけです。

危険なのは承知の上です。どうか練習させてください」


そういって丁寧に頭を下げた。

正直、かなり勇気がいる決断だった。

下手すればこの孤児院から追放される事態になっていたかもしれない。

それだけのことをやってしまったが、後悔はなかった。

このままの自分でいるのは嫌だ。自分の魔法と向き合って生きていきたい。

マリは復讐という目的抜きで、そう思っていた。


館長は少し考えてから、机の上にあるベルを鳴らした。

ベルの音を聞いて、お世話係のひとりが飛んでくる。


「料理長をよんできて。この子が魔法で料理の手伝いをしてくださるそうよ。」


マリは嬉しそうに顔を上げた。お世話係の人は「かしこまりました」というと厨房へと向かっていった。館長は厳しい表情のまま、マリに語り掛けた。


「けど、もう二度とこんな危険なことをしてはダメ。もし、魔法を人に向けてするなら今度はきちんと勉強してからにしなさい。」


「はい!…ありがとうございます。」


元気よくマリは答え、お礼を言った。館長は今度は前のような笑顔に戻って言った。


「こちらこそ、歯を消滅してくれてありがとう。マリは変わったのね。もちろんいいほうに、よ。」


マリはほっと胸をなでおろし、ドアの外でのぞいていたクロロにウィンクした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ