第四話
柔らかな物腰で穏やかに微笑む彼はとても戦場の天才と呼ばれているような方には見えませんでした。
淡い金髪に吸い込まれそうになるくらい綺麗な紺碧の瞳。線の細さから、ある意味女性よりも美しいと思わせるような中性的な魅力を感じます。
シュバルツ・ベルゼイラ殿下――ベルゼイラ王国の第二王子である彼はこのパーティーを主催して、何故か私にプロポーズをされました。いや、正確には妹のジルに対して、ですが。
「シュバルツ殿下、お会いできて光栄です。ベルゼイラ王国では、そのう。パーティーの席では冗談を言い合うような風習でもございますのでしょうか?」
「冗談を? ああ、なるほど。いや、済まなかったね。我が国にはとても優秀な予言者が居るんだ。私が戦場で勝ちを幾つも拾えているのも予言のおかげなんだよ」
ベルゼイラ王国には優秀な予言者がいる?
それがシュバルツ殿下が戦場の天才と言われる所以だと仰せになっていますが……。本当にそんなことがあり得るのでしょうか。
つまり、殿下は私と……いいえ聖女ジルと結婚をした方が良いと予言者に言われたからプロポーズをしたと――。
では、休戦協定の条件としてジルを人質にしたいと仰せになられたのは――。
「私と結婚するために人質として私を要求したということでしょうか?」
「その通り。それがベルゼイラ王国の繁栄のためだと言われたからね。普通に君との婚約を条件にしても良かったのだけど、色恋が絡むとなると足元を見られそうだったし……まぁ他にも理由があるが……」
あっさりとシュバルツ殿下は私の疑問を肯定します。
どうも最初から様子が変だと思っていましたら、そういうことでしたか。
困りましたね。人質として牢獄生活かと思いきや、シュバルツ殿下の婚約者にされるとは。
私がジルでないとバレる可能性が跳ね上がりました。
聖女として矛盾がないように立ち回りませんと、私はもちろん故国は再び戦乱の渦に巻き込まれるでしょう。
「事情は分かってもらえただろうか? それでは改めて君に結婚を申し込もう。受け入れて貰えるかい?」
ここでノーという選択肢はありませんね。
休戦協定の目的がジルとの結婚であるならば、私の選択肢は一つしかないでしょう。
特に故郷に思い入れがあるわけではありません。家族に至っては憎悪の対象ですらあるかもしれません。
しかし、私や私の家族のせいで無関係な人たちが巻き込まれるのは我慢が出来ないのです。
「喜んでお受け致しますわ、殿下。これからは殿下の婚約者として恥ずかしくないように努めます」
私はシュバルツ殿下が差し出した手に触れて、彼のプロポーズを受け入れました。
最早、後には退くことは出来ません。
私はこれから聖女ジルとしてシュバルツ殿下の妻として相応しい人間になります。
「ありがとう。突然の申し出を素直に受け入れてくれて嬉しいよ。聖女を何人も輩出している名門中の名門、アウルメナス家の噂はベルゼイラ王国にも届いている。その中でも才能が特に豊かだという君が私の妻になってくれるのなら、この国の繁栄はそれだけで約束されるだろう」
「そ、そんな……大袈裟です」
ジルの評価がここまで高いとは……。
よく考えれば、敵国の人間にも関わらず一国の王子が結婚しても良いと考えるほどの人材ですものね。
いざとなったら精霊術で彼らを失望させないようにしなくては――。
こうして私はシュバルツ殿下の婚約者となりました。




