第二話
「――というわけだ。ミネア、お前は聖女ジルとしてベルゼイラ王国に行くのだ。人質としてな」
「ミネア姉さんが私の身代わり? お父様、大丈夫ですの? 見た目は同じでも初級魔術も使えないような魔力量しかありませんのよ」
「まぁ、確かにミネアは天才のお前と違って無能な落ちこぼれで、アウルメナス家の恥晒しだが……それでも誤魔化せるだろう。考えてみろ、人質なんて牢獄で監禁されるに決まっている。魔術など使う機会などあるはずがないだろ」
父はもはや決定事項のように私にジルの身代わりになるように伝えます。
ジルは私などが自分の身代わりになれるのか懐疑的でしたが、人質として投獄された人間が魔法など使う機会がないからバレる可能性がないと断じました。
そうですよね。敵国に人質として送り込まれるのですから、普通の生活を送れるはずがありません。
とはいえ、今の私の生活も普通とは程遠い。落ちこぼれの能無しだと蔑まれ――理不尽な暴言や暴力に耐える日々。
いっそのこと牢獄の中に入れられた方がマシなのかもしれません。
「あはは、牢獄だって。根暗な姉さんにピッタリですね。こんなのが双子の姉でずーっと嫌な思いをしていましたが、初めて双子でよかったと思いましたわ」
「だろう? ちょうど私もそれを言おうと思っていたんだよ。余計な食い扶持だと思っていたが、上手い具合に予備になってくれた。神は真面目に生きている我らを見捨てはしないということだ。日頃の行いってやつだな」
妹のジルも父親のゲイルも私が生まれてきた価値が初めて出来たと喜びます。
この二人は本気で私という存在を疎んじていたのでしょう。
やはり、隣国へ人質となりに行くことは避けられないみたいですね。
「分かりました。私がジルの身代わりになってベルゼイラ王国へ行きます」
覚悟を決めて私は両親と妹にベルゼイラ王国に行くことを了承すると伝えました。
この国にも、この家にも、未練はありませんし……どうせ人間扱いされないのなら、せめて妹の役に立とう。
私は自分の人生を諦めました。精霊術を学んだり色々としてみたのですが、全て徒労に終わりましたし、そろそろ頑張ることを止めてもいいでしょう。
人質生活を送ることになったのは良い機会です。
「何を当たり前のことを宣言しているのだ?」
「あなた、もしかして拒む権利があったとでも思っているのですか?」
「うわっ、何か同情買おうとしていますの? 気持ち悪いんですけど……」
しかしながら、こんな私の覚悟も家族にとっては全く価値のないものとして受け取られました。
知っています。彼らにとって私の存在は居ないほうが良いくらいだということは。
何を期待していたのでしょうか。馬鹿みたいです……。
こうして私はベルゼイラ王国に聖女ジルとして向かうことになりました。
牢獄に監禁されて、自由などとは程遠い生活になると思っていたのですが……。
私が手にした新しい生活は想像とかけ離れたものだったのでした――。