7.せんかれっこうけんをアレンジした聖女様、もうこはさいけんもマスターする
過剰回復魔法は邪魔された。でも、千花裂孔拳なら余裕で出せる!
そして私には、魔法拳がある!
私は拳に過剰回復魔法を纏わせた。
魔法拳や魔法剣には、メリットが二つある。
一つはゲームでもおなじみ。相手が苦手としている属性で攻撃できること。
もう一つは、攻撃が当たる度に、魔法の効果が得られること。これは、実際に魔法が使える世界にきて、自分で魔法を使わないと、実感しにくいかもね。
実は、魔法というものは、呪文を唱え始めてから実際に効くまで、意外と時間がかかる。
回復系の魔法は、特にそう。
強力な魔法ほど、効くまでに時間がかかる。その間、使用者は動けない。
そして、魔法は一度限りの使い切り。
連発するには、呪文を繰り返し唱えなきゃならない。
魔法拳は、そんな時間をゼロにできる!
つまり、こういうことよ!
「千花裂孔拳!」
過剰回復魔法を纏った連撃!
さすがに千発はなさそうだけど、100発は軽く超える拳がカーズマのメカ部を直撃!
「グオォォォォッッ!」
カーズマの悲鳴!
右足のメカ部がボロボロと崩れる!
ドッドーン!
カーズマが倒れた!
100を軽く超える回数の過剰回復魔法を受けた右足は、立っていられなくなるほど損傷した模様。
「グガァァァァァァァァァ!」
カーズマが転げまわる。装甲の破壊部から、腐食した金属っぽい破片が零れ落ち、サラサラと崩れる。
これは、まだ過剰回復魔法が作用してるんだろうなぁ。
ゴトッ!
「あ゛」
カーズマの右足の膝から下が外れた!
足指、甲、踵、脛って感じで、装甲のパーツがばらけてる。中は空っぽ。身をほじった後のカニだね。
あ、右脚も外れた。
もしかしたら、過剰回復魔法がメカ部全体を覆っちゃったのかもしれない……。
☆
カーズマの動きが急に小さくなった。
そのタイミングで、天の声が届く。
《条件を満たしました。オリジナル拳技<毛枯破細拳>を習得しました》
《条件を満たしました。称号<機竜撃破>を獲得しました》
《称号<機竜撃破>の効果により、便利魔法<ステータス>を獲得しました》
《称号<機竜撃破>の効果により、スキル<行動分析>を獲得しました》
《称号<機竜撃破>の効果により、スキル<行動予測>を獲得しました》
声の終了と同じタイミングで、カーズマは完全に停止した。
中身のないアダマンタイトの装甲が、ああちこちに散らばってる。
このアダマンタイト……ドロップ品ってことでいいのかな……?
などと考えてたら、御使い様の声。
『機竜の扉クリア。選択の間に戻ってください』
「!?」
声が終わると同時に、カーズマのドロップ品が消えた!
アダマンタイトは希少品。持ち帰れば、ひと財産築けたのに……。
……ハッ! ひょっとして、死んでも生き返れるルール、竜にも適用されてる?
私の前に物々しい扉が現れた。
ドロップ品が消えたので、ここにいる理由はない。
私は扉を開け、選択の間に戻った。
☆
『やりましたね、ティア』
「はい、ありがとうございます!」
『明日も楽しみにしてますよ。ゆっくり休んでください』
選択の間に戻った私は、御使い様に休むよう言われた。
正直、これは意外。
試練を急ぐよう勧めたのは、他ならぬ御使い様。
それに、私は全然疲れてない。むしろ、カーズマと戦う前より調子がいいくらいだ。
ただ、御使い様は、そーゆーのを全部承知の上で、私に休むよう言ってるわけで……。
うん。今日はここまでにしておくのが吉だね。色々調べたいこともあるし。
「はい。明日もよろしくお願いします」
☆
神の祠を出た私は、転移門に向かう。
ここは、山頂に龍神が住むとされてるマアト山の七合目付近。
マアト山は、人が登るには険しすぎる山。麓からの登山道など、あろうはずもない。
なので、往来には転移門が使われてる。私たちの生活区域は、南側の麓にある。
生活区域の南側は、マルクト教の聖地になってる。大陸中から集まる巡礼者や観光客で賑わう区画だ。あ、総本山があるのは他の場所よ。
生活区域の北側は、神職や聖職者の修行の場。私の生活の場は、この区画になる。
そして、聖地と修行の場を隔てる形で、聖騎士団の総本部がある。イメージとしては、外敵から聖域を守る砦だね。
そんなマアト山一帯が聖域。その名の通り、神様に一番近い場所だ。
私は転移門をくぐった。程なく足元に光の輪が現れ、私はワープ。行先は修行の場の転移門よ。
「ティア様、もう試練は終えられたのですか?」
転移門から出た私に、ビシッとしたお姉さんが声をかけてきた。
彼女は聖騎士のシャルラ。今日の警備責任者だ。
神の祠は、基本立ち入り禁止。なので、転移門は聖騎士さんたちが交代で警備してる。
聖騎士さんは男性の方が多いんだけど、今日は私が使うので、女性二人のペアになってる。
うん。修行中の聖女は、たとえ家族でも男子禁制なんだ。正式な聖女になれば、この制限はなくなる。
「ご苦労様。今日はもう休むようにって、御使い様に言われたの。続きは明日よ」
「承りました。本日の試練、お疲れ様でした」
年齢はシャルラの方が上。でも、聖女の身分は伯爵以上の貴族と同等。まして、私は王族。
なので、こんな感じの会話になるわけ。
ちな、聖女の必修科目には、貴族レベルの礼儀作法も入ってます。もちろん、私も履修してるわ。
☆
自室に戻った私は、ソファーに腰を下ろした。スッと沈み込むような、何とも言えない感覚。
そのまま身を任せて、しばらくの間、何も考えずにボ~~ッとする。
ふう。竜とのバトルで上がりまくってたテンションが、ようやく落ち着いた。
そして同時に、私は自分がとんでもなく強くなったと確信した。
そうだね~、聖騎士の中堅クラスから……。うん、世界最強の一角と言われてる聖騎士総長と同等以上だ。
「!」
な、なんだってー! 自分で言ってて驚いた。
いやいや、ちょっと待て私。なんぼ何でも、それは盛りすぎちゃうか~?
でもなぁ、私の直感は、そう言ってるんだよ。
天の声もいろいろ言ってたし、順番にチェックしようか。
まず、毛枯破細拳というパンチ技を覚えた。これは……過剰回復魔法の魔法拳だね。
さっきは千花裂孔拳で連発したけど、これは単発。でも、技を使えば自動で過剰回復魔法がのるメリットがある。
生物な雑魚敵に使うのに、ちょうどいい感じだね。
過剰回復魔法がオリジナル魔法なので、毛枯破細拳もオリジナル技になる。
名前の由来は、体毛を枯らし、細胞を破壊するから。
ちな、千花裂孔拳の名前の由来は、「千の花が切り裂き穿つから」とも、「無数の衝撃が突き抜けた背中に、千の花が咲いたように見えるから」とも言われてる。
名前も由来も私は考えてないんだけど、それを追及しないのがオトナですよ?
次は称号。
ジを撃破した時と同じように、機竜撃破の称号をもらった。
そして、称号の効果で、魔法を一つとスキルを二つもらった。
ここで、疑問が一つある。
鏡竜撃破でもらったのは、スキルが一つだけだった。
もらえたモノの数だけ見ると、無視できない差があるよね。
例えば、蜘蛛が主人公な異世界は、称号一つにスキル二つと決まってた。
その代わり、称号の入手難易度に見合うスキルがもらえるようになってた。
実際のところは、おそらくジを倒したことで、私は魔法拳と千花裂孔拳をもらえた。
なので、数的には同じだとも言える。
でも、それだと天の声が無かった理由がわからない。
それに、ジとカーズマを倒した後で、程度の差はあるけどいきなり強くなった理由もわからない。
雫の記憶の時みたいに、天の声があれば納得できるんだけどね~。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
本作を書くきっかけになったダイ大ネタ、千花裂孔拳と毛枯破細拳が出そろいました。
もう、思い残すことはありません(嘘)
今後の展開ですが、2話使ってステータスをアレコレし、以後のバトルは私TUEEEEになります。
13話で第一章終了。閑話を挟んで第二章になる予定です。
第二章開始まで、何日かかかるかもしれません。
今のところ、そんな感じです。