53.預言者が入れ知恵したので、聖女様は念動ロイドと戦うことになりそうです
時は少し遡る。
爆散魔動砲がマルクト聖国の聖都ケイテルを消し去った直後のこと。
ここまでの全てを企ててきた預言者レイ・オニキスは、この場で一番身分が高いと思われる謎の男と共に、追加の報告を受けていた。
「魔動エネルギー反射体、損傷率80%」
「爆散魔動砲用エネルギー圧縮炉、逆止弁が溶融しました」
「聖女の約半数が著しく衰弱。再起不能と見られます」
内容は、思わしくないものばかり。
だが、意味するところはどれも同じである。
一言でまとめると、爆散魔動砲が使用不能になったということだ。
爆散魔動砲は、大勢の人族から魔法力を吸い上げ、それを圧縮してして発射する兵器である。
つまり、エネルギー源は聖女に限らない。
今回聖女を使ったのは、レイによって、半トランス状態になっていたからである。邪念が少ないぶん、良質の思念が得られるのだ。
また、聖女は一般人より魔法力が多いので、その点でも都合が良かったと言えるだろう。
爆散魔動砲は、平均的な聖女が持つ魔法力の75%を吸い上げるよう作られていた。
吸い上げられた魔法力は、同時に吸い上げられた思念――今回は破壊――を具現化するエネルギーに変換される。
それが魔動エネルギーであり、魔法が発動直前でホールドされているような状態である。
魔動エネルギーは発射後の損失が無視できるレベルにまで圧縮され、大気圏外に配置されたエネルギー反射衛星に向けて撃ち出される。
以後は反射衛星による反射を繰り返すことで、パンゲイア大陸のどこにでも撃ち込める。
反射衛星は主な国の主要都市上空にもれなく配置されており、亜音速での移動も可能だ。
そのため、あたかも神罰のように、目標の真上から撃ち込むことができるのである。
爆散魔動砲の設計と製作にミスはなかった。
だが、初めての実戦投入という一番重要なタイミングで、想定外の結果を招くこととなった。
理由は、発射のために集められた聖女の大半が、設計時点で平均的だった聖女の能力を下回っていたためである。
システムは必要なだけの魔法力を、聖女たちから吸い上げた。
結果、多くの聖女が衰弱。半数は命が危ないレベルにまで弱った。
そして、もう一つ。
聖女の中に、一人だけ規格外の能力の持ち主がいた。
エルフの聖女テレーザである。
システムが吸引力を上げた際、彼女の持つ膨大な魔法力と強烈な思念が流れ込んだ。
そのため、魔動エネルギー圧縮時の温度上昇が想定をはるかに超え、逆止弁や反射体に深刻なダメージを与えたのである。
こうして、ティアが神罰だと思い込んでいる超兵器・爆散魔動砲は、修理と再調整を余儀なくされることとなった。
もちろん、このことをティアたちは知る由もない。
さらに、ティアたちが知る由もないところで事態が動き出す。
状況を把握した謎の男がレイに問う。
「ここは、爆散魔動砲の修理を急ぎ、それからエリシュに侵攻するのが妥当だと思うが?」
「甘いな、ゾウダ。それでは大帝と呼べんぞ」
レイが言った通り、謎の男の名はゾウダ。西の大国バトランチス帝国の皇帝である。
レイの意図が読めないゾウダは、さらに問う。
「では、どうすれば良いのだ?」
「お前が言う通り、爆散魔動砲の修理と調整は必要だ。だが、そうしている間にも、できることはあるだろう?」
「むう。余に、何をしろと?」
「まず、移動要塞と念動ロイドを使ってエルフを狩る。奴らは魔法力が多いからな。聖女の代わりに使える」
「おお、そうすれば魔動要塞で出撃できるな」
「そういうことだ。爆散魔動砲を直しながら動けば、生きている反射衛星だけでエリシュを撃てる」
レイは元々は米国人。
21世紀の米国からこの世界に転移してきた人物である。
フルダイブVRMMOにも深く関わってきた彼が持つ知識や技術は、この世界の魔法と融合し、本来ならアリエナイ物を数多く生み出していた。
以前に使っていたスマホっぽい通信装置や爆散魔動砲は、その一部である。
そんな彼の本領発揮とも言えるのが念動ロイド。
VRMMOの自キャラ感覚で動かせるゴーレムである。
魔法が得意なエルフを狩るのに投入するからには、それなりの戦闘力を持っているのだろう。
彼らの目論見通りに事が運べば、エリシュは爆散魔動砲の脅威にさらされることになる……。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
年が明けてからいろいろあって、再開が遅くなりました<(_ _)>
次回の投稿は1/11頃の予定です。




