52.響け! 聖女様、白い祠(ほこら)へようこそ
私たちは黒い門を調べた。
これがゲームなら、自キャラを前に動かして便利ボタンを押すだけの、簡単なお仕事。
でも、現実だとそれは無理。
地道に調べるしかない。
☆
しばらく三人でアレコレやってみたけど、特に変わったことは起きない。
やっぱゲームじゃないから、いきなりアイテムが光るとか、足が勝手に動くとか、そーゆーのは、ないわよね~。
「団長を疑うわけではないのですが……、本当に、ここに何かがあるのですか?」
「ええ、必ずあるわ」
効率厨の気があるエスメロウドから、疑問の声が出た。
はい。そのぐらいの時間、私たちは黙々と調べてました。
「「エスメロウド殿、ティア様があるというのなら、それは必ずあるのですよ?」」
「「えっ!?」」
まさかまさかのイベント発生!
シャルラの声がダブって聞こえた!
私とエスメロウドは見事にハモった!
これはアレですか? 三人パーティの有名RPGでナントカの紋章がある場所で、こだまする笛を吹いたようなものですか?
「うん。やっぱりここには何かある。シャルラ、声を出しながら歩いて」
「「はい、ティア様」」
☆
そんな感じで調べたら、門の扉の端の方で、強い反応があった。
具体的に言うと、シャルラの声がトリプって聞こえたの。
彼女が立っているのは、扉に触れと言わんばかりの位置。
これは、触れってことよね?
「シャルラ、扉に手を当ててみて」
「「「はい」」」
「だ、団長。これは……」
シャルラが扉に触ると、なんと、手形が現れた!
――のは良かったんだけど、それがまさかの四人分!
どんな感じかというとだね、四人が横一列に並んで、右手で扉に触れろと。そんな配置よ。
はい。私たちは三人なので、一人足りません!
まあ、私の予想が当たってたのと、叡智をゲットするには四人必要なことがわかった。
それは収穫ね。
☆
という感じで、東の青い祠では私の声がトリプり、南の赤いアーチではエスメロウドの声がトリプった。
そして両方とも、四人分の手形が現れたわ。
こうなるとさ、西の白い祠ではさ、まだ見ぬ白い髪の誰かの声がトリプる流れよね?
つまり、私たちにはあと一人、白い髪の少女の仲間が増えるわけ。
えっ? なぜ少女だとわかるのかって?
それは、手形の大きさよ。
四つ現れる手形のうち三つは、私たちの手にピッタリ。
そして残る一つは、私の手より気持ち小さいの。
だから少女だと判断したわけ。
それじゃ、西の祠にも行ってみて、今日のところは引き上げね。
☆
「「「こ、これは……!?」」」
西の祠を前にして、私たちはハモった。
紛らわしくてゴメンナサイ!
でもさ、何か、声が聞こえたんだよ。
それも、私たち全員に。
声は途切れてかすれて、うまく聞き取れない。
なんとなく感じるのは、助けを求めてるんじゃないかってこと。
全身を耳にしたつもりで、集中!
『……わ……す……あ。……れ……あ……れ……の……。は……え……す……ほ……の……。と……く……せ……た……、す……わ……た……に……』
あー、ダメなものはダメだねー。
もう一度、集中!
『わ……わ……と……。じ……る……す……あ……じ…。……う……た……て……い……ゃ。……い……の……し……よ、……て……な……ち………』
むう。やっぱりダメね。
聞こえた音は違ったけど、何を言ってるのかはわからないわ。
もう一度やってダメなら諦めようかしら……?
集中!
『…ら……あ……れ…。…い……の……と……な……ゃ。…は……お……け……し……じ…。…お……に……ん……ち…、…べ……あ……た…………』
はっはっは。完全にお手上げだね~。
……い、言っておくけど、諦めたのは私だけじゃないからね!
シャ、シャルラも、首を左右に振ってるからね!
……えっ!?
エスメロウドは……、何やらつぶやいてる!
まさか……ね……?
私とシャルラは顔を見合わせ、エスメロウドに注目した。
「団長。エルフの国に住む、アストレアと名乗る者が助けを求めています」
なん……だと……!?
いまのノイズまみれの音声から、なぜそれがわかる!?
まあ、それはそれとしてだね。
エルフの国って、えーーーーっと、確か……、そうそう! ジーレルだったかしら?
大陸の西の方にあって、噂では隠れ里みたいになってるとか。
「そ、そう。それで、そのアストレアは何と?」
「はい。母親を助けてほしいと、そう言っています」
私、今日ほどエスメロウドを大した人物だと思ったことはないわ……。
☆ ☆
王城に戻ると、ひと休みしてから例の会議。
今日見聞きしたことの報告はエスメロウドに任せ、私はこの後のことを考える。
まず、ジーレル行きは決定よ。私の中ではね。
当然、側近の二人もつれていくことになるわ。
ただねー、エリシュは聖国の先制攻撃で痛い目にあったばかりだからねー。
文官ズが「どちらか一人は残せ」と言い出す可能性が高いのよ。
そうなった時にどうするか……。
うん。帝国の出方が全く読めないのが痛いね。
ちな、聖国には動きなし。
上空から見た限りじゃ、教皇が死んだことや、聖都が文字通りに消えてなくなったことは広まって無い感じだった。
上層部は聖都と同時に消えちゃったと思う。
中間管理職が自分の判断で打って出てくることは考えにくい。
そうなると、警戒する必要があるのはレイだけってことになるかな?
そのレイは、教皇を置いて、どこかに瞬間移動した。
彼は預言者だから、それも神――管理者M――の意向なんだろう。
あっ! そうか!
聖都に神罰を下したのは、管理者Mだね(確信)
今更だけど気付いたわ。
聖都を滅するのは決定事項で、それをレイには伝えてあった。
だから、レイはさっさと避難した。
一方、教皇以下の面々と私たちが巻き添えになるのは、管理者Mにとって許容範囲内だった。
でも、私たちが巻き添えになることを良しとしない神々もいた。
そーゆーことか。
うん。やっぱ神様の考えることって、私の理解を超えてるわ。
予想なんかできないよね~。
レイに関しては、現れたら都度対処する以外にないか……。
☆ ☆
会議の結果、私たちは三人でエルフの国に向かうことになった。
私が強硬に主張したわけじゃなく、文官ズたちが状況を冷静に判断した結果よ。
私にその発想がなかっただけなんだけどさ、言われて納得したわ。
すべてが未知な帝国を除けば、エリシュの脅威ってレイだけだよね?
そのレイは、城内に瞬間移動してくる可能性がある。それも、私がいない時を狙ってね。
で、レイは竜だけじゃなく、デーモンロードまで召喚できる。
仮にそうなったら、エスメロウドとシャルラが両方いても、不利なことに変わりはない。
だったら、私が城を離れてる時間を最大限減らすことを考えるべき。
と、そーゆー結論になりました。
文官ズ、勝手に低評価しててゴメンナサイ!
ついでに言うと、ダイアトの件が無かったとしても、エルフの国に向かうことの意義はある。
だって、共闘できるかもしれないからね。
鎖国する前の帝国は、エルフ狩りをしてた。
なので、今でも帝国を良くは思ってないはず。
厳重に警戒してて、情報収集までしてくれてたら、メッチャ手を組みたいです。
問題は、エルフの国との交流がないこと。
使者の行き来とかが無いから、街の場所がわからないんだ。
エルフの国は、大陸西部の広大な森のどこかにある。
人間に混じって暮らしてるエルフと違って、森に住むエルフは排他的な傾向が強いらしい。
もうね、街を見つけるだけで苦労するのが目に見えてます。
それでも、国として決めた以上、王女な私はやるしかない。
毎度のことだけど、責任は重大ね。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
2020年の更新はここまでになります。
年明けの投稿再開は、三箇日中を予定しています。
よいお年をお迎えください。




