5.新しい技を覚えた聖女様、第二の試練に向かう
『素晴らしい戦いでしたよ、ティア』
選択の間に戻ると、御使い様に褒められた。
声はすれども姿は見えず。そんな御使い様に、私はお礼の言葉を返す。
「あ、いいえ、そんな、ありがとうございます」
『ジを倒した聖女は、貴女が初めてです』
「えっ!?」
『鏡竜は、その名の通り不敗でしたから』
「そうだったんですか……」
『ええ、そうです。新たな強者の誕生を、とても嬉しく思っています』
「ありがとうございます!」
『それで、次はどうしますか? このまま第二の試練に挑みますか? それとも、明日にしますか?』
「えっ!? 次は明日でもいいんですか?」
『ええ、大丈夫ですよ。至龍の試練は、七日のうちに竜を4体倒せばいいのです』
「そうだったんですか。私、少し休息したら次の相手と戦うものだとばかり思ってました」
おお、だったら明日にしよう! 聖剣に貫通攻撃を付与したり……。
そう考えてたら、御使い様は、少しトーンを落として。
『ただ』
「ただ? 何か、問題でもあるんでしょうか?」
『私としては、できるだけ早く終わらせることを勧めます』
「理由をお聞きしても、よろしいでしょうか?」
『それを聞くのは、試練を終えてからの方がいいと思いますよ?』
うーん……。
御使い様は、先の先まで見越して話を振ってくるのよね。たまにムチャぶりもしてくるけど。
うん。理由は聞かずに試練を続ける以外の選択肢はないね!
「わかりました。このまま続けます」
『いい返事です。次も期待していますよ』
私は気を取り直し、次の相手を選びにかかる。
並んでいる扉は3つ。
左から順に、機竜、魔竜、弩竜だ。
あれっ? 扉の並びが変わってるね。何か意味があるのかな?
んー、特徴らしきものは変わってないから、気にしなくていっか。
まず、ファブラージュの3竜は、こんな設定だった。
機竜カーズマ:直立二足歩行。身長20m。メカ生命体。カウンター狙い。
飛行能力あり。
魔竜ラーミアス:四足歩行で有翼。身長20m。全属性魔法と絶対魔法防御。
飛行時の機動性はドローン並み。
弩竜バリモーア:四足歩行。身長200m。巨体を生かしたパワーファイト。
対する私の最強の攻撃手段は過剰回復魔法。こう言うと聞こえはいいが、実際には、これしかないってのが現実だ。
あと、私の身体能力だけど、前世の記憶が戻った時より上がってる気がする。と言っても、平均的な15歳の少女だったのが、大人の男性兵士になったぐらいだろうけどね。
以上を踏まえて、戦力分析に行ってみよう!
まず、機竜はメカ生命体だ。なので、過剰回復魔法は効かないと思う。
ほら、ゾ○ドやメ○ゴジラの体って、所詮は機械じゃん。だから、回復魔法が効かないじゃん。
回復魔法が効かない奴には、過剰回復魔法も効かないんだよ。
そうなると当然、剣で戦うことになるわけだ。
相手はファーストな機動戦士(ちな、18m)より大きな戦闘用メカ。
モブ兵士並みの戦闘力しかない私が聖剣持ったところで、どうにかなるわけないだろ!
次の魔竜なんだけど、こいつは絶対魔法防御がヤバい。
これを発動されると、全ての魔法が使えなくなるんだ。強力すぎるので、使用者も魔法を使えなくなるけどね。
その分、効果に妥協はない。事前にかけておいた強化魔法なんかも解除される! マジックアイテムも使えなくなる!
そうなると当然、剣で戦うことになるわけだ。
相手は飛べるから、攻撃ヘリに剣で立ち向かう感じだね。大きさもアパッチに近いし。
はい。文字通りの上からボコられて終わりです!
最後の弩竜は、大きすぎてお話になりません!
いや、過剰回復魔法は間違いなく効くよ。でもね、何回使えば息の根を止められるかって話なんだよ。
回復魔法の対象は、人間一人が基本。これは、過剰回復魔法も同じなの。
そう。過剰回復魔法でジを倒せたのは、動きがアレだったことプラス、人間サイズだったからなんだよ。
ちな、200mは、10両編成の電車ぐらいの長さです。それに近い体型の生き物って、蛇とかミミズかな?
さあ、過剰回復魔法を何回ぐらいかければ、200mの蛇を倒せるでしょう?
当然、相手は生きてます。巨体で動き回ります! 過剰回復魔法は、相手に触れるぐらいの距離じゃないと使えません!
弩竜がワニ体型やカバ体型だったら、難易度はさらに上がります!
いやいや、マジで無理ゲーすぎるっしょ!
一応言っておくと、回復魔法の中には、パーティメンバー全員を一度に回復する呪文や、範囲内にいる人全員を回復する呪文もある。
過剰回復魔法も回復魔法だから、範囲回復魔法の要領で、離れたところからデカい相手に使える可能性はある。
ただ、仮にそれができたとしても、効くまでに時間がかかるのと、その間は移動できないというね……。
誰かが足止めなり引き付けるなりしてくれないと、この手は使えません。
相手が大きいのは機竜と魔竜も同じなんだけど、弩竜は別格って話。
というわけで、次の相手は機竜か魔竜。どっちを選べば勝てそうかしら?
大きいのは同じ。空を飛ばれるとお手上げなのも同じ。
となると、魔法が効かないのと魔法が使えなくなるの、どっちがマシかって話……?
う~ん。
そ~ゆ~レベルの勝算しかない私に、御使い様が『次も期待していますよ』なんて言うかな~?
うん。答えはノーだね。
付与の練習なんかだと、ダメそうな時は『まずやってみましょう』的な言葉だったもの。
私は何かを見落としてる。そんな気がするわ。
それじゃ、自分ができることの再チェックからしてみますか。
使える魔法は……増えてない。
剣が上達した気はしないし、上達してるとも思えない。
筋力が上がった気はするけど、ゲームで言うステータス表示的なことはできないから、確かめられない。
ん~、何かないのか、何か……?
……ん?
んんんん……?
私、パンチ系の技を覚えてる!? それも、二つも!!
一つはパンチに魔法を纏わせる魔法拳!
もう一つは超高速の連打で硬い物でも破壊できる千花裂孔拳!
これって、ジと戦ったから覚えたってことよね?
どういう流れで覚えたのかしら?
私、パンチ攻撃なんて一度もしてないわよ?
……。
はい、この件は棚上げ!
いくら考えたって、答えは出そうにないもの。
それより、次の相手よ。
硬い物でも破壊できる千花裂孔拳を覚えたってことは、機竜への攻撃手段が増えたってこと。
えっ? 魔竜には使えないのかって?
もちろん、技は繰り出せるわ。格ゲーでコマンドを入れると、対応した技が出るでしょ。技を覚えたっていうのは、それと同じことなの。
ただね、千花裂孔拳は、体にものすごい反動が来ると思うのよ。ポケットなモンスターでも、威力が高い物理技には反動がつきものだからね。
そうなると、自動回復魔法が効いてる状態じゃないと、まともに使えないと思うんだ。
えっ? 言ってる意味、わかんない?
仮に、私のHPが100あって、千花裂孔拳の一発を打つごとに10の反動があるとしましょう。
自動回復魔法ナシだと、10発目を打った反動で、私のHPはゼロになります!
「千」花裂孔拳って言うぐらいだから、10発で終わりってことはないと思うんだ……。
はい。魔竜の絶対魔法防御が発動してると、千花裂孔拳は使えません!
使ってる最中に絶対魔法防御を発動されたら、高確率で死んじゃいます!
そ~ゆ~わけで、魔竜相手には使えないんだよ。
というわけで、第二の試練の相手は機竜に決定。
武器は……、聖剣を持って行っても、役に立ちそうにないねー。
むしろ、動き回る邪魔になる予感しかしないわ。
私は龍殺しの聖剣を、魔法の袋に収納した。
魔法の袋って言うのは、生活魔法の一つよ。実際に袋があるわけじゃなくて、アイテムを謎空間にしまっておけるの。
ついでに、同じく生活魔法のクリーンで、汚れた体をきれいにする。
ボロボロになったトーガは、新しいものに着替えた。
よしっ! 準備完了!
私は機竜の扉を開け、第二の試練へと向かった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
本話では、機竜という語が何か所も出てきます。これ、ちゃんと確認しないと変換が機「龍」になります(おま環)
投稿前の最終チェックで2つ見つけました。
次話でこれやってたら、話がワケワカメになりかねないという……。