48.神々の声と聖女様、新たなクエスト発生です
「「「ティアーユさん、今すぐ聖都から逃げてください!」」」
「!?」
大の字で休んでる私の頭に、直接届いた神様の声。綺麗にハモった三重唱。
初めて聞く声ばかりだけど、それはひとまず置いておこう。
内容がこれで、切羽詰まった感アリアリだからね。
今の私は立つのもキツイ。
でも、神様にそう言われたら、無理でもなんでもやるっきゃない。
意識はしっかりしてるから、魔法を使ってなんとかしよう。
「鳳凰天駆」×2
まずは短距離移動でエスメロウドとシャルラを回収。
次は最初の街まで長距離移動。
火の鳥っぽい見た目の私たちは、大聖堂から飛び立った。
「!?」
はるか上空に超トンデモなエネルギー反応!
ヤバい予感しかしない!
鳳凰天駆、最大戦速!
時空を超えられそうなスピード(誇張表現)で、私は聖都から離れた。
魔法力がヤバくなったので、いったん地上へ。
最大戦速は燃費度外視。魔法力を目いっぱい使って速度を出してます。
魔法力の消費量は、自然回復量を思いっきり超えてます。
当然、長い時間は使えないのですよ。
「うわっちゃ~」
聖都を振り返ると、エライことになってた。
そうだねー、打ち上げ花火を空から地上に向けて発射したとでも言えば、いいのかな?
はい。聖都は、空から降ってきたトンデモなエネルギーの花に、すっぽりつつまれちゃいました。
あれは、街が丸ごと消えちゃうだろうねー。
神様の言葉が無かったら、私たちも確実に巻き込まれてた。
ラスボス倒したのに脱出できなくてゲームオーバーとか、マジ勘弁。
そーゆーのは、ゲームの中だけにしてください。
少し休んだので魔法力は回復。普通に鳳凰天駆を使う分には問題がなくなった。
爆風や瓦礫が飛んで来る前に、移動再開よ。
☆
「ん? あんなところに街が……」
私は頭の中で地図を開いた。
はい。まんまセフィロトです。街の名前は微妙に違うけどね。
飛行ルートは聖都と最初の街を結ぶ直線上。セフィロトの中央の柱よ。そこを南に向かってます。
次に見えるのはテフレトのはずなんだけど、聖都から近すぎるんだよね。
私の感覚だと、街があるのはテフレトまでの中間点ぐらいに思える。
近付くにつれてわかってきた。
あれは、初めて見る街だね~。
エリシュ出身の聖女がいるかもしれないから、寄り道して調べよう。
鳳凰天駆をキャンセルし、鳳翼天翔に切り替える。
こうしないと、途中で降りられないんだよ。
街があるとわかってれば、最初から鳳翼天翔で飛んでましたとも。
地上に降りた私は、エスメロウドとシャルラを蘇生する。
「完治魔法」×2
えっ? 呪文が違うんじゃないかって?
いいえ、これで合ってるわよ。
二人には、聖ウフノーの護符を持たせてたからね。
何? 聖ウフノーの護符をご存じない?
この護符はだね、死ぬほどのダメージを受けたら、それを肩代わりしてくれるアイテムなんだ。
死にはしないけど仮死状態になるから、戦えないことに変わりない。
でも、完全には死んでないから、回復呪文やポーションで蘇生できるのです。
ついでに、仮死状態になってから72時間は、ダメージを受けたときの状態が保たれます。
例えば、真夏の炎天下でも腐敗しないんです。
重傷だとヘタに動かせないことが多いけど、その心配もありません。
今回みたいな状況だと、実に重宝するのですよ。
「ティア様、ここは……?」
声の主はシャルラ。
先に呪文を使ったから、先に目が覚めたようね。
「聖都の南よ。テフレトまでの中間地点ぐらいだと思う」
「聖都とテフレトの間に街ですか……」
何やら考え込む素振りのシャルラ。
そのタイミングで、エスメロウドの目が覚めた。
「団長、デーモンロードは?」
「倒したわ。貴女たちのおかげよ」
「さすがです。それで、ここは?」
「聖都の南よ。最初の街まで飛んでる途中で街を見つけたから、降りてみたの」
「なるほど。さっきは通らなかった街ですね」
「ええ。聖女がいたら、連れて帰りたいからね」
そこまで話し、私はシャルラに向き直る。彼女はまだ考え中だった。
「ねえシャルラ」
「はっ、はい」
「貴女、私の直属にならない?」
「ティア様の直属……ですか?」
「ええ、そうよ。エリシュ王国青龍騎士団。エリシュの最高戦力で、団長は私。少数精鋭だから、私と副団長しかいないけどね」
☆
シャルラは正式な仲間になった。
決め手はエスメロウドのセリフよ。個人的には、納得いかないものがあるんだけどね。
だって、「青龍騎士団に入れば、常に団長の側にいられます」だよ?
で、それを聞いたシャルラは、目がキュピーンだよ?
私、そーゆー趣味はないんだけど……。
とりま、私たちは街に入ることにした。
☆
街の中は無人。気配感知にも反応はない。
でも、かなりの数の聖女が、ついさっきまでいた可能性が高い。
なぜそれがわかるのか?
それはだね、中央の広場に、聖女の力「瘴気浄化」の残滓がたくさんあるからよ。
並の聖女の残滓は長く残らないし、優秀な聖女の残滓に紛れる。言葉を変えると、わからなくなる。
それを考慮すると、聖女の数は軽く200を超えてたんじゃないかな?
それだけの人数が短時間で姿を消したとなると、瞬間移動したとしか思えない。
おそらくレイの仕業ね。
「?」
得る物はないと判断した私の目に映ったのは、私をチラ見しながら話し込んでるエスメロウドとシャルラの姿。
さっきのセリフの件から考えると……。
まさか!? 百合百合しい相談?
「団長、ちょっとお話が」
「な、何かしら?」
「実は、ちょっと言いにくいのですが、私もシャルラ殿も、団長に聞いてみたいことがありまして」
エスメロウドが言葉を切った。
えっ、ちょっと、いやいや、マジで……?
「団長、この街に入ってから、誰かに招かれている感じがしませんか?」
「へっ?」
私、勝手に盛り上がってたから拍子抜け。
美少女キャラが言っちゃいけないセリフが出ました。
「その、私もシャルラ殿も、街のどこかから呼ばれている気がしていまして」
「そ、そうなんだ。私は何も感じないけど、二人がそういうなら、調べてみましょう」
先導を二人に任せ、私は後をついていく。
ふむ。この街、普通の街とは明らかに違うね。
まず、中央が広場で教会がない。
聖国にも魔物は出る。だから、教会が必要なはず。
聖女が滞在さえできれば、建物は教会じゃなくてもいい。でも、普通は教会を建てる。
そして、お店が見当たらない。
集落が街の規模になると、店は不可欠になる。
人がいなくなっても、建物は残る。それなのに……。
まさか、この街は、最初から人が住んでなかった……?
やがてたどり着いたのは、西のはずれの白い祠。
見た目と色から連想するのは、両開きの扉が付いた「かまくら」だね。
外見は違うけど、聖域にある神の祠っぽい何かを感じる……。
「!?」
突然、天から光が差す。
祠の前に、半透明な姿が浮かぶ。
顔は光って見えないが、白い髪の少女だ。
もしや、この方が、祠に祀られている神様……?
「白の依代を壊してください」
その言葉を残し、神様の姿は消えた。
……今の声、「聖都から逃げろ」って言ってくれた声に混じってた。
つまり、今の神様は、私の恩人――いや、恩神ということになる。
だったら、人として、受けた恩に報いなきゃね。
しかし……西に白い祠があって、白い髪の神様が現れた。
教皇の間の壁の色が四神相応だったのは、偶然じゃない可能性が高いわ。
念のため、他の三方位も見ておくべきね。
☆
東には青い祠があった。
南には赤いアーチがあった。
そして北は、街に一つだけある門が黒かった。
この街をデザインした人物は、間違いなく四神相応を知ってるね。
それじゃ、一度エリシュに戻って、これからどうするかを考えますか。
聖国は落としたけど、帝国が残ってる。
エリシュの聖女たちの消息も不明。
そして、神様の頼み事。
まだ先は長そうね。
第三章 敵対する宗教国家 了
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
聖ウフノーの護符は、カールの守りっぽいアイテムです。
戦闘不能になるけど、死なずに済みます。
お知らせ
間章2話は、隔日で投稿する予定です。
第四章の開始予定は、決まり次第お知らせします。(目標は間章の二日後スタート)




