46.熱血主人公の聖女様、最後まであきらめません!
……こうなったら、円板を出せるだけ出して、全身を細かく切り刻むしかない!
でもそれは、あまりに分が悪すぎる賭け。
首を切り落としても平気な相手を、それで倒せる保証はない。
一方、それをやったら、私の闘気はゼロになる。
そこを攻撃されたら、確実に殺られる。
「(団長)」
後ろからエスメロウドに声を掛けられ、私は思考を中断した。
「(何?)」
「(私とシャルラ殿で、デーモンロードに斬りかかります)」
「(ダメ。却下よ。貴女たちじゃ、返り討ちに合うのがオチだもの)」
「(それは承知の上です)」
彼我の力量差から出した、容赦ない結論。
仲間の無駄死にを認めるなんて、私にはできない。
そんな私の言葉に対し、「そんなのわかりきってます」調で返したエスメロウド。
そうよね。その程度のこと、彼女も当然わかってるわよね。
「(わかったわ。貴女がそういうのなら、何か作戦があるんでしょ? 聞かせてちょうだい)」
「(はい。私たちが戦っている相手は、中でデーモンロードが操るゴーレムのようなものです。本体がいるのは、おそらく胴体の内部です。あれだけ斬られて出血しない理由は、他に考えられません)」
「(そうね。言われてみれば、そのとおりね)」
私はデーモンロードのデタラメな再生復元能力にばかり、目が行ってた。
だから、それを上回る方法を考えてた。
それに対してエスメロウドは、なぜそうなるかを考え、根拠がある仮説を出してきた。
腕を斬られても血が出ない。生身の身体だったら、そんなことはあり得ない。
首を狙われても、防御する素振りすら見せない。生身の身体だったら、考える前に動くはず。
でも、攻撃を受けるのがゴーレムだけなら、本体は痛くも痒くもない。
あえて攻撃を受ければ、こちらの動揺も誘える。実際、私はそうなった。
やはり、彼女は頼りになるわ。
「(ですが、胴体のどこにいるのかがわかりません。ですから、シャルラ殿に攻撃してもらい、それを突き止めます)」
「(どうやって?)」
「(私が囮になり、奴に隙を作ります)」
「(そこに私が全力で討魔滅裁刃を打ち込みます)」
シャルラ単独だと、攻撃するのは厳しい。そこをエスメロウドがサポートするわけね。
「(シャルラ殿には心臓の位置を狙ってもらいます。そこに本体があるなら、奴は動くはずです)」
「(なるほど。攻撃を防ぐか避けるかすれば、そこは斬られちゃマズい。つまり本体がいる。そのまま攻撃を受けるようなら、そこは斬られても大丈夫。ハズレってことね)」
「(はい。攻撃する範囲を絞れれば、無駄撃ちを減らせます。ただ……)」
エスメロウドは言いよどんだ。
そうね。その先は、言われなくてもわかる。
囮役のエスメロウドは、間違いなくダメージを受ける。
デーモンロードの注意がシャルラに向かないように、無茶しなきゃいけないからね。
シャルラの方も、ダメージは避けられない。
私の見立てだと、全力の討魔滅裁刃でも、鎧を貫けるかは五分と五分。
大ダメージは期待できないので、確実に反撃が来る。
そう。彼女たちが2回目の攻撃を仕掛けられる可能性は、奇跡レベルに低いの。
本体が心臓の位置にいなかったら、後は私が何とかするしかないわけ。
でも大丈夫。絶対うまくいくわ。
こういうときに何とかするのは、主人公の役目だからね!
タラレバは禁句。不吉な言葉は使わない。うまくいくことだけ考える。
「(大丈夫よ、任せて。デーモンロードを倒して、三人で凱旋しましょう)」
☆
打ち合わせは終了。後は行動あるのみ。
魔法、アイテム、そして闘気。
手持ちの全てを使って防御力を上げた大盾を構え、シャルラが前に出る。
エスメロウドは左後方につき、タイミングを計る。
そんな二人を信じ、私はじっと時を待つ。
デーモンロードも前に出る。
その巨体とスピード故、二人との距離が一気に縮む。
デーモンロードが振りかぶる。
聖王十字剣の予備動作だ。
当然、狙いはシャルラになる。
身長差故に視線が落ちる。
「聖王十字剣」
デーモンロードの攻撃!
シャルラに受けられないのは実証済み!
だからこそのチャンス到来!
「漆黒円刃襲!」
技のキャンセルができないタイミングで、漆黒の円板を2枚撃つ!
スパスパッ!
切れ味抜群の円板が、両手の爪を斬り落とす!
デーモンロードの攻撃は空振り!
勢い余って前のめり!
体勢が崩れたところにエスメロウドが斬りつけ、注意を引きながら駆け抜けた。
忌々し気なデーモンロードは、エスメロウドに視線を移す。
「討魔滅裁刃!」
シャルラが闘気の刃を発動。
それは今までとは全然違う、強大な刃。彼女の闘気と思いの全てを込めた、全力の討魔滅裁刃。
見た目から推測される威力は、肉の壁の下の鎧にも、それなりのダメージを与えられそうだ。
そして、それはデーモンロードも感じてるはず。
狙いは人間の心臓の位置!
さあ、どう動くの? デーモンロード!
「!」
デーモンロードは動いた!
爪を復元する間も惜しみ、右手で刃をはねのけた!
体勢が崩れたシャルラを、左腕の強烈なアームハンマーが襲う!
ドガッ!
シャルラは壁まで吹き飛び、その場で崩れるように倒れた。
マズい! 早く助けなきゃ!
「!」
デーモンロードが追撃に出た!
私が動くより早く、エスメロウドが反応!
後方からデーモンロードに追い付き、全力で剣を振るう!
「あっ!」
思わず声が出た私。
デーモンロードは振り返り、右腕を思いっきり振り下ろす!
パキィーーン!
その一撃は剣を砕き、エスメロウドを吹き飛ばした!
奴の狙いはシャルラじゃなく、エスメロウドだったのか……!
エスメロウドが受けたのは、あくまでも攻撃の余波。
でも、彼女は軽装。
ダメージは、おそらくシャルラ以上ね……。
☆
「上出来よ。少し休んでて」
鳳凰天駆で二人を回収。安全そうなところに寝かせる。
貴女たちが命がけで見せてくれた勝機、絶対無駄にしないから。
戦いが長引けば私が不利。
だから、出し惜しみはしない。
全開! 龍聖闘気!
「漆黒円刃襲!」
究極の闘気でできた漆黒の円板を10枚。心臓の位置めがけて放つ!
デーモンロードは両腕をXにして防御!
でも、円板は止まらない!
腕を等間隔にスライスし、そのまま上半身を襲う!
「!」
なんてこと!
円板は鎧を貫けてない!
腕を斬った分、威力が落ちた……?
いや、違う!
腕を斬ってない円板も、全部途中で止まってる!
そうか……、威力は元々足りなかったんだ……!
そうよね。
鎧は一度、砕かれてる。
復元のついでに強化してても、全然不思議じゃない!
円板は消滅した。
もたもたしてると腕も治る。
考えろ、私。
闘気はまだ残ってる。
後一度だけ、攻撃できる。
でも、同じやり方じゃ倒せない。
円板の切れ味もスピードも、これ以上は上げられない。
…………。
……。
だったら、一点突破するしかない!
行動分析と行動予測をフル回転!
デーモンロードの動きを読む!
さらに円板の動きも読む!
行け――――っ!
「漆黒円刃襲、一点集中攻撃!」
残りの闘気の全てを使い、円板7枚を連射した!
最初の円板は狙い通り命中!
前と同じく途中で止まる。
うん。計算通りだね。
鎧で止まった円板に、次の円板が命中!
止まっていた円板を、無理やり奥に押し込む!
そう。これはボイルドエッグばりの力押し
円板1枚で貫けないなら、2枚3枚4枚と、同じところに撃ち込めばいい!
5枚、6枚、そして最後の7枚目! ついに鎧を貫いた!
それじゃ、最後の仕上げよ!
「爆裂!」
鎧の中の円板は、超圧縮した龍聖闘気。
それを一気に解放する!
バァァァァン!
小規模なビッグバンにも匹敵する爆発音!
デーモンロードは粉々に吹き飛び、強大な気配も消滅した。
さすがに今回は疲れたわ。
これで復活してきたら、マジお手上げだからね……。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
今回は、書いてる途中にいろいろありました。
中盤を後回しにして終盤を書いたとか、サブタイをギリギリまで思いつかなかったとか。
詩まで書いて投稿しちゃったとか。
そういうの、普通はないんですけどね。
理由の一つは、味方をどのレベルで戦闘不能にするか迷ったからです。
セラムン無印の終盤、見ててショックでしたから……。




