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44.教皇の間の聖女様、壁の色は赤からです

 正面の扉を開け、大聖堂に入る。

 すると、そこは無人の大ホール。

 客席に傾斜がないコンサートホールってイメージね。

 最前列席とステージの間のスペースと、最後列席の後ろの立ち見スペースは広めにとられてる。


 ステージは祭壇になってて、最奥には人が5人は並んで通れそうな階段がある。

 そこから降りてくるのは、神様か、その代理たる者。

 つまり、階段の上が教皇の間ってことになるわね。


 左端の小階段からステージに上がり、最奥の階段を上る。


 踊り場を三つ経た先は、大ホールの上階。

 少し前方は赤色の壁。広い通路が左右に伸び、後ろに回り込んでる模様。


「よく参られましたな、龍の聖女殿」


 背中から深みのある男性の声。

 ふむ。階段は、フロアの端にあったのね。


 振り返ると、中ホールの左右に高位の聖職者たちがズラリ。

 中央の奥には、一人だけ他と違う――見るからに最高位っぽい――衣装の老人が座し、隣にレイが立っていた。

 声の主は老人で、彼が教皇ってことだろう。


 聖職者たちは全員老人で、男女比は8対2ってとこ。

 エリシュだと老人の男女比は3対7で女性の方が高いのに、高位の聖職者だと逆なんだね。


 レイと教皇の後ろには、真新しい神像。

 その姿は、私たちが見知ってるマルクト様の像とは完全に別物。

 私もマルクト様のお姿を見たことはないから、どちらが本物に近いかは不明よ。


 で、私が何気に気になってるのが、ホールの壁の色。

 私の方向感覚が確かなら、私は北を向いてて、そこに教皇とレイがいる。

 二人の後ろの壁は黒い。

 右側――東――の壁は青で、左側の壁は白い。つまり、最初に見た赤い壁は南の壁ってわけ。

 そう。いわゆる四神相応しじんそうおうの色になってるの。

 なぜそれが気になるかというと、インキビットには、そういう概念がないからよ。


 マルクト教の教典には、龍神しかでてこない。

 さらに、それが青いとは書かれてない。


 あっ、でも、エリシュの象徴シンボルは青龍だわ。

 場所も大陸の東だし……。

 これは……偶然……?


 私が知らないだけで、マルクト教の教典にも外典がいてん偽典ぎてんがあるとか……?

 教典は聖国が編纂へんさんしてるから、秘匿ひとくしてる可能性はある。

 ちな、何らかの理由で正典から外されたのが外典で、教典にされなかったものが偽典よ。

 外典の類が本当にあるなら、聖国に都合が悪いから外されたと考えるのが自然ね。


 観察を終えた私は、エスメロウドとシャルラを従え、教皇の前へと進む。


 聖職者たちの視線には、一切の敵意を感じない。

 むしろ、歓迎されているかのように見える。

 そして意外なことに、教皇も同じ目をしていた。


 私がホールの中央を過ぎたあたりで教皇は立ち上がり、嬉しそうに名乗る。


「私はアレフール。マルクト教会の教皇として、共に歩む者たちをまとめております」


 そして、私が何かを言う間もなく、感極まったように語りだす。


「神は言われました。私の正義を証明せよと」

「私は問いました。どのようにすればよいのかを」

「神は言われました。戦えと。私の正義を否定する者と戦えと」

「私は問いました。それが何者なのかを」

「神は言われました。それは、聖女でありながら、聖女ではない者だと」


 なるほど。

 崇高で有難い話っぽく聞こえるかもだけど、これ、「神に言われたから私にケンカ売りました」って言ってるだけだからね!


 教皇は講話調で話し続けた。


「私は問いました。なぜ戦わねばならないのかと」

「神は言われました。戦いとは、正義と正義のぶつかり合いなのだと。勝った方の正義こそが、世に広めるべき正義なのだと」


 これ、主人公が海賊(オー)を目指してる漫画に出てきた「戦争と正義の定義」に通じる理屈ね。


「私は問いました。戦うことは恐れません。ですが、共に歩んだ者を失うのは忍びません。私は彼らを死地に赴かせねばならないのですかと」

「神は言われました。信じよ。されば救われるであろうと」


 そこまで話すと、声のトーンが上がった。


「そうなのです。この場に集いし者たちは、忠実なる神のしもべ。私たちが想いを一つにするとき、神は奇跡を与えてくださるのです!」


 聖職者たちが歓喜の声を上げた。


 ふ~ん。

 要するに、「奇跡を当てにし私にケンカ売った」ってことか。

 考えが甘すぎるんじゃないかしら?


 教皇はレイに向き直り、至福の表情で告げる。


「レイ殿、頼みます」

「承知しました。聖下にご武運があらんことを」


 レイは杖をかざし、例の言葉を言い放つ。


召喚サモン!」


 教皇の足元に、召喚魔法の魔法陣エフェクト

 聖職者たちの足元にも、召喚魔法の魔法陣エフェクト


 そしてレイの足元には、まさかまさかの瞬間移動の魔法陣エフェクト

 これは完全に想定外! 私は反応できなかった!


「それでは、龍の聖女殿。縁があれば、また会うこともあるでしょう」


 レイの姿は消え去った!


 何……?

 あいつ、教皇たちは、どうでもいいの?

 聖国ここ以外にも、行く先があるっていうの……?



 私の意識がレイに向いているうちに、召喚は進んでた。


 魔法陣エフェクトから次々にデーモンが現れ、聖職者と悪魔合体!


 そして教皇の魔法陣エフェクトからは、とんでもない奴が現れた!


 それは、デーモンの最上位。存在は知られてたけど、現れた記録はない。

 最強最悪のデーモン、デーモンロード!


 その脅威度は推定でSS。私と同じで大災害級。

 ただ、これは、アークデーモンがSだからSSにされてるだけの話。実際はSSSかもしれない。出現記録がないんだから、仕方ないわね。

 SSSは神クラスとされてるから、デーモンを神と並べたくないって意向もあったかもね。


 で、今回は間違いなくSSSになると思う。強さに上限がない、天変地異級よ!

 根拠はレイのセリフ。

 私がアークデーモン(ファブラージュルールでSS)を倒したのを見てたうえで「聖国の本気」って言ったんだから、SSはないと思うの


 デーモンロードが悪魔合体を終了。その外見は、教皇が若返った感じだ。

 衣装は教皇だった時のまま。細身で武闘派には見えない。

 瞳が紅い以外は、聖国の青年男性だね。


「ジークパープスト!」


 デーモンロードの叫び声!


 それは、老いた教皇の声そのもの。

 これは……若返ったのは外見だけってこと……かしら?


「!?」


 デーモンロードの謎魔法!

 右手を掲げ、掌からエネルギー弾らしきものを掃射した!

 狙いは私たちじゃない!

 ホールに並ぶデーモンたち!


 バシュッ! ×たくさん


 急所を一発で撃ち抜かれ、デーモンが次々に倒れる!


 これは、いったい何の真似?

 わざわざ戦力を減らすなんて……。


「聖下、どういうおつもりなのです!」


 シャルラが声を上げた。

 デーモンロードを聖下呼びしたのは、教皇の声だったからだろう。

 気持ちはわからなくもないけど、ここはスパッと切り替えてもらいたいかな。


「いえ、簡単なことですよ。彼らは弱い。そして、私もまた弱い。ですから、力を合わせるのですよ。このようにね」


 好々爺(こうこうや)然としたデーモンロードのセリフ。

 一線を超えて強い魔物は知能も高いっていうのは、どうやら本当らしい。

 そしてこのセリフ、嫌な予感しかしない。


悪魔主鎧生成ロードアーマージェネレイト

「!?」


 デーモンの死体が不気味に光る!

 そしてそれは一つ、また一つと宙に浮き、デーモンロードの前に集まっていく。


 やがて死体は互いに溶け合い、徐々に人の形へと変わる。


「!」


 最後にデーモンロードが合体!


 光が収まったそこには、大人の三倍近くある、漆黒の巨人が立っていた。

 その外見は、私が倒したアークデーモンそのもの。

 鎧の巨人ってイメージだ。


 そう。デーモンロードは、デーモンの死体を集めて自分の鎧にしたってわけ。

 力を合わせるって、こういこと……?

 こんなの、私は認めたくないわ。


 デーモンロードが温和な声で戦闘開始を告げる。


「それでは、始めましょうか。正義をかけた戦いを」

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


 今回は一日遅れの投稿になりました。

 なろラジの短編書いたり、他の方の参加作品を読んだりしていて、連載を書く時間が無くなりました。

 次回は明後日投稿できると思います。たぶん。


 デーモンロードの鎧は、超魔ゾンビが元ネタです。

 少し前、知り合いの作家さんは、超魔ゾンビを知らずに同じようなネタを書いてました。

 できる人は、自力でそーゆー発想が出てくるんだなぁと感心しました。

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