43.聖騎士総長vs聖女様、戦士たちへの鎮魂歌
全翼展開小爆発掃射は、例えるなら無数の手榴弾をぶちまけてるようなもの。
隊長格の鎧は呪文無効なので、手榴弾が触れても、爆発はしない。
でも、足元に落ちれば爆発するし、爆風や破片は飛んでくる。
すぐそばにいるモブ聖騎士に当たっても爆発して、爆風や破片が飛んでくる。
つまり、隊長格と言えども、集団の中にいると、それなりにダメージを受けるのです!
小爆発の連射が終わった時、立ってたのは隊長格の5人だけ。
しかも、全員フラフラよ。
「助さん、格さん、やっておしまいなさい!」
今の状況、上様の「成敗!」の方が合ってる。雑魚を倒したのも、隊長格を弱らせたのも、私だからね。
でも残念。それは二人にわからない。「えっ? よろしいのですか?」と間違いなく聞いてくる。上役が弱らせた相手に止めをさすのは、手柄の横取りだからねー。
しかし、御庭番がそんなこと言ったら、様式美が崩れるのですよ。
なので、わかりやすく御老公にしました。
二人はアイコンタクトを交わし、隊長格を片付けた。
副長っぽい青年を倒したのは、当然シャルラよ。
死体がアンデッド化しないように祈りを捧げ、いつの間にか通れるようになってた門――門が壊れたから全翼展開小爆発掃射を止めたんじゃないですよ?――から聖都に入る。
「これが聖都……」
「ずいぶんと落ちぶれたものね」
「……」
呆気に取られてるエスメロウド。正直な感想を述べた私。そして、黙り込むシャルラ。
目の前の光景は、例えるなら暴動があった観光地跡。
大聖堂に続く大通りに、人の姿はない。
その両側には、異端者を弾圧した際にできたと思われる抗争の跡。
露店の残骸と壊れた建物。それが先まで並んでた。
☆
私たちは噴水がある大広場に到着。
噴水の先にある階段を上れば、いよいよ大聖堂だ。
でも、その前に雑魚掃除。
階段の上には、聖騎士団と聖騎士総長。ついでにレイも待っていた。
聖騎士総長、さっきより強さが増してるね。
マジ見掛け倒しだったのが、母上ぐらいになってる感じだ。
私たちの敵じゃないけどな!
聖騎士総長は腕組みしたまま、上から目線で言い放つ。
「さっきは不意を突かれたが、今度はそうはいかんぞ! 世界最強と謳われた我が力、存分に見せてくれよう!」
私、ちょっとカチンときた。
上から目線で物言われるのは、百歩譲って目をつぶろう。
今は戦時で、相手は敵国の大物だからね。
でも、聖騎士にまで見下ろされるのは、ハッキリ言って許せない!
それをしていいのは、私が認めた者だけよ!
全員まとめて、ふるいにかけさせてもらうわ!
「全翼展開小爆発掃射!」
少し長めの小爆発掃射!
聖騎士はもちろん、隊長格も吹き飛んだ!
立ってるのは、レイと聖騎士総長の二人だけ!
「なっ!?」
聖騎士総長の態度が一変。組んでいた腕を解き、周りをキョロキョロ見渡してる。
これ以上ないぐらいに隙だらけよ!
私は鳳翼天翔で瞬時に聖騎士総長の前まで移動。
右アッパーを手前に打ち、目の前で止めた。
聖騎士総長的には、風圧を感じたと同時に、目の前にいきなり私の拳が現れたように見えてるはず。
そのままひじを伸ばし、額を軽く小突く。
「ひっ!?」
聖騎士総長は飛び退った。
「貴方、自分が世界最強だって言ってるけど、それ、全部鎧のおかげじゃない」
「なっ……、だ、黙れーー!」
聖騎士総長が肩から突進してきた。
円盾を着けてるから、それなりの威力はありそうね。
もちろん、大人しく当たる気はないわよ。
相手を十分引き付け、サイドステップ!
闘気を込めた右ストレートを、カウンター気味に放つ!
「げふっ!」
まともに食らった聖騎士総長は、レイの足元まで吹っ飛んだ!
私はレイをビシッと指しながら告げる。
「さあ、次はあなたよ!」
「いえいえ、そうはいきませんよ」
レイは不敵に返すと、例の杖を振りかざした。
「召喚!」
召喚魔法の魔法陣が、聖騎士総長の下に現れた!
現れる魔物は、人間よりやや小型のようね。
「!?」
あ……、これヤバい奴だ。
でも、そうだよね~。
私たち、デーモンを倒しちゃってるもんねー。
そこに呼ぶってことは、そーゆー魔物だよねー。
そろそろシャルラにもわかるころだね~。
「ア……、アーク……デーモン……!?」
そう。現れるのはアークデーモン。
デーモンの上位種で、脅威度はSランク。でも、今回はSSランクになる。
そして厄介なことに、デーモンの上位種は、合体相手の能力を、そのまま取り込むんだよ。
魔法陣の上の聖騎士総長は漆黒のオーラにつつまれ、異形へと変貌した!
今のオーラの色、隊長格の鎧の色と同じ……よね?
まさか……?
「なっ!?」
悪魔合体を終えたアークデーモンは、漆黒の鎧を着けていた!
聖騎士総長より一回り大きくなった身体に、ちょうどフィットしてる!
サイズ調整してまで身に着けたってことは、その能力を把握し、有用と判断したってこと。
つまり、奴には魔法が通じない!
「クフフフ」
アークデーモンは、いかにも悪魔って感じで笑っている。
「!」
アークデーモンが攻撃してきた!
両肩の円盾を外し、闘気を込めて投げてきた!
「ブラックディスクレイド」
円盾を覆う闘気は、刃のように鋭い。
なるほど。これ、斬れるやつだ。
ふっふっふ。私は菜っ葉さんとは違うのだよ!
素のアークデーモンは武器を持たない。
当然、円盾なんか使わない。
つまり、これは取り込まれた聖騎士総長の技だね。
初対面から敵だったけど、世界最強だった戦士の技。
斬る系の攻撃手段は持ってないから、覚えさせてもらおうか。
デーモンに全てを奪われた戦士たちへの、鎮魂歌的な思いも込めて。
私は円盾のダブル攻撃を受けた。
と言っても、実際はノーダメ。
その分はアークデーモンに倍返しなんですけどね(笑)
「クッ」
アークデーモンの鎧にXの深い傷!
そこから覗く地肌から、青い血が飛び散る!
「!」
アークデーモンの脅威的すぎる再生力!
自分の傷だけじゃなく、鎧の傷まで見てる間に消えた!
魔法は効かなくて、再生力は驚異的。
そうなると、とれる方法は一つだね。
全開! 龍聖闘気!
究極の闘気を込めた拳で邪魔な鎧を砕く!
「千花裂孔拳!」
カッ!
光速拳の効果音!
無数の拳が漆黒の鎧をガラスのように砕く!
アークデーモンの鎧は、粉々に砕けて飛び散った!
続けてこれ。
鎧が再生する前に、対生物最終兵器を放つ!
「毛枯破細拳!」
アークデーモンの身体が大きく波打つ!
「ク、クハ……」
凄まじいまでの抵抗力。
肉体の崩壊に抗ってる。
これは、予想以上に時間がかかるかも……?
そーゆー事態は避けたいよね。
ラノベなんかだと、戦いの最中に超パワーアップがバンバンあるから。
でも、過剰回復魔法の重ね掛けは無意味なんだよね。
どうすればいい……?
あ、そうか!
今は鎧がないから、神聖魔法が通じるはず。
「神聖滅却光」
アークデーモンの足元と頭上に魔法陣が現れ、光を放つ。
二つの魔法陣は光で結ばれ、円柱を作る。
閉じ込められたアークデーモンが暴れる! が、光の柱はビクともしない。
魔法陣が輝きを増した!
それは、柱の中に、神聖な光が放たれた証。
瞬間! アークデーモンは跡形もなく消え去った!
「これはこれは、アークデーモンでも貴女には勝てませんか」
深刻そうな顔だけど、軽い口調のレイ。
これは、まだ余裕があるってことよね。
「もう邪魔は入りませんので、教皇の間まできてください。そこで、この国の本気を見せてあげますよ」
レイは瞬間移動で消えた。
聖国の本気か……。
個人の戦闘力としては、聖騎士総長が最強だったはず。
今の言い方だと、それを超えるってことよね?
ま、相手が何をしてこようと、戦って勝つだけよ!
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
お詫び
12/2の活動報告で「漆黒円刃襲は43話で登場予定」と書きましたが、壮大に勘違いしてました!
43話で出るのはブラックディスクレイドでした。
出ると思ってた方、マジごめんなさい!
なお、ブラックディスクレイドという技名は、ブラッディースクライドの変形です。




