41.預言者と聖女様、転移者と転生者の邂逅
「えっ!? あ……、何が……?」
背後から、隊長格の女性の声。
さっきも思ったんだけど、この声、聞き覚えがあるわね?
振り返るとそこには、聖域で見知った顔があった。
「えっ!? ティア……様……?」
「久しぶりね、シャルラ。教皇を倒したいんだけど、力を貸してくれない?」
シャルラは提案を受け入れた。
それじゃ、聖国に乗り込む準備をしようか。
「完治魔法」×3
まず、聖騎士3人の回復。
シャルラと部下2人が感謝の言葉を述べた。
ちな、シャルラも部下2人も、ついでに聖騎士総長も、みんな黒髪黒目です。
聖国出身の人間は、大半がその組み合わせなのですよ。目鼻立ちは西洋系なんだけどね。
シャルラの体型? 鎧姿しか見てないから、何とも言えないわ。
私とエスメロウドは、異世界モノで年齢相応な体型よ。
身長? 私は15歳の平均に少し足りなくて、エスメロウドは大人の女性の平均ぐらい。シャルラはエスメロウドより少し高いわ。
このへんは今まで説明するのを忘れてた――んじゃなくて、説明する機会がなかっただけです!(強調)
次は、心を鬼にして、彼女の部下2人に戦力外通告。
いや、教皇に一矢報いたいって気持ちはわかるし熱意も買う。
でも、攻撃の余波で武器や防具を手放しちゃうレベルの同行者は、お荷物にしかならないんだ。
これが護衛ミッションなら、話は別よ。戦えない人を護るのが最優先だからね。
でも、今はそうじゃない。
少数精鋭で敵本拠地に乗り込み、相応の戦果を挙げるミッション。
お荷物を庇って戦力が低下するなんて、あっちゃいけないことなの。
敵の攻撃に反応すらできずに棒立ちしてる味方をカバーしに動くとか、棒立ちの味方が後ろにいるので攻撃を避けられないとか、そーゆーやつ。
そんな状況になったら、私は味方を見捨てられないからね。
あ、味方を人質に取られた場合だけは、「私にかまわず~」のセリフに乗りますよ。
そうすると、相手が「!?」となって、隙ができることが多いので(笑)
☆
私、エスメロウド、シャルラの3人は、巡礼者用の門から聖国に足を踏み入れた。
玄関口になってる街の名はアルクト。巡礼ガイドにも載ってるわ。
門の前の広場には、聖騎士総長が仰向けでノビてた。
パッと見20人の聖騎士たちは、それを遠巻きに見てるだけ。
私が彗星拳撃ってからソコソコ経ってるのに……、聖騎士ら、ド素人集団か?
広場の端の方や道路には、モブな聖騎士が全部で10人倒れてるね。息があるのは2人だけか……。
「ねえシャルラ、ここにいる聖騎士は、全員敵ってことでいいのかしら?」
「はい、ティア様」
「そう。それじゃ、遠慮なく――――流星拳!」
SHWOKK!
龍星座の聖闘士を倒したような効果音!
聖騎士たちは吹き飛んだ!
「いやいや、これはこれは、さすがですね」
「!?」
空から聞こえたオバサー男性の声!
反射で見上げた空には誰もいない!
「!」
視線を戻すと、聖騎士総長の側には、ファブラージュの魔法陣!
でも、これは召喚魔法じゃない。
登録した場所にワープする、瞬間移動の魔法陣よ!
そこからアニメの変身シーン的な虹色のシルエットが現れ、足元から実像に変わっていく。
そして姿を現したのは、高位の聖職者っぽいローブを纏った金髪碧眼の男!
聖国の出身じゃない者が、その地位に就くことは珍しい。金髪碧眼の持ち主が、複数いるとは思えない。
おそらく、こいつがレイ・オニキスね。
彼の印象は、とにかくちぐはぐ。
インテリそうな目鼻立ちとは裏腹な、格闘家ばりに太い首!
その体格は強者のもの。なのに、強さをほとんど感じない!
預言者って触れ込みだけど、私の視点じゃ、そんなレベルじゃないわね。
「初めまして、龍の聖女ティアーユ様。私はレオ・オニキス。M様の御言葉を預かる者です」
丁寧だけど力強い声。これもアンバランスね。
そして、今の言葉を信じるなら、レイは、管理者の間でMと呼ばれている神――つまり管理者M――の預言者ってことになる。
管理者M=マルクト様の可能性は低いと思う。マルクト様って、自分の像を壊せとは言わない気がするんだ。
レイは言葉を続ける。
「そこで倒れている聖騎士総長を、ここで失うわけにはいきません。役目を果たさせるため、回収させていただきます」
「私がそれをさせると思う?」
「これはM様の御意向です。私には、それを叶える義務があります」
そう言い終わると、レイは空間に左手を入れ、光沢のない黒い杖を取り出した!
これで、ほぼ確定。
レイは、ファブラージュの魔法を使える!
空間から杖を出したのは、ファブラージュのアイテムボックスの魔法よ!
アイテムボックスの魔法は、インキビットにもある。
生活魔法の熟練度ランクを上げると、使えるようになるの。
でも、インキビットのアイテムボックスは、念じるだけで出し入れできる!
名前は同じだけど、見た目は全然違うのよ!
エスメロウドとシャルラを振り返ると、二人は信じられないものを見たって顔。
かくいう私も、少し驚いたからね。
瞬間移動の魔法陣を見てなかったら、二人と同じ顔をしてたと思うわ。
レイは左手に持った杖を天にかざし、力強く唱える。
「召喚!」
「!?」
聖騎士たちの足元に魔法陣が出現!
倒れてるやつらの下にも出てるね。
召喚される魔物は、魔法陣のサイズからして人間ぐらいの大きさだと思う。
これでまた一つ確定。
名無しなのに強さが1ランク上の魔物は、レイが召喚したわけだ。
つまり、教皇のついでにレイも倒せば、懸念事項をまとめて解決できる!
しかし、ドラゴンを瞬殺する私に人間サイズの魔物をぶつけるなんて、甘く見られたものね。
数が30いたって、たかが知れてるわよ?
何を召か……ん?
人間サイズで、人間と重なるように召喚する魔物……まさか……?
「こ……この気配は……!?」
「シャルラ殿、この気配が何か、わかるのか?」
そうだよねー。聖騎士のシャルラは、そっち方面と戦う訓練もしてるもんねー。
あー、これは確定だねー。
「デーモンです。デーモンが現れます!」
「デーモンだと……!」
インキビットにもデーモンがいる。
正確には、「いる」んじゃなくて「現れる」んだけどね。
普段は私たちとは違う世界――魔界とか、アストラル界とか、諸説あるわ――にいる魔物で、肉体を持たない霊的生命体だ。
この世界で活動するときは、この世界の生き物と、文字通りの悪魔合体する。
デーモンの脅威度はAだけど、今回はファブラージュルールが適用されるからSになるわね。
デーモンが厄介なのは、普通の武器や魔法じゃ、ロクにダメージを与えられないこと。
ちな、闘気と神聖魔法なら、普通にダメージが通ります。
シャルラは両方使えるはずだから大丈夫。じゃなきゃ、聖騎士になれないからね。
武器の場合は、聖別と祝福されてればOK。
つまり、聖剣持ってるエスメロウドも大丈夫よ。
えっ? 説明してる暇があったら、召喚を阻止しろって?
あのねー、そんな無茶言わないでよ。
召喚魔法は、インキビットに無いもの。つまり、世界の理を、神の力で捻じ曲げてるものなの。
そんなものを人の力でどうにかできると思う? どうにかできたとして、不測の事態が起きない保証がある?
そんな無謀なチャレンジするぐらいなら、デーモンを倒す方が何倍もマシ。安全で確実なのよ。
召喚されたデーモンは、出現と同時に悪魔合体!
魔法陣の上の聖騎士が赤黒いオーラにつつまれたと思ったら、異形へと変貌する。
頭には山羊のような角、背中には蝙蝠のような翼。
手足の爪は、肉食獣のように伸びている。
相手が聖騎士の死体でも、悪魔合体は行われる。
聖騎士は養分にすぎないから、能力も生死も重要じゃないの。
合体が済んだ後には、聖騎士だった者たちの鎧が、抜け殻のように転がっていた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
預言者レイ・オニキスが、ついにティアの前に登場しました。
初出は21話。ずいぶん引っ張ったものです。
なお、彼の名前は元ネタがレイ○ニクスなので、呼び出された魔物はパワーアップします(安直)




