40.大空はばたく聖女様、紅の翼で敵を撃つ
異常に強い個体が多数出現!
これは問題よ。原因を突き止めて解決する必要があるわ。
でも、それと戦うこと自体は、問題でもなんでもない。
ほら、相手がコバエだろうが普通のハエだろうが、殺虫剤をシュ――――ッ! で駆除できるでしょ?
私にとっては、それと同じことなの。
ワイバーンは氷に弱い。
でも、今の私は、火の鳥の中にいるようなもの。
なので、正直、氷弾は使いたくない。
やってできなくはないけど、労力と威力が釣り合わないのよ。
ワイバーンは少しだけ火に強い。
でも、今の状態で火魔法を使うと、それを帳消しにできるだけの威力が見込めるの。
労力を考えると、こちらの方が断然お得!
というわけで、対空攻撃、行きま~す!
この数なら、全翼展開小火球掃射を使うまでもない。
魔法力を両翼の前部に集めて小火球を連射!
今の私の小火球は、優秀な魔法使いの大火球以上の威力がある!
結果、ワイバーンはあっさり片付きましたー。
「!」
それが合図だったかのように、前方に巨大魔法陣出現!
いや、ちょっと、これ……マジ……!?
私が驚いたのは、それが大きいからじゃない。
それが、この世界に存在しないはずの魔法陣だからよ!
どれだけ魔法に精通した者でも、解読不能、理解不能、効果不明な魔法陣!
でも、私はそれを知っている。雫の知識に残ってる。
それは、この世界っぽいVRMMO・ファブラージュで使われる魔法陣。
それっぽい図形と記号を組み合わせ、それらしく見えるようにデザインされただけの物。
宗教的な問題を起こさないよう、当時のスタッフが専門家に監修してもらった、正真正銘の偽物よ!
特別な魔物が現れる前兆として使われるそれは、召喚魔法のエフェクト!
そこから現れる魔物は、魔法陣の大きさに比例する!
「団長、あれは?」
「大物が出てくる合図みたいな物よ」
「大物が出てくる……合図……? 魔法陣では、ないのですか……?」
エスメロウドは不思議顔。
まあ、それも当然ね。
魔法陣自体が謎だし、私がその正体を知ってたことも謎だろうから。
魔法陣をくぐり抜けるようにして、巨大な魔物が現れる。
それは直立型ドラゴンの最大種。身長が30メートルを超えるギガントドラゴンだった。
ちな、背中にチョコンとついてる翼は、飾りじゃなかったりします。
ん? 気配で感じる強さは、ドラゴンのレベルじゃないね……?
そんな時こそステータス!
人間相手には使わないけど、魔物相手に遠慮はいらない。
おおう。
ステータスで調べたら、脅威度は驚きのSランク! なのに、名前持ちじゃない!
ここで私はピンときた。
あー、これ、ファブラージュの仕様だねー。
召喚魔法で呼び出された魔物は、通常出現する個体より1ランク強力になるんだよ。
そうした理由? ライト層にも召喚魔法を使ってもらうためよ。
苦労して仲間にした魔物を召喚したら、同じ魔物に苦戦。育成しなきゃ勝てない。それじゃ、ライト層は使ってくれないの。
でも、即戦力になれば、ライト層ほど使ってくれるのよ。
ファブラージュ的に召喚されたから、ファブラージュ的に脅威度アップ!
こんなの、私にしか想像できないと思うわ。
ともかく、こいつを放置して保護国に行かれでもしたら、面倒以外の何物でもない。
なので、片付ける以外の選択はない。
ただ、こいつ、この巨体でメッチャ機敏に飛ぶんだよね~。ワイバーンと同じ方法じゃ、墜とせない可能性がマジ高い。
となると、これだね。
私は左右の翼から天帝の龍撃を放つ。
「天翔十字砲!」
青い龍二匹はホーミング機能付き!
上方からギガントドラゴンに迫り、Xにクロスしながら命中!
巨体をあっさりと消し去った!
☆ ☆
私とエスメロウドは、聖国の入り口――巡礼者用の大門の前に立ってます。
巡礼に来た人は、ここで御朱印帳に入国印を押してもらい、お遍路的に聖国各地を回るの。
その門は固く閉ざされ、呼びかけても返事はない。気配感知に反応もないから、近くに誰もいない模様。
はい。私たち、空から聖都に行けませんでした!
それどころか、聖国領にも入れませんでした!
うん。聖国は、目には見えない不思議な何かで覆われてて、領空に進入できなかったんだ。
何かに当たる感覚も、引き戻される感覚も、そういうのが一切ない。なのに、入れなかったんだよ。
不思議な何かは、雲の上から地上までつながってた。
建物の壁や空気を素通りできる鳳凰天駆でも通り抜けられなかったから、しかたなくここに来たわけ。
門を壊すことはできそうだけど、実行するのは気が引ける。――っていうか、絶対無理です!
だって、左右の扉がマルクト様と御使い様(らしき方)のレリーフなんだもん!
お二方と直接言葉を交わせる身としては、壊すなんてできません!
聖国も策士だね。教会の神像は壊しまくったのに、扉のレリーフは残しておくなんて……。
これじゃあ中に入れないじゃないか!
むう。なぜインキビットには、扉を開く魔法がないんだ……?
あ、そんなものがあったら、マジモンの泥棒がやりたい放題やっちゃうか……。
とりま、魔法がないなら創ればいい。
呪文は世界共通のはず。
「開扉魔法」
呪文を唱えると、扉の向こうから怒声や罵声や剣戟の音!
……これは、大勢が争ってる? あ、気配感知にも反応がある!
開扉魔法を使うまでは、確かに誰もいなかったのに……どゆこと?
「!」
扉の向こうで誰かが強力な一撃! それがこっちに来る!
エスメロウドは気付いてない!
私は鳳凰天駆で彼女を回収し、距離をとる!
同時に右側――御使い様のレリーフ側――の扉が吹き飛び、ついでに人も飛ばされてきた!
「あ、ありがとうございます……。団長……」
エスメロウドが頬を赤らめてるけど、今はそれどころじゃない。
飛ばされてきたのは、鎧装備の3人。鈍色の全身鎧の男性が2人と、漆黒の全身鎧の女性が1人。
ふむ。装備から見て。聖騎士団の隊長格と部下ってところかな?
聖騎士は防御力の高さがウリ。なので、全身鎧に大盾と片手武器の装備が普通なの。
で、隊長を務められる実力者は、鎧が漆黒なのです。このへんは、聖域にいるときに教えてもらいました。
実際、今回も隊長格だけ大盾と短刀を手放してないからね。力量差は歴然よ。
3人は相当なダメージを受けてる模様。倒れたままで、立ち上がる気配がない。
ん? 見るからに強そうな隊長格のおじさんが出てきたね。
漆黒の鎧は、パーツのエッジにゴールドのピンストライプが入ってる。どこぞのタバコブランド(J○S)が、スポンサーについてそうだ。
それ以上に特徴的なのが、両肩の円盾ね。
今は素手だから、攻防ともに円盾を使うんだと思う。
おじさんに続いて、部下っぽいのもぞろぞろと。
どうやら、3人を追ってきた模様。
でも、助けるって雰囲気じゃないね。どちらかというと、止めを刺しに来てる感じだ。
「聖下に盾突く異端者ども! その罪、死んで償うがよい!」
おじさんの言葉を受け、隊長格の女性が反応した。
よろよろと立ち上がり、精いっぱい言い返す。
「わ、私が……お仕えするのは……マ、主神様だ。聖下では……ない……!」
「よかろう。聖騎士総長アドナオト・ツァイ・ハニル。聖下の代理として貴様らを断罪する!」
ほほう。
これはつまり、聖国の中にもマルクト教徒がいて、教皇教徒が弾圧してる構図だね。
で、聖国の最大戦力も弾圧側に回ってると。
敵の敵とは共闘できる。
聖騎士が一人でも味方に付けば、私たちが知らない聖国のアレコレに対処できるかもしれない。
ここは、助ける一択ね!
「くらえ! ブラッ」
ド――――ン!
縮地で瞬時に距離を詰め、彗星拳を放つ!
攻撃モーションに入っていた聖騎士総長は、後ろにいた聖騎士たちを巻き込み、門の中まで吹っ飛んだ!
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
天翔十字砲は、極星十字剣にするかどうか悩みました。
漢字の元ネタは天翔十字鳳と極星十字拳。両方とも南斗鳳凰拳の奥義です。
サブタイ的には極星十字剣だったんですけどねー。
炎の翼から金属製の手裏剣を出すのは無理ありすぎ。炎の手裏剣は別の意味で無理ありすぎ。
そも、極星はどこから? で止めました。
次回は明後日投稿予定です。




