39.ハメられた聖女様、傷心からリベンジへ
「竜破斬!」
街の外壁が見える平原。
疾風のごとく駆けるエスメロウドの剣が、赤黒い鱗を切り裂く!
相手はカースドラゴン。
アフリカ象の倍ぐらいある、有翼で四足歩行タイプのドラゴンよ。
傷を負ったドラゴンは逃げを選択。
翼を広げ、宙に舞った。
「団長!」
「ええ。止めは任せるわ。鳳翼天翔か~ら~の~、全翼展開氷弾掃射!」
私はドラゴンを瞬時に追い抜き、正面から氷弾を連射。両翼を氷結させた!
氷った翼じゃ飛べないのは、飛行機もドラゴンも同じよ。
風を操れなくなったドラゴンは、無様に墜落!
「竜破斬!」
エスメロウドの一撃!
カースドラゴンは倒れた。
ふう。これで一件落着ね。
それじゃ、何がどうしてドラゴン退治になったのか、それを説明しておくわ。
少し前、バックラ領にカースドラゴンが出たでしょ。
そいつ、エリシュを出て、小国を転々としてたみたいなの。
で、今日。
保護国――安保条約を結んだ国――からSOSが入ったので、私たちが来てるわけ。
成体のドラゴンは、種類を問わず脅威度A。私が出向く案件です。
ここはシヴァサキ公国の公都ルーイのすぐ近く。
ヘタに大魔法を使うと、街に被害が出ちゃいます。なので、チマチマ戦いました。
はい。こんな時のために、保護国には通信用の魔道具も貸与してます。
アスタルト義母上の力作で、外務省直通です。
頑張って小型にした魔道具は、絶滅危惧種な緑の公衆電話機サイズ。機能は通話オンリー。
スマホ並みのサイズで多機能な魔道具は、当分できそうにないね~。
「団長から頂いた剣、素晴らしいですね」
「ふふーん。まあね。私、付与の腕前も超一流だからね。もっと褒めていいわよ」
「はい。さすがです、団長」
エスメロウドの剣は、私の最新の自信作。龍殺しの聖剣・極よ。
名前でわかると思うけど、至龍の試練で作った龍殺しの聖剣の上位互換です。
サカスダンで一番の剣匠が鍛えた名剣を全力で聖別&祝福して聖剣化。
それに切れ味UPと殺傷力UPと龍殺し、自己修復と貫通攻撃を付与しました(ドヤァ)
え? 貫通攻撃を付与できたのかって?
瘴気浄化を付与できる私が、貫通攻撃を付与できないはずがないでしょ?
貫通攻撃を言霊としてとらえたら、あっさり成功したわよ。
ん? 今気付いたけど、私が付与しまくれば、伝説級の武器や防具が量産できるんじゃ?
そしたら、エリシュの戦力は確実にアップするわ!
これは、父上に話してみるべきね!
それで王女の日――拷問具が強制着用になる日――が一日でも減れば……。コルセット、マジ勘弁してください!
☆ ☆
二日後に予定されてた王女の日は中止になったわ。
ん? その割には喜んでないって?
ええ。その通りね。
いつもの私なら「二日後に予定されてた王女の日は、諸般の事情により、中止になりましたぁーーーーーーっ! やったね!」ぐらい言ってるわ。
理由? 王女の日をやってるどころじゃなくなったからよ……!
聖国が! 宣戦布告のついでに! 先制攻撃してきたのよ!
鳳凰天駆で王城に戻ると、カースドラゴンが二匹暴れてた。
私とエスメロウドで瞬殺したけど負傷者多数。中には呪われてる人もいた。
当然のごとく、城はそこかしこが破壊され、ついでにアチコチが呪われてた。
みんなを回復して呪いを解いて、落ち着いたところで事情を聞いたら、これが聖国の仕業!
私の推測も交えながら、事実関係を整理しておくわ。
まず、聖域につながる転移門から、高位の聖職者と思しき男が現れた。
男は自分が聖国の使者であると告げ、レイ・オニキスと名乗った。外見上の特徴――高位の聖職者には珍しい金髪碧眼――から、本人で間違いないと思うわ。
レイは父上に謁見し、西の大国――バトランチス帝国と軍事同盟を結んだことを通告。続けて宣戦を布告した。
つまり、エリシュは聖国と帝国を一度に相手取ることになったわけ。これは予想外もいいとこよ。
他国からの正式な使者は、用件の如何にかかわらず、無傷で返すのが国際儀礼。
何? 旧ディマンドの元王族の使者?
あれは問題ないわよ。
勇者王に国を奪われた時点で、「他国からの正式な使者」じゃなくなってるもの。
そんなのが不敬をはたらいたんだから、斬るのが当然。斬らない方がおかしいの。
そんなわけで、レイは謁見の間を後にした。
で、中庭に差し掛かったところで足を止め、監視の騎士たちが見たこともない魔法陣を展開した。
数は二つ。
そこからカースドラゴンが現れたってわけ。状況からして、レイが召喚したと考えるべきね。
当のレイは、その場で姿を消したそうよ。
で、ここからが、よくわからない点。
インキビットには召喚魔法がないの。
あ、勇者召喚は例外よ。
魔法力を使うから、広い意味では魔法と言えないことはない。
でも、あれは魔法じゃない。
魔法力を使うのは一人だけど、事前の準備は大掛かり。
あくまでも儀式なの。
なのに、レイはドラゴンを召喚できた。これがまず謎ね。
まあ、それを言っちゃうと、勇者以外の人間を召喚してたことも謎なんだけどさ。
とにかく、普通じゃアリエナイのよ。
ドラゴンを召喚した後、その場で姿を消した方法も謎ね。
消えた瞬間の目撃者はいないから、手掛かりは一切ない。
いきなりドラゴンが出たんだから、そっちに気を取られるのは当然。騎士たちを責めるのは酷よ。
王都にレイっぽい気配はない。目立つ姿で敵国内をうろつくとは思えないから、聖国に戻ったんだと思う。
そんな真似、私の鳳凰天駆でも使わなきゃ、出来ないはずよ……。
カースドラゴンの強さも謎よ。
負傷者の中には、父上母上義母上兄上も入ってたの。
カースドラゴンの脅威度はA。オークキングと同レベルよ。
そんなオークキングが率いる軍団に、義母上や兄上は単騎で挑めるぐらいに強いの。当然、父上と母上は、さらに強いわ。
相手が二匹いたとはいえ全員負けるなんて……、マジ信じられない!
レイがやってきたタイミングも絶妙よね。
エリシュの最高戦力たる青龍騎士団が不在な時に、狙ったみたいに現れ……!?
違う! そうじゃない!
シヴァサキ公国のカースドラゴンも、レイが召喚したんだ!
安保条約があるから、私は現場に急行しなきゃいけない。
一人で十分な相手なのに、いつも通りエスメロウドまで連れて……。
彼女を残しておけば、ここまでの被害にはならなかった……!
聖域経由で転移門を使うことも、今思えば想定しておくべきだった。
……やられたわ……。
開幕戦はエリシュの完敗ね……。
☆
やられたら、倍以上にしてやり返す!
私は鳳凰天駆でエイエイ王国――聖国に一番近い保護国――に飛び、長距離移動用の鳳翼天翔で聖国に向かってます。
長距離移動用の鳳翼天翔は、手動操縦する鳳凰天駆といったところね。
燃費が若干悪いけど、飛行速度や運べる人数は同じよ。当然、今も音速超えてます。
あ、後に大魔導士を名乗った魔法使い君みたいに、カッとなって一人で来てるわけじゃないわよ。
父上たちも作戦に納得したし、エスメロウドも連れてきてます。
やることは単純明快。
このまま聖都まで飛んで、大魔法をぶっ放す!
聖女に犠牲が出るかもしれないけど、国の存亡がかかってるからね。
先制攻撃されたし、もたもたしてると帝国も出てくる。
悠長に救出してる時間は無くなったの。
非情だけど、これが戦争なのよ。
「!?」
街道をナビに飛び、そろそろ聖国領が気配感知に入ろうかという頃、魔物の反応が現れた。
この反応はワイバーン。数は20匹以上!
私を迎え撃つように、聖国の方から飛んでくる!
問題は、その強さ!
気配から推定される強さは、まさかの脅威度Aランク!
前足が翼になってるドラゴン。それがワイバーン。
ドラゴンより格下の魔物で、脅威度はBとされている。
1匹なら「名前持ちかな?」で済むけど、20匹以上なんてアリエナイ!
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
竜破斬は「りゅうはざん」です。ドラグスレイブじゃありません。
次回は明後日投稿の予定です(鋭意努力中)




