36.聖国と聖女様、完治とリカのトラブルストーリー
羽に付与する魔法はできた。
試作品も、あっさりできた。
鑑定で名前を見ると、完治魔法を付与した羽は「完治の羽」、神聖理化光を付与した羽は「リカの羽」になってました。
完治の羽から(仮称)が取れたのは、予想通りだね~。ルビがカタカナなのが気になるけど……。
神聖理化光がリカになったのは……、理化と書いて「ことわりか」と読むと語呂が悪いからじゃないかしら?
残ってる課題は、羽を悪用させない方法だね。偽造とか、複製とか、盗難とか。そういうのを対策しなきゃ。
紙幣みたいに番号と透かしとホログラム……は無理よね~。
あ、そう言えば、漫画じゃ都会な元勇者が特殊な石を羽に付けてたわね。それっぽい感じで何かできないかしら?
こーゆーことは、アスタルト義母上に相談よ。
☆
「おー、ティアはんが工房に来るなんて、珍しぃな。今日は、何の相談なん?」
アスタルト義母上は開発室のトップ。
公務がないときは、今みたいに工房に入りびたりで魔道具を創ってます。
いわゆるリケジョだけど、ちゃんと整理整頓ができる人。レアなタイプかもしれないわ。
エリシュで時計が普及してるのは、義母上のおかげよ。
「実はですね、聖女の羽の管理に……(中略)……なことができる物って、何かありませんか?」
「ふんふん、なるほどなぁ~。それやったら、ちょうどええ物があるで」
義母上は、「石関係」と書かれた棚から、水滴形状の青い石を持ってきた。羽の根元に付けるのに、ちょうどいい感じね。
「義母上、それは?」
「これはな、正規石。その名の通り、正規品っちゅ―ことを証明する石や……」
義母上曰く、正規石は、エリシュで超高額な品物――伝説級の武器とか――を作れるようになった時のために、開発したとのこと。
その機能は、既製石の上位互換。
ソコソコ高価な量産品に、番号として組み込むのが既製石。番号は、ライトの魔法で照らせば見える。
それに、複雑な模様も入れられるようにしたのが正規石なのだとか。
しかも、特殊な電波的なものを出すので、所在地も探れるらしい。つまり、盗まれてもどこにあるかがわかるから、取り返せるってことだね。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
エリシュは行動を起こした。
聖国に迫害されている小国に、聖女の羽、完治の羽、リカの羽の貸与を始めたの。
といっても、国として真正面から聖国にケンカを売ったわけじゃない。
あくまでも「困っている小国を見過ごせない龍の聖女」を「母国がバックアップする」というスタンスよ。
私は一人しかいないから、代わりに各国に話を持ち掛けてる。そういう形になってます。
もちろん、手当たり次第に羽を貸与するわけじゃない。
エリシュに隣接してて、民の価値観が近くて、統治者――王とか大公とか――が有能な国から順番よ。
これは、先の先まで考えたうえでの順位付け。
万一の時に、併合できる国を優先してるの。
そうじゃない国は、悪いけど後回し。
旧ディマンドみたいにダメダメなのは当然だけど、他の要件も説明しておくわ。
まず、飛び地を作らないこと。
これは最重要よ。
常人レベルで事足りる戦いは、数こそが力。魔物だろうが戦争だろうが、人数で押し切れる!
大人数が普通に行軍できるかどうか、それにかかってるわけ。
民の価値観については、ディマンドの時に言った通りよ。
相容れない人たちは、平常時でも混乱の元。非常時だと足を引っ張るだけ。戦時だと内部に敵がいるのと同じ。そういうことです。
最後に、上がダメダメなところは、そのまま統治を任せられないからパス。
そういう国は、トップが首のすげ替えに従わないのが見えてるし、下部が好き勝手してることも多いからね~。
代官が務まる人材は希少で貴重。
そんなところに回すぐらいなら、直轄地を任せます!
そういう情報を集められるのは、各国に密偵を放ってるからです。但し、帝国を除く。
それと、聖国相手の諜報も、あまりうまくいってない。
巡礼コース以外は、聖都を歩けないとかなんとか。
うん。正直、よくわかりません!
小国の懐柔は順調に進んでる。
なんせ、コスパ的なものが、聖女より断然いいからね!
聖女一人分の経費で、羽を六枚レンタルできます。
組み合わせは自由。期間は一年。
これが基本セットね。
ちな、追加セットは同価格で羽が九枚になります。
さらに、メッチャお得なオプション。
羽三枚の代わりに、安全保障条約を結べます!
これはだね、脅威度A以上の魔物――個体、集団を問わない――が出現したり、敵対勢力が侵攻してきたときに、私が対処するというものだ。
核の傘ならぬ、龍の聖女の傘だね。
はい。これが決め手になってます。
さて、聖国はどう出てくるか……。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
エリシュが周辺国の大半を味方につけた(=保護国にした)頃、聖国が動いた。
しかも、それは誰もが予想できなかったものだった。
「これは……どういうつもりなのでしょうか?」
「なあ、これって意味があるのか?」
「私には理解できませんわ」
「うちにもサッパリや」
「あー、良かったぁー。ワケが分からなかったの、私だけじゃなかったんだな」
「それだけ相手は追い詰められてるってことでしょ?」
「そうだね。私もそう思うよ」
セリフはエスメロウド、エア兄上、アシラート義母上、アスタルト義母上、アナト義母上、母上、父上の順よ。
エスメロウドは私の側近ポジに収まってるので、こういう場にも普通にいます。
で、聖国が何をしたかというと、なんと、私を破門したの!
宗教が力を持ってる世界で教会から破門されるのは、死の宣告に近い。
実際、乙女ゲーな世界で公爵令嬢が破門された時は、解決までにコミックス一巻使うほどの大事件になってた。
でも、私、元々教会に所属してないからね~。
当然だけどノーダメです(笑)
むしろ、聖国にダメージ入ってます!
だって、龍の聖女は聖域の直属だからね。
聖域の直属=教会と同格以上だからね!
例えるなら、いじめっ子な生徒(普通の生徒)が、それを止めに入った生徒(理事長の息子)に、「お前、気にくわないから退学!」って言ってるのと同じだからね(爆笑)
聖国は、自分の無知さと傲慢さを、自分で世界中に知らせてるわけです。
しかもこれ、エリシュにとって超追い風!
だって、聖国教会と絶縁するのに、これ以上ない理由ができたからね!
マルクト教の教義は守る。
でも、聖国のやり方はおかしい!
だから従えない!
従わないんじゃなくて、従えないというのがポイントよ。
こう主張するのに、これほど都合の良い失態はないわ。
それじゃ、私は聖域に行ってきますか。
☆ ☆
私が聖域に来たのは、一つだけある懸念事項を確認するためよ。
私が懸念してるのは、エリシュvs聖国に、神々が介入すること。
聖国を討ち滅ぼした者に神罰が下るとなれば、実力行使が難しくなる。
ああ、うん。
私はいいんだよ。
味方してくれる神様が一柱いるからね。
最上位管理者って言ってたから、たいていのことは何とかなると思う。
でも、父上たちは、そうじゃない。
「聖国を滅ぼしたら、エリシュもなくなります」なんてことになるなら、戦争という選択肢は無くなる。
長いスパンで内部崩壊させるか、戦いを正当防衛の範囲に限るかの二択だ。
聖国と戦うのは、あくまでも国益のため。
国がなくなるのを知ってても戦うのは、本末転倒以外の何物でもない。
この件は、マルクト様に直接聞くべきだろう。
御使い様の主だし、神々の長だからね。
組織が相手の場合、窓口担当者が即答できる案件には上限がある。
可能なら、責任者と直接やり取りすること。これ、鉄則よ。
ただ、マルクト様と私の味方をしてくれる神様は、お声が明らかに違うのよね。
神々の長と最上位管理者。どちらが上なのか、気にはなるわね。
私は深呼吸してから、御使い様に願う。
「聖国のことで、お尋ねしたいことがあります。マルクト様と、お話しさせていただけないでしょうか?」
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
既製石の元ネタは輝聖石(アバンのしるしの材料)です。
オリジナルと同じ効果はオーバースペックなので、持ってません。
正規石が特殊な電波的なものを出すのは、ドラゴンボール的な特性です。
次回は明後日の投稿予定です。




