35.聖国の偉い人は聖女様が嫌いなようです
マルクト聖国領に入った私、レイ・オニキスは、転移門を乗り継ぎ、聖都ケイテルに着いた。
私を見とがめた警備の聖騎士が、最敬礼で迎える。
「これはオニキス様。よくぞお戻りくださいました」
「聖国に戻るよう啓示を受けたのでな。皆に伝えねばならぬことがある。御前会議を開くよう、聖下に伝えてくれ」
「かしこまりました」
この国に住まう者は全て、自分は神に選ばれた忠実な僕だと思っている。
そのくせ、本当の神の言葉を聞ける者は、ただの一人もいない。
ゆえに、彼らは預言者を神のごとく敬う。
預言者とは、神の言葉を預かる者。すなわち、神の言葉を直接聞ける者なのだ。
たとえ何十年もの間、国を離れようとも、その顔と名前が忘れられることはない。
一月半ぶりに戻った私を忘れる者など、いようはずがない。
聖騎士は一礼し、駆け出した。
私は彼と同じコースを歩き、大聖堂へと向かう。
預言者の言葉は神の言葉。それは、すべてに優先する。
聖下たちは、大慌てで会議の準備をすることになるだろう。
☆
私が大聖堂に着いたときには、会議の準備が整っていた。
それができなければ神の不興を買うと、彼らは本気で信じている。
それが僕の発想であることに、彼ら気付かない。
僕は物であり、者ではない。
それが神の地上代行者を語るなど、おこがましいにもほどがある。
私にとって大聖堂は勝手知ったる場所である。
が、聖下たちの立場というものもある。
私は大人しく案内され、会場へと向かう。
最敬礼で迎えられた私は皆を着席させ、厳かに告げる。
「神は言われた。エリシュは脅威であると」
私の役目はこれで終了。対応を決めるのは聖下たちの仕事だ。
私は口を出さない。神がそれを望まないからだ。
ただ成り行きを見守り、新たな御言葉を待つだけだ。
☆
聖国は、私が予想だにしなかった対応を取ると決めた。
顔にこそ出さなかったが「まさか、そこまでするのか?」というのが私の本音だ。
上層部は、龍の聖女を異常なまでに嫌っている。
いや、それ以上だな。
まるで親の仇のように憎んでいる。
そうなった理由は、おおよそ想像がつく。
彼らは、龍の聖女が羨ましくて仕方がないのだ。
神と対話するなど、預言者の私にもできない。
それができる龍の聖女を羨むのは、自然なことだろう。
だが、龍の聖女は教会に属していない。
彼女は自分たちが知らないことを神に直言し、自分たちが知らない御言葉を聞く。
彼らは、それが気に入らない。
自分たち以上に特別な存在が許せないのだ。
彼らは、それを恐れる。
自分たちが神に忠実であることに自信がないのだ。
ゆえに、聖国は龍の聖女を憎む。
歩み寄ることは、決してない。
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