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33.褒賞式の聖女様、ボッチを卒業する

 午後からディマンド戦役の褒賞式が行われる。

 会場は王城(グリム城)の謁見の間だ。


 私が会場入りしたのは開始時間ギリギリ。

 朝から公務で外出してて、そうなったんだ。


 私はスケジュール通りに動いてたので、落ち度は1ミリもない。

 移動中に馬車が壊れたり、通行人が何かやらかしたりして遅れたわけでもない。


 だったら、なんでギリギリになったのか?

 それはだね、スケジュールを組んだ文官(間抜け)が、帰りの馬車移動にかかる時間を読み間違えたからだよ!


 私の馬車は、午前中にパレードで乗ってたやつ。

 そう。屋根が無くて、ギャラリーから私がバッチリ見えるタイプ。フロントガラスが無いオープンカーみたいな物だと思ってくれ。

 そんな馬車がだよ、ドレスアップした王女()を乗せて、普通の馬車並みの速さで走れると思う?

 髪が乱れないペースでしか走れないに決まってるじゃないか!


 王室には屋根付きの馬車もある。

 移動時間を普通の馬車と同じにするなら、それを手配しておけって話よ。


 スケジュール組んだ文官(間抜け)、他の人にチェックしてもらわなかったのかしら?

 今日はギリ間に合ったから厳重注意で済むだろうけど、もう一度同じミスをしたら、物理的に首が飛ぶわよ。



 そんなわけで、私が会場入りした時には、陛下以外の出席者が全員そろってました。


 もう一人の受賞者――燃えるような赤い髪の女性兵士――は、玉座の前でひざまずいて待機してる。

 こういうのをちゃんとできる兵士は珍しい。兵士って、基本的に平民の出だからね。腕っぷしは十分でも、礼儀作法は残念な人が多いんだよ。

 武勲を上げたのは私だけなので、彼女は戦後処理――旧王族の討伐とかで活躍したんだろう。


 私は慌てず騒がず、王族が並ぶ席に着く。

 ちな、出席者で未成年なのは私だけ。成人前の王族は、この手の行事に参加しない。

 私は聖女でもあるから、扱いは成人と同じ。この手の行事に何度か出てます。


 とりま、これで式典がスタート。


 王族一同が起立して陛下の入場を迎え、着席を待って腰を下ろす。 


 先に褒賞を受けるのは女性兵士だ。

 宰相が彼女の功績を述べ、陛下が褒賞を告げる。

「元ディマンド王国近衛騎士団所属、ヒルメ・アンス・エスメロウド。貴殿の活躍を認め、騎士に任ずる」

「謹んでお受けいたします。我が剣を、陛下のため、王国のため、民のためにふるうことを誓います」

「うむ。期待しておるぞ」


 私、聞いてなかったから驚いた。

 あの時の有能な副官が、エリシュ(ウチ)の騎士になったんだよ。

 功績を聞いたら、旧王族の討伐に進んで協力。高度な魔法を使った変装を見破り、次々と捕らえたそうだ。


 元近衛騎士だから、王族の顔や、お忍びで使う変装なんかは知ってて当然。

 でも、高度な魔法を使った変装を見破るのは、優れた観察眼の持ち主じゃないと無理。外見は完全に別人になるから、癖とか姿勢とか歩き方とか、そういったもので判別するしかないんだ。

 それができたったことは、記憶力も相当なものってこと。


 頭は切れるし腕も立つ。

 これは、いい人材が増えたね~。



 エスメロウドへの褒賞が終わり、次は私の番。

 名前を呼ばれてから立ち上がり、玉座の前でひざまずく。

 宰相が私の功績を述べ、陛下が褒賞を告げる。

「第13王女ティアーユ・マート・マルクト・エリシュ。此度の活躍を称え、大勲位青龍大綬章を授与する」

「有難く頂戴します。王家に連なる者として、その象徴シンボルに相応うよう、王国と民に尽くします」

「うむ。今後も頼むぞ。それでじゃ、其方そなた等に任を授ける」

「「ははっ、何なりと」お申し付けください」

「よろしい。ティアーユ・マート・マルクト・エリシュよ、新設する青龍騎士団の初代団長に、其方を任命する」

「ははっ」

「ヒルメ・アンス・エスメロウドよ、其方を青龍騎士団副団長に任命する。ティアーユを補佐してくれ」

「ははっ」

 ファッ!?

 私、いきなり騎士団の団長ですか?

 しかも、王家の紋章を背負うんですか?


 私はエスメロウドを振り返る。

 おうふ。「私、知ってましたよ」って顔してる。

 いやいや父上、そーゆー根回しは、私にもしてくださいよ……。


  ☆


 褒賞式の次は、緊急戦略会議。


 青龍騎士団のことを聞いてなかったのは、私だけじゃありませんでした! 文官ズ、ミス多くね?

 というわけで、急遽開催の運びとなりました。

 参加者は、中会議室に直行です。


 おなじみの中会議室に集った、おなじみのメンバー+1。一応言っておくと、+1はエスメロウドです。

 護廷ナミ隊じゃないけど、団長と副団長はペアで行動するのがデフォなんだ。


「そ、それでは、青龍騎士団について説明させて頂きますです」

 おなじみの文官氏が説明を始めた。

 彼、見た目としゃべり方は残念だけど、実務能力は一流。特に、チェック能力が素晴らしいの。今日の私のスケジュール、彼にチェックしてほしかったわ。


 それじゃ、いつも通り、私が要点だけ説明するわ。


 青龍騎士団は、ガチの少数精鋭な戦闘集団。団員になるための条件は、母上より強いこと!

 これは流石に驚きましたよ、ええ。

 つまり、副団長のエスメロウドは、エリシュで二番目(私の次)に強いわけ。ついでに、三人目の団員は、当分入らないと断言できます!


 青龍騎士団を立ち上げたのは、マルクト聖国と正面からやりあうため。

 うん。もう示威や威嚇、牽制なんかじゃ済まないレベルまで、事態は悪化してるんだ。


 聖国が旧ディマンドに乱立した小国を事実上征服してまわってるのは、前に言った通り。

 でも、エリシュは旧ディマンドの民とは関わらないと決めた。だから、それは別にいい。

 問題なのは、聖国が他の地域の小国にも、聖女をダシにした侵略を始めたことなんだ。


 聖国は「旧ディマンドに乱立した小国を救うため、聖女を巡回させる」と言い出し、各国に協力を要請。

 これをわかりやすく言い換えると「聖女を全員、聖国に返せ」ってこと。「絶対数が足りないから、ウチが一括管理するね」って話よ。

 聖国が旧ディマンドに興った小国にしてる仕打ちは、ほとんどの国が良~く知ってる。

 当然、協力する国はない。


 そしたら、聖国は聖騎士団を派遣し始めた。

 そう。圧倒的な軍事力で脅して、小国から聖女を取り上げ始めたんだ。

 後は、元ディマンド領だった小国と同じ運命をたどるだけ。

 子供でも分かる簡単な話です。


 エリシュは世界の警察になる気はない。

 でも、聖国の好き勝手を見過ごすつもりもない。

 国境を接する小国全てが聖国の使い捨ての駒になったら、面倒なことこの上ないからね。


 そこで、エリシュも味方(弾除け)になってくれる小国を増やすことにした。

 と言っても、正面から聖国に反旗を翻すエリシュにつこうなんて国が、そう簡単に出るわけがない。

 なんせ、聖国は、世界宗教マルクト教の総本山だからね。

 たいていのことを「神の御意志です」で済ましちゃう、できれば敵に回したくない相手だ。


 それに対抗するには、大国エリシュといえども権威が足りない。


 でも、世界が認める人外の強者である勇者を一蹴した龍の聖女()なら、権威として不足がなくなる。


 神々――啓示や神託は下すが、人類に直接力をふるうことはない存在――の地上代行者とされるマルクト聖国教皇。

 聖域ディルムンの直属で神と対話ができ、勇者や災害級の魔物の群れを易々と葬る龍の聖女。


 権威としては、互角よね?

 いざという時、その場で実力行使できる私の方が、恭順した時の安心感は上よね? 


 そんなわけで、私は反聖国のシンボルとして担がれたのでした!

 いやまあ、いいんだけどね……。

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


 第三章、始めました。

 タイムテーブルは幕間に入れた32話の続きですが、読み飛ばしてても大丈夫なようになってると思います(弱気)


 第三章の途中から、隔日投稿になると思います。予めご承知おきください。

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