29.勇者王vs聖女様、決着。そして……
ガキィィィン!
鈍い金属音が響き、欠片が飛び散る!
同時に炎の刃が霧散! 私を包んでいた炎も消えた!
勇者王の大剣は、私の首に食い込んで、否、首に当たったところが砕けて止まった。
当然、私は無傷よ。
「な……バ、バカ……な……!?」
勇者王は激しく動揺。そこを逃がさず口撃する。
「あらあら、どうしたの? 貴方の剣って、女の子の首も斬れない鈍だったの?」
余裕の微笑みを見せると、勇者王は飛び退った。
もちろん、これにはタネがある。
それは、初めて使った龍聖闘気。聖女衣を装備した龍の聖女だけが使える究極の闘気だ。
ただし、無尽蔵に使えるわけじゃない。通常の闘気の10倍強い龍聖闘気は、通常の闘気の20倍、体力を消耗する。
つまり、コスパ的なものは、通常の闘気より悪いわけ。
でも、上手く使えば効果は絶大!
今回は、首に90、その他に10の龍聖闘気を使って防御しました。休載がちな漫画の念能力でいうと流だね。
結果、私の身体は剣神確定な勇者王の一撃に耐え、逸品な剣を逆に破壊する域に達したわけ!
通常の闘気で同じことしたら、確実に首が飛んでたね。
「あらぁ、もう終わりで良いの? だったら私が攻めるけど、今度はこれで行くわよ」
私は、胸の前で右拳を左掌に当てながら、挑発した。
「だ、黙れーーーっ!」
勇者王が再起動。こめかみに血管を浮かべながら、斬りかかってきた。
でも残念。
冷静さを欠いてるから、全身が無駄に力んでる。
結果、パワーもスピードも明らかに低下。
Aランク冒険者程度じゃ気付きもしないレベルだけど、私にとっては十分すぎる!
「鳳翼天翔!」
私が選んだ戦法は、超高速で立体的なヒット&アウェイ。
蝶のように舞い、蜂のように刺す。
元々スピードは私の方が上だったから、ワンサイドゲームね。
勇者王も反撃してくるけど、そんな攻撃当たりません!
素で神回避できてた雫が超パワーアップしたのが、今の私だからね~。
さらに、私には闘気弾がある。自在に操れてリーチも長い、実に便利な攻撃手段。
手数の流星拳、威力の彗星拳と合わせて使い分ければ、アウェイ中にも攻撃できる!
近付いて殴り、撃ちながら距離をとる。
瞬時に死角に飛んで接近。そして殴る。
これを繰り返すだけの、簡単なお仕事です!
勇者王の傷が増えてきた。
軽装な装備にも破損が目立つ。
……男のダメージを布面積で表現するのって、需要あるのかな……? 勇者王みたいに美形だったら、あるかもしれないね~(笑)
という冗談はさておいて、戦闘センスが良い相手だったら、そろそろ打開策を思いつく頃だね。
有名なのは、元僧侶戦士の武闘家の少女がとった戦法だろう。
仰向けに寝て正面からしか攻撃できないように仕向け、タイミングを見て防具を壊し、破片に突っ込ませて自滅させるというものだ。
これは、今の私のように超高速で移動してくる相手には、かなり有効。相手が速いほどダメージが大きくなるからね。
そして、私は、勇者王に同じような戦法をとってほしいと思ってる。
理由は簡単。一気に片が付くからよ。
ダメージが蓄積し、ついに勇者王がダウン!
うつぶせに倒れた勇者王は、「俺はまだ負けてない!」的なオーラを出しながら、仰向けになった。
ちゃ~んす(悪い笑み)
オリハルコンの女王の失敗は、正面から相手に突っ込んだこと。
こんな時の対処法は、さらに古い漫画に出ています。
北斗○拳の伝承者みたいに、普通の人なら潰れるぐらいの大岩を投げればいいんです!
……ここに岩はないから、闘気弾にしよう。
私は闘気弾を連射!
勇者王は転がって回避!
さすがに跳○地背拳の使い手ほどバカじゃない。
でも、それで十分。
転がってる間は剣を振れないからね!
「暴風捻殺撃!」
闘気の渦に巻かれ、勇者王が宙に舞う!
この技を使ったのは、勇者にやられた義母上たちの意趣返し。
漫画だったら「これはアシラート義母上のぶん!」とか叫んで、ぶん殴ってるシーンよ。
アナト義母上とアスタルト義母上のフェイバリット・ホールドは見てないから、これで三人分ってことで……。
それにしても、勇者王はマジ強い。
全力の暴風捻殺撃をくらってるのに、体がアリエナイ方向に捻じれてないんだよ。
防御力や防御スキル、私を軽く超えてるんじゃないかな?
これは、出し惜しみしてる場合じゃないね。
私は行動分析と行動予測をフル稼働。
勇者王が正面を向くタイミングに合わせ、とどめの一撃を放つ!
龍聖闘気を使った彗星拳タイプの。
「千花裂孔弾!」
これが、今の私が勇者王に使える最強の技よ。
勇者王の光の耐性が高いと、過剰回復魔法や毛枯破細拳は、効かない可能性がある。
その点、闘気には属性がないから、耐性で軽減されないの。
「!?」
勇者王が反応!
大剣で防御の体勢をとる!
フッ、さすがね。
でもね、それは無駄なの!
バレーボール大の龍聖闘気は大剣を薄氷も同然にブチ抜き、勇者王の胸部に命中! そのまま体を貫く!
暴風捻殺撃の渦は、勇者王の血で赤く染まった……。
☆
暴風捻殺撃が霧散。
地上に落ちた勇者王は、フラフラと立ち上がった。
普通なら死んでるダメージなのに、強敵補正が働いてる模様。強敵は「とも」と読まないように!
「さ……さすがは……龍の聖女よな。この屈辱、決して忘れん……ぞ。復活した暁には、真っ先に復讐……してや……る……」
「ええ。どうぞ、ご自由に。復活できれば……ね」
「!?」
絞り出した勇者王に、サラリと返した私。
勇者王は、「それはどういう意味だ!?」とでも言いたそうな顔のまま、崩れ落ちた。
うん。勇者王、棺桶に変わらないね。
これでミッションコンプリートよ!
それじゃ、勇者王が棺桶にならなかった理由を説明しておこう。
この世界の聖女は、称号「聖女」の効果でスキル<瘴気浄化>を獲得し、聖女固有の能力を発揮している。
だったら、勇者が棺桶になって復活するのも、同じような仕組みなんじゃないかって考えたの。
結果は大正解。
最初に天帝の龍撃の不意打ちで消したキガーンは、棺桶になった。
でも、実験中に凍結地獄で死んだときは、棺桶にならなかった。
この違いは、私の<王権発動>が仕事したかどうかの差なの。
不意打ちだと「私にやられた」って思う間もないから、<王権発動>は仕事しない。
実験中は私の仕業ってハッキリしてるから、<王権発動>が仕事した。勇者専用スキルを奪われたキガーンは、棺桶になれなかった。
ただし、<王権発動>で称号は奪えない。だから、私は勇者専用スキルをゲットできなかった。
こう考えると、スッキリするでしょ?
ちな、死んだキガーンは、私が魔法で生き返らせました。
生き返ったキガーンには、勇者専用スキルが戻ってたわ。じゃなきゃ、実験を繰り返せないでしょ?
実験に協力してくれた見返りに、国境の街での罪は不問にしてあげたわよ。
ただ、この方法、一対一の時にしか使えないようなの。
一撃で複数の勇者を倒したらどうなるのか? 御使い様に聞いてみたら、『全員が棺桶になる可能性が高いですね』だって。
勇者王以外を凍結幽閉で処理出来て、マジ助かりました。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
絶対的支配者を失った旧ディマンド領は、勇者禍を生き延びた有力者が国を興し、小国が乱立する状態になった。
エリシュはこれを静観することに決定。
だって、旧ディマンドって、社会制度や文化がエリシュと違いすぎたんだもん。
例えば、エリシュでは、約束は守るのが当たり前。
でも、旧ディマンドでは、守らないのが当たり前!
そういう価値観の地域をヘタに併合しようものなら、国中が混乱します!
だいたい、旧王族からして頭おかしい!
勇者王が死んだ後にわかったんだけど、難民の中には、旧王族も紛れてた。
そいつ曰く、勇者王が使ってた大剣、ディマンドの国宝だったらしいんだよ。
それを私が壊したからって、賠償金よこせって言ってきたんだ!
アポなしで王城にやってきた、みすぼらしい身なりだけど偉そうな態度の使者。
そいつが持ってたのが、件の書状。
もうね、普段は温厚な父上が、助走つけてグーパン連打するぐらい怒りましたよ(比喩表現)
当然、そいつはその場で斬り捨て。これ以上ない不敬だからね。
エリシュは、難民に紛れて入国してた旧王族や関係者を全力で探し出し、一人残らずこの世から消しましたよ、ええ。
そんなこともあって、ディマンドだった地域を統治するぐらいなら、仲が悪い隣国にしておいた方が100倍マシって結論になりました。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
冒頭のシーンは、竜騎将が獣王の斧を首で受けた、あの場面な感じです。
次話で第二章は終了。
幕間(2話)を挟んで、第三章になります。




