28.本気で戦う聖女様、マジ大災害級でした!
聖域に出向いた私は、勇者召喚の件を御使い様にお願いした。
「――と言うわけで、預言者の勇者召喚を可能にしている存在が私以外にいないなら、これ以上の勇者召喚をできないようにしてもらうことは、可能でしょうか?」
『……貴女の言うことは尤もですね。わかりました。善処しましょう』
「ありがとうございます! それと、国を守るため、王女の立場で龍の聖女の力を使うことを、お認めください」
『それは構いませんよ。ですが、一つ聞いておきます。ティア、貴女が言う国とは、具体的に何を指しているのですか?』
この答えは、子供の頃にしつこいぐらい教えられたっけ。
「人です。国民を守るのは王族の務めです」
『なるほど。それも一つの答えですね。でしたら、私にとっては世界中の人が国民だということ。これは、覚えておいてくださいね』
「あ、はい」
☆
転移門で王城に戻ると、なんと! 父上が待っていた!
あー、これ、嫌な予感しかしないんですけど……。
「ディマンド軍が攻めてきた! 国境の街に飛んでくれ!」
「わかりました」
簡潔な説明を受け、鳳凰天駆で国境の街に向かう。
状況はよろしくない。
義母上たちが精鋭を率いて先行してるけど、相手は勇者の軍団。
数でも質でも向こうが上なんだ……。
☆
「なっ!?」
教会前に着地した私は正門前の広場へダッシュ!
そこで目にしたのは、噴き上げる闘気の大波!
地面をえぐり、人を跳ね上げ、徒歩ぐらいの速さで街に向かってきてる!
漫画みたいな光景だった……。
跳ねられてるのはエリシュの騎士たち。
そうなるのがわかってて、街を守ろうと立ちはだかってる模様。
闘気の向こうは見えない。
気配感知によると、三人の義母上は、闘気技を放ったらしい勇者の側で倒れてる。うん。全く動かないから、そう判断した。
闘気技で相殺したんじゃ、騎士たちを巻き込む。
逃げろって命令しても、素直に従ってくれる保証はない。そうなったら、説得してるうちに外壁にあたっちゃう。
となると、これしかないね。闘気にも使えると信じて。
「冥府幽閉闇!」
空中に巨大な黒いベールが現れ、闘気の進路に吊り下がる。
あー、相手が大きいと、謎空間の入り口は、こう見えるのか……。
闘気はそのまま謎空間に突入。騎士たちと街は守られた。
ふむ。事態を把握できてる人間は、一人もいないようだね。
騎士たちも、ディマンド軍も、全員棒立ちだ。
これは僥倖。この隙に、倒れてる味方を回収しよう。
「鳳凰天駆」
私は短距離ワープを繰り返し、倒れてる人を集めた。
わざわざ鳳凰天駆を使ってるのには、ちゃんと理由がある。
両手でも抱えきれない人数を連れ歩けて、攻撃をすり抜けられて、同行者に加減速のGがかからないからね。
ダッシュ移動での回収だと、それが全部無理なのですよ。
全員を回収したところで、まとめて回復。12人のダメージを、仲間回復魔法が癒す。
良かった……。全員、命に別状はないようね。
それじゃ、戦闘開始と行きますか。
私は自軍の先頭に歩み出て、声を上げる。
「エリシュ軍、下がりなさい! 後は私が片付けます!」
これで全員が再起動。
騎士たちは街まで下がり、ディマンド側は臨戦態勢に入った。
闘気技を放ったらしい女勇者――大剣を持った、筋肉質のお姉さん――が声を上げる。
「誰かは知らないが、大きく出たね! 私らを勇者と知ってて、そう言い切るとは!」
「勇者だと知ってるから、そう言ったのよ! 大切な人たちを、無駄死にさせたくないからね!」
「へぇー、大した自信だね。いいだろう、かかってきな!」
「それじゃ、遠慮なく!」
私は無詠唱の鳳凰天駆で小ワープし、女勇者の目の前に出現! 叫びながら左のコークスクリュー・ブロー!
女勇者は回転しながら仲間たちのところまで吹っ飛んだ。
勇者軍、この展開に驚き、固まる!
うん。これならいけそうだね。
「鳳翼天翔か~ら~の、全翼展開氷弾掃射!」
私は宙に舞い上がり、両手の指と12枚の翼から氷弾を連射。死なない程度に手加減した氷弾を「これでもか!」と降らせ、勇者たちを胸まで埋める。
これなら、すぐには動けまい。
本命、行きまーす!
「凍結幽閉!」
真黒な円い穴が人数分、勇者たちの頭上に開く。
穴は下に落ちながら、勇者たちを消していく。
ふっふっふ。これはキガーン君の協力のもと、完成した新魔法。凍結地獄・不殺と冥府幽閉闇の合成魔法だ。
勇者は殺しても復活するので、凍結地獄・不殺で停止させ、冥府幽閉闇の謎空間に閉じ込めることにしたわけ。
凍結地獄をそのまま使うと相手は死んじゃうから、それを回避するのに苦労したんだよ。
はい。勇者の棺桶、謎空間からもワープしてきました(驚き)
おっと、勇者が一人だけ残ってるね。
私の凍結幽閉が効かないってことは、魔法防御力がデタラメに高くて、水と闇の耐性が無効以上なんだろう。
凍結地獄・不殺も冥府幽閉闇も物理的なダメージは皆無だから、これはしかたない。
それに、一人だけなら何とかなる……と思う。
残ってる勇者は黒髪で黒目。顔面偏差値かなり高め。細マッチョ体型で軽装。
軽そうに持ってる大剣は、消し去った勇者ズが持ってた武器と比べて格段に凄みがある。
ひょっとして、勇者王ワイ・ズマン?
「フハハハハハ! いいぞ! 実にいい!」
黒髪勇者が高笑い。癪だけどイケボだ。
ついでに言うと、膝から下が氷に埋まってるのに映えてやがる。
私の好みじゃないけどな!
ん? 埋まってるのは膝から……下……?
私、全員を胸まで埋めたはずなんだけど……。
「ふんっ!」
「!」
黒髪勇者が剣を振る! 刀身が炎を吹き上げた!
マジ!? 一瞬で氷が消えた!
あの大剣、相当な逸品だね。
「おい娘、名は何という?」
「ティアよ」
「そうか、お前が龍の聖女か」
「そういうあんたは誰なの?」
「俺か? 俺はワイ・ズマン。この世界を統べる、偉大な帝王だ!」
言ったー、そして痛ー!
いい年してそうな大人の厨二病発言、いただきました~!
「クックック。そうか、龍の聖女なら、これぐらいできて当然か。そうか。そうだよな。強さは神のお墨付き。俺の覇業の前に立ちはだかる、最大にして最強の邪魔者だからな!」
……勇者王って、傲慢だとは聞いてたけど、厨二でナル入ってるとは聞いてないわよ。
「そんな龍の聖女を倒せば、俺は名実ともに世界最強になるわけだ!」
勇者王が斬りかかってきた!
大剣を片手で振り回してる。
ちゃんと訓練を積んでるのか、太刀筋は相当なもの。
弱体化してるはずなのに、スピードもなかなかある。
これは、素手じゃ不利かな?
私は距離をとって魔法を放つ。
「天帝の龍撃!」
今回は両手を使った全力バージョン。
強大な青龍が勇者王を襲う!
勇者王、叫ぶ!
「舐めるなぁーーーっ!」
いや、舐めてませんし、全力ですし!
勇者王は大剣を上段に振りかぶり、思いっきり振り下ろした。
「超竜獄炎覇王斬ーっ!」
「!」
厨二全開な叫びとともに振り下ろされた剣が、青龍を一刀両断!
むう。大魔王のカイザーなフェニックスは大と都会を苦しめたというのに、ウチのインペリアルなドラゴンは……orz
だったら、数で勝負よ!
「全翼展開小爆発掃射!」
私は文字通りの上から小爆発を連射! 爆炎と土煙で勇者王は見えない!
「クックック。どうした、それで全力か?」
うわっ、この言い方! マジむかつくんですけど!
攻撃を止めると、そこには無傷の勇者王。
でも、これでハッキリした。
魔法で勇者王に勝つのは無理だね。
魔法防御力が高いうえに、魔法を斬れる武器まで持ってる。
あ、剣神だから魔法を斬れた可能性もあるね。……なお悪いじゃん!
隕石群や地震なら物理的なダメージで倒せるかもしれない。でも、街も巻き添えになる。
無人の荒野でならともかく、ココじゃ試せない。
「どうした、もうあきらめたのか?」
「ええ、あきらめたわ」
得意げな勇者王への返事は、お手上げです感を前面に出した。
私、魔法で勝つのはあきらめたからね。
でも、勝利をあきらめたわけじゃない!
これで攻守交替してからが本番よ!
「だったら、今度は俺から行くぞ!」
勇者王は距離を詰め、大剣を横なぎ! 炎の刃が伸びる! 広がる!
炎が私を包み、刃が首筋を正確にとらえた!
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
章ボス戦、始まりました。
前座のモブ女勇者が使った闘気技は、大魔王の災厄な壁みたいなやつです。




