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27.聖女様が知らないところで、事態は進んでるんですよ

「おい、レイ! その時ってのは、まだ来ないのか? 俺はもう待ってられないぞ!」

「陛下、無茶を言わないでくださいよ。神は気まぐれなお方。ですから、神託が下り次第お伝えできるよう、私がここにいるのです」

 少しだけきつい口調で告げると、陛下は押し黙った。

 フッ、無理もあるまい。

 この世界(インキビット)に陛下を召喚したのは、私なのだから。


 この世界には、勇者召喚の術がある。

 術には、召喚主に絶対逆らえなくなる制約も入っている。

 勇者がどれだけ強くなろうと、どれだけ偉くなろうと、その制約は破れない。

 それが神の定めたルール。世界のことわりなのだから。


 陛下は、元の世界で皇子だったそうだ。

 その国は、強大な兵力を誇り、世界征服を目指していたのだとか。


 実にバカげた話だ。

 自分たちより劣る者共を併呑すれば、待っているのは質の低下だ。

 世界征服は、その最たるものだというのに……。


 陛下は召喚されてもなお、世界征服を目指している。

 それは陛下自身の意思でもあり、神の希望でもある。


 あの日、神は言われた。「明日、最後に召喚ぶ者からは、いにしえの術を使いなさい」と。

 いにしえの術とは、この世界で広く知られている勇者召喚の術のこと。

 その術に組み込まれている制約は、ただ一つ。召喚主に逆らえなくなることだけだ。


 一方、それまで使うことになる術には、様々な制約が組み込まれていた。

 その効果は、一言でいうなら、人を戦闘マシーンにするものだ。

 無論、神が組んだ術なので、人を襲うことはない。

 攻撃対象になるのは、人族に害をなす魔物や危険動物に限られている。

 瘴気しょうきから生まれる魔物を滅するには、これ以上ない制約だろう。


 そうして訪れた運命の日、私が最後に召喚んだ勇者が陛下だった。


「時は満ちました。レイモンよ、総力でエリシュを攻めるのです……」

 このタイミングで神の声。もちろん、聞こえているのは私だけだ。

 私は一言一句を逃さぬよう、御言葉を拝聴する。


 神の望みは世界の変革。

 それを阻むものは、あらゆる手段を用いて討滅うちほろぼす。


 その一つが勇者召喚。

 数多くの勇者を召喚し、陛下という突出した戦力を生み出した。

 それでもなお、勇者や戦士を召喚し続けたのは、戦う相手がそれだけ強大だということに他ならない。


 思い当たるのは、勇者を召喚するための条件の一つ。脅威度SS以上の魔物バケモノの存在だ。

 勇者の力が言い伝え通りなら、そんな魔物も倒せるはず。

 しかし、陛下以外の勇者は、そこまで強いようには見えない。


 いや、神は全てをご存じだ。

 戦う指示が出たということは、こちらが優勢になったということだろう。


「陛下、全軍でエリシュを攻めよとの御言葉がありました」

「そうか、ついに来たか!」

「道中に小虫が隠れております。一匹残らず滅せよとのことです」

「ああ、わかってる」


 陛下は全ての勇者を集め、エリシュへの進軍を開始した。


 これで、この国ですべきことをなし終えた。

 おいとまさせてもらおう。

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


 21話と同様、今回も説明回です。

 なお、レイ・オニキスの本領は、三章以降で発揮されます。

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