21.今回、聖女様はお休みです。代わりに○○がお送りします。
フルダイブVRMMOを楽しんでたら、いきなり! 足元が光った!
それは、初めて見る魔法陣!
えっ!? っと思った瞬間、僕の視界はホワイトアウト。
気が付いたら、真っ白な場所に倒れてた。
ハッハー。なんの冗談だい?
ここ、新エリアか何かかい?
そんなアナウンス、無かったけどな……?
まさか、ヘッドセットのトラブル?
……いや、それは無いね。
僕が設計した物が、トラブルなんてありえない。
彼女と同じ悲劇は、二度と起こしちゃいけない。
僕のヘッドセットには、安全機構が幾重にも入ってる。
だったら、ゲームのバグか?
……いや、それも無いな。
彼女が関わってたゲームは、いつだって完璧だった。
常に僕の一歩先にいた彼女は、目の上のタンコブ的な存在だった。だからこそ、そこは信頼できる。
まあいい。一度現実に戻ろう。
「コマンドオープン!」
…………。
……。
おいおい、マジかよ! ウインドウが出ないぞ!
仕方ない。強制切断するか。
フルダイブVRは、神経の大部分をハックする。
そのため、プレイ中にヘッドセットを外すと、想像を絶する痛みが来る。
剥き出しの神経をつつくのと同じ行為だから、当然の結果だ。
だから、ヘッドセットを外すには、正規の手順でシステムを終わる必要がある。
でも、今回みたいに原因不明のトラブルで、それができないこともある。
そういう時のために、強制切断の操作が世界規格になってる。
僕は両方のこめかみを五回、リズミカルにたたいた。
これで、ヘッドセットと神経のリンクが切れ、安全に外せるようになる。
所要時間は10秒ほどだ。
「oh my God!」
僕は、ヘッドセットを着けてない!
「What happened!?」
僕が着てる服、ゲームのアバターの物じゃないか!
まさか、僕自身がアバターになった……?
半信半疑でコマンドを叫ぶ。
「アイテムボックス!」
ワァオ、ウインドウが出た!
…………。
……。
ムムム、一部のアイテムはロストしてるね。でも、入ってるアイテムは取り出せた。
じゃあ、次は。
「ステータス!」
ムムム、これは使えないみたいだ……。
「召喚!」
フー、これも駄目か。
僕、アバターになったわけじゃないのか。
日本の小説でおなじみの、異世界ナントカかと思ったんだけどな。
「それで合っていますよ」
「!?」
何だ、今の!
頭の中で、女の人の声がしたぞ!?
「貴方には新しい世界に転移してもらいます。そこで、私を手伝ってもらいます」
新しい世界に転移? 貴女を手伝う? この僕が……?
「私はあなたの能力を、高く評価しています。最初にやってほしいのは、これから行く国の技術レベルを上げることです」
それは、僕が行く世界の技術レベルが低いってこと? そこにステイツの技術を伝えたら、凄いことになるんじゃ?
「私はそれを望みます」
そんなことして大丈夫? ……もしや、貴女は世界に変革をもたらす女神?
「そう捉えて構いません。では、貴方を新しい世界に送ります。働きに期待していますよ、レイモン・クラーク」
★☆
「オニキス殿、如何なされました?」
「いや、大したことじゃない。昔のことを思い出していただけだよ」
「そうでしたか。なにやら浮かぬ顔をなされていたので、心配しましたぞ」
「それは悪かったね」
「オニキス殿は我が国の恩人。この調子で、明日も頼みますぞ」
護衛の騎士との会話を終え、私は思考をめぐらせる。
明日が大きな転機になる。神は、そう言われた。
すべきことは聞いている。
望む結果も聞いている。
そして、それが得られるかどうかは、私次第なのだ。
今まではうまくやってきた。
だが、今回は妙に嫌な予感がする。こんなことは初めてだ。
それが外れてくれることを、私は願う。
一方、この国としては、予感が当たった方がいいのだろう。
なぜなら、神が望む結果とは……。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
本話は、主人公じゃない人物が語り手です。
本編中で主人公以外を語り手にしたのは、私の作品では初めてです。
過去作で、会話オンリーの閑話は書きました。が、本作はそれだけじゃ無理だなと判断した結果です。
プレイヤーキャラ不在で進む、RPGのオートイベントのようなものだと思ってください。




