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20.暴れん坊聖女様、お約束の時間です

 ちょっとどころじゃない時間待たされてから案内されたのは、冒険者ギルドの訓練場。ギルドの総力を集める時なんかの集合場所にもなる広場だ。

 そしてそこには、強面こわもてのお兄さんやおっさんやお姉さんやお姐さんが、ズラズラズラズラッと並んでた。

 ほほう。北門支所にいた荒くれや職員も交じってるね。

 ――ってことは、私を待たせてる間に呼び集めたのか。人数からして、南門支所からも来てそうだねー。


 などと考えてたら、小太りなヤンキーのおっさんが偉そうに歩み出てきた。ん? 受付のヤンキー姉ちゃんと、顔立ちが似てるね。もしかして、親子ですか?

「貴様が身の程知らずの聖女か。望み通り、総合力の審査をしてやろう。後ろにいる全員に勝てたら、Fランクにしてやる!」

 おっさんが偉そうに言い放った。対する私は、思ったままを口にする。

「ふ~ん。エリシュ(ウチ)の冒険者ギルドって、救いようがないほどレベル低いのね。これだけ集まってFランク相当なんでしょ? 私がギルドマスターだったら、恥ずかしすぎて、今すぐ解散してるわよ?」

「な、なんだとぉ! こいつ等はな、全員Cランク以上だ! Bランクだって5人いるんだぞ!」

「ほーん。それって、ずいぶんアンフェアな審査じゃない? ここにいる全員を倒しても、私はFランクなんでしょ? だったら、私が勝ったら全員冒険者資格剥奪ぐらいのリスクを負ってもらわなきゃ、割に合わないわ」

「フッ、良いだろう。おい、お前ら。それでいいな?」

 偉そうなおっさんの問いかけに、全員が肯定の声を上げる。このおっさん、何者?

「ところでさ、あんた、いったい誰なの?」

 この答えは、冒険者たちから帰ってきた。

「これだから世間知らずは。うちの副ギルド長(サブマス)を知らないのかよ! 元Bランクの凄腕なんだぞ! ありえねー!」

 冒険者たちが大爆笑。

 それを聞きつけたのか、見物人(やじ馬たち)が集まってきた。これは、ちょうどいいかも……。

 私は見物人(やじ馬たち)に向かって声を上げる。

「今から私の総合力審査があるわ! 私の相手はここにいる冒険者全員! 私が勝てばFランク! ついでに、冒険者は全員資格剥奪よ! みんな、証人になってね!」

 返ってきたのは私に肯定的な歓声。エリシュ(ウチ)の冒険者ギルド、もしかして嫌われてる……?

「ぐっ、ぐぬぬ……。えぇーい、審査開始だ! お前ら、このクソ聖女を叩きのめせ!」

 サブマスの声を合図に冒険者たちが駆け出す。その数、およそで60人。一人残らず向かってきてるね。


 私は全力で手加減して、流星拳を放つ。

 冒険者の装備って、騎士とは比べ物にならないほど貧弱なんだ……。


 というわけで、勝負は一瞬。冒険者は全員倒れた。起き上がるのは、当分無理だと思います!


 そこに、真面目そうな女性職員に先導され、貴族っぽいおっさんがやってきた。

 それに気付いたサブマスが、絞り出すように。

「マ、ギルド長(マスター)……」

 ほほう。ギルド長(ギルマス)は貴族でしたか……。

 そういえば、ギルマスの顔、謁見の時に見たような気がするね。私とサブマス、どっちの味方になるんだろう?


 まあいいや。私は私の用事を進めよう。

 私はギルマスに背を向ける位置取りでサブマスの前に進み、大きめの声で告げる。

「さあ、私は勝ったわよ。約束通り、私はFランク冒険者。そして、ここにいる連中は全員、冒険者資格剥奪よ。いいわね!」

「そ、それは……」

 認めたくないサブマスが押し黙る。

 何も知らないギルマスが、貴族らしく告げる。

「聖女殿、今のお話、さすがに無体むたいが過ぎますぞ」

 聖女を殿呼び。つまり、身分が同格以上ってこと。ギルマスは伯爵以上の貴族で確定だね。

 私はギルマスに背を向けたまま、聖女らしく返す。

わたくしは、その条件で、総合力の審査を受けたのです。見物している皆さんが証人ですわ」

「ほう……。おい、貴様ら! それは本当か!」

 ギルマスの問いかけは脅しそのもの。貴族に脅されて反抗できる平民なんて、普通いない。当然、見物人は黙り込む。

 あー、冒険者ギルドが嫌われてるのは、そもそもギルマス(こいつ)が原因っぽいねー。

「聖女殿、見物の者たちは、そうではないと言っているようですが?」

「そ、その通りですぞギルド長(マスター)! この聖女は、頭がおかしいのです!」

 ギルマスの口撃こうげき。そして、転がるように私の前から逃れたサブマスも、ギルマスに重ねて口撃してきた。

 うん。これは4時48分。オッハヨー時代劇なら、上様が「余の顔を見忘れたか」って言う時間だ。


 私は優雅に振り返り、ギルマスに顔を見せた。

 そして聖女ではなく、王女として問いかける。

「誰の頭がおかしいですって?」

 その瞬間、ギルマスが真っ青になった。

 うんうん。王都にいて私の顔を知らない上級貴族――公爵と侯爵と伯爵――なんて、一人もいないからね~。

 一方のサブマスは、「いったいなにがおきてるんです?」といったていで、私とギルマスを交互に見てる。

 この笑える状況は、短い時間で終わった。


「ティ、ティアーユ王女……」

 かすれた声で絞り出し、ギルマスが土下座。つられてサブマスも土下座した。

「もう一度聞くわね。ギルド長、頭がおかしいのは、誰なのかな~?」

「そ、それは……」

「ま さ か、私じゃないわよね?」

「は、はい。王女様がおかしいなどと、そんなことがあろうはずがございません」

「じゃあ、さっき言った通り、こいつら全員冒険者資格剥奪ね。それと、私への審査方法が適切だったかどうかは、陛下に判断してもらうから」

 冒険者ギルドは、各国の実情に合った形で運営される。

 これは、例えば国がギルドにどこまで物申せるかは、国によって違うってこと。

 エリシュの場合は、ギルドが国益を害したり、冒険者を不当に扱うことが無いよう、国が調査や指導を行うことができる。


「そ、それをされるとギルドが……」

「えっ? ギルドはどうもしないでしょ? 使えない冒険者がいなくなって、規則を守らなかった副ギルド長がクビになるだけだもの」

 ギルマスが懇願したが、聞いてやる理由は1ミリもない。

 ん? ギルマスの立場だと、私への非礼と見物人を脅したことを詫びて、サブマスを罰する側に回れば、軽いおとがめで済むわよね?

 あっ・・・(察し)


「ひょっとして、ギルド長も後ろめたいことがあるのかな? あー、なるほど。だから、陛下にアレコレ調べられたくないんだ」

 黙り込むギルマス。これは、図星だったようね。

「じゃあ、貴方もクビね。事と次第によっては、領地没収でお家断絶になるかもね。でも、ギルドは大丈夫よ。代わりの人間がギルド長に就くから」

 うなだれるギルマス。ビクビク震えるだけのサブマス。二人に共通してるのは、「私が悪うございました」って謝らないところね。

「二人とも、潔く罪を認めて自首しなさい!」

 私は助けの泥舟を出した。ここまで言って動かないなら、沈めるだけよ。


「えーい、くなる上は! ギルド長(マスター)、元Aランク冒険者の力、見せてください!」

 え゛ーーーーっ!?

 これは完全に予想外。開き直ったのはサブマスだった。

 いやいや、そこはギルマスが「上様、お手向かい致しますぞ」って言うところだろ?

「そ、そうよな。お一人でお越しとはもっけの幸い。あいにく此処は我等が施設。姫様だろうとて殺してしまえば五里霧中」

 あー、ギルマスも乗っかっちゃったよ。

 しかも、セリフが突っ込みどころ満載だよ!


 二人は武器を手にして向かってきた。

 ギルマスは両手剣、サブマスはダガーの二刀流だ。


 んー、冒険者ズは流星拳で蹴散らしたから、今度は魔法を使おうか。

 私は殺傷力が低い魔法を選び、呪文を唱える。

 魔法力に呼応して聖女衣セイントローブが輝く。

 背中に現れた鳳凰ほうおうの翼は最少の二枚! はい、全力で威力を抑えてます!

小水球ビショボ」×2

 空気抵抗でひしゃげた水の塊が二人の腹部に命中。

 二人は「つ」みたいな姿勢で後方に飛ばされ、KO。


 二人を生かしたのは、法の裁きを受けさせるためよ。

 悪事を働くとどうなるか、世間に知らしめるの。


 その後、二人は加担してた職員と冒険者共々、衛兵に連行されたわ。


  ★☆


 ということがあって、冒険者ギルドは新しいギルマスの元、健全化を進めることになったの。


 私は冒険者60人を瞬殺したことか評価され、Aランクスタート。

 ギルドは「Sランクでお願いします!」って言ってきたけど、非常時の強制招集を濫用されると困るので拒否しました。

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


 冒険者登録時によくあるテンプレを書いたら、こーゆー結果になりました。

 反省は少しだけしているかもしれない……。


 私、朝は早いので、おはよう時代劇を見てます。

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