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龍の聖女ティア ~鳳翼の異名を持ち龍力を自在に操る光輝なる第13王女~  作者: 狩野生得
第一章 至龍の試練(しりゅうのしれん)
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2.走馬灯を見た聖女様、天の声を聞く

 試練当日の今日。私は神のほこらに呼び出された。

 普段は立ち入り禁止になってて、聖域ディルムンの中でも特に神聖とされる場所だ。

 ワクワクドキドキしながら中に入ると、そこは、がらんとした空間。

 物々しい扉が4つ並んでて、戦う相手の名前と特徴らしきものが書いてあった。

 左から順に、こんな感じ。

  弩竜どりゅうの扉:圧倒的な力、バリモーア

  魔竜まりゅうの扉:偉大なる魔法、ラーミアス

  機竜きりゅうの扉:機を見るに敏、カーズマ

  鏡竜かがみりゅうの扉:己との闘い、ジ


 うん。情報はこれだけ。

 シルエットだけでも見せてくれれば、どんな相手か想像しやすい。だけど、無いものは仕方ない。

 少ない情報から最善の解答を導き出すのも、龍の聖女に必要な能力なんだろう。

 私は、そんなふうに自分を納得させ、勝てそうな相手を選ぶことにした。


 竜っていうのは龍より下位で、ドラゴンより上位。

 4体の竜は、見たことも聞いたこともない種族。しかも名前持ち。

 名前を持ってる個体は、名無しの個体より強い。そして、名前は個体の特徴を表してることが多い。


 弩竜って、脳筋の臭いがプンプンするよね?

 魔竜は、トンデモな魔法をバンバン使ってきそうよね?

 機竜は……、相手のすきを見て一撃必殺を狙ってくるんじゃないかしら? と、そう考えた。


 私、回復系の魔法は聖女に相応ふさわしいレベルだけど、それ以外は年相応だと思ってます。

 そんな私がだよ、力自慢な竜や、魔法自慢な竜や、一撃必殺が得意な竜に勝てると思う? 無理に決まってるじゃない!

 それに比べるとさ、鏡竜って、私と同レベルっぽい気がしない? するわよね! 少なくとも、勝てる可能性は他より高そうよね!

 というわけで、私は鏡竜の扉を選んだ。


 龍殺しの聖剣(ドラゴンスレイヤー)を持ち込んだのは、勝率を少しでも上げるため。

 いい武器を持ってれば、戦闘力も戦闘経験も皆無な私でも、ワンチャンあるかもしれないでしょ? そ~ゆ~小説もあるし。

 えっ? 龍殺しの聖剣なんて、どうやって手に入れたのかって?

 もちろん、お手製です!


 何? 聖女に龍殺しの聖剣が作れるのかって?

 いやだなぁ。アイテムに魔法や特殊効果を付与するのは、聖女のたしなみですよ?

 魔力が万能な聖女も、聖女バレしたくない大聖女も、みーんなやってます。


 じゃあ、剣はどうしたのかって?

 幸いなことに、ここは聖域。聖騎士さんたちが常駐してます。

 予備の剣なんて、いくらでもあります。

 聖騎士さんの中には、エリシュ出身の人もいます。

 第13王女の私が「良い剣が必要なのです」と言ったら、その日のうちに手元に届きました。


 その中から自分に合ってそうな剣を選んで、パパっと聖別してチャチャっと祝福すれば……。

 ハイっ! 聖剣の出来上がり!

 その聖剣に、切れ味UPと殺傷力UPと龍殺し、ついでに自己修復を付与すれば……。

 ハイっ! 龍殺しの聖剣、完成で~す! いや~、我ながら、いい仕事ができました!


 なのに、その龍殺しの聖剣が、全然仕事してくれないんだよ……。


 だいたいさぁ、扉に書いてあった竜の特徴ってさぁ、ほとんど詐欺じゃない?

 鏡竜がアンディフィーテッド(負けたことのない)・ドラゴンだなんて、1ミリも思わなかったわよ!

 戦闘開始前の名乗りで、「我の名はジ。アンディフィーテッド・ドラゴンなり」って言われたとき、「うせやろ?」って叫びたかったわよ!


 でもまあ、実力が私に近いかもってのは、当たらずとも遠からずだった。


 ジは、自分からは攻撃してこない。

 ついでに言うと、武器も持ってない。

 さらに言うと、構えも素人っぽい。

 私も武術は全然やってないから構えはアレなんだけど、そんな私と大差ないレベルに見える。

 実際、私が斬りつけても、かわそうとする動作が鈍い。ていうか、どう見てもかわせてないはずなんだよ!

 なのにだよ、私がいくら斬りつけても手ごたえなし! そして私に傷が増える!

 そんな繰り返しを続けてるのが、今の状況なわけ。


 えっ? なぜ催眠術だとか超スピードだとかじゃないって言いきれるのかって?

 それは私が聖女だからよ。

 聖女って、直感もすごいのよ。

 アルビノな聖女なんて、候補時代から、失せモノがある場所をバンバン言い当ててたからねー。同じことが、きっと私にもできる……はず。

 そんな私の直感が、これは催眠術や超スピードじゃないって訴えてるの。

 あ、説得力皆無ですかそうですか……。


 それじゃあしかたない。まじめな話をしよう。

 まず、聖女は神様の加護を受けてるから、催眠術の類は効かないの。

 ゲームみたく耐性表があったら、催眠無効って書いてある感じだね。

 そして超スピードの方だけど、ジが動いてる感じが一切しないの。

 気配なし、足音なし、風切り音なし、そよ風すら感じない。

 さらに言うと、ジはね、あちこちに返り血を浴びてるんだ。

 私の五感は、常人より少しだけマシなレベル。

 そんな私に気取られず動ける奴が返り血を避けられないって、おかしいよね?


 しかも、よ。たまたま背後をとれたことがあって、その時の返り血はキッチリ背中に浴びてるの。

 超スピードで背後からの攻撃をかわして私を斬って、元の位置と体勢に戻って返り血を浴びる。

 これって、能力の無駄遣いもいいとこよね。

 そんなことするメリットってある?

 おかしすぎるよね?


 ああ、うん、わかってる。

 私の思考も少しおかしい。

 ……いや、少しじゃないな。かなりおかしい。

 ジに斬られるまでは全然出てこなかったワードやフレーズが、ごく自然に出てきてるんだ。

 どうせなら、ジの能力や対処法なんかが出てくると、ありがたいんだけどな~。

 …………。

 ……。

 フッ、無理だよねー。

 紋章と同時に代々の戦いの遺伝子も受け継ぐ竜○騎士ならともかく、龍の聖女にはそんなのないわよねー。

 そも、私はまだ龍の聖女になってないし。


「!」

 いきなり!

 ジが攻撃に転じた!

 ちょっおま、自分からは攻撃しないんじゃなかったのかよ!?

 などとアホなことを考えてたせいで、私は攻撃をモロに受けてしまう。

「ゲフッ」

 お腹に強烈な拳の一撃! 美少女は絶対に出しちゃいけない声が出た!

 私は昭和のボクシング漫画みたいに宙に舞った! そして頭から落ちた!

 グシャッ……。


 聞こえちゃいけない類の音が聞こえた。

 お約束の走馬灯が、私の頭に浮かぶ。


 走馬灯の私は黒い髪。

 軽装な冒険者スタイル。武器も、盾も、魔法の杖も持ってない。

 そんな私がジと戦ってる。

 走馬灯のジは好戦的。黒い髪の私をガンガン攻める。その動きは、私が戦ってるジより、明らかに速くて強い。

 そんなジの拳を、蹴りを、そして魔法を、黒い髪の私は、流れるような動きで華麗にかわす。

「凄い……」

 相手の攻撃を読み切ったかのような、最小限の動き。まさに、回避のお手本。人間って、ここまでできるものなんだ……。

 そんな戦いを終わらせたのは、一発の魔法。

 黒い髪の私が、私の知らない魔法を放つ。

 それは、命と魔法力のすべてをエネルギー弾に変えて相手にぶつける、自爆攻撃のような魔法。

 身長と同じぐらいのエネルギー弾を受け、ジは消滅。黒い髪の私は、糸が切れた操り人形のように倒れた。

 次の瞬間、自動蘇生魔法オートリザレクが発動。

 薄緑色の光につつまれ、黒い髪の私は生き返った。


 えーーーーっと、今のは……何?

 走馬灯って、命が大ピンチの時に、打開策を求めて超高速で参照する、自分の過去よね?

 脳のリミッターが外れてるから、一瞬で人生を振り返ってるように見えるという……。

 でも……、私、ジと戦うのは今日が初めてよ……?


 はてなマークで埋め尽くされた私の頭に、無機質な女性の声が届く。

《条件を満たしました。前世の記憶が開放されました》

 え゛っ!?

 ナニソレ?? 私には、前世の記憶なんてものがあったの?

 じゃあ、走馬灯で見たのは、前世の記憶ってこと!?

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


 実際に戦うのは先ですが、4体の竜の名前が明らかになりました。

 どこかで聞いたことがある? 気のせいですよ。


 あ、よろしければ感想やブクマなど、お待ちしてます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ところどころにあるジョジョの台詞のオマージュがいい感じです。 あとダイ大に対する強い愛も感じます♪ 流行の聖女ものにドラゴン要素が強いところも魅力です。 さて前世の記憶が解放されて、どうな…
[良い点] 竜の名前! いきなり笑いましたよ! やりますね!
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