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19.ギルドに行った聖女様、しっかり絡まれてました

 冒険者ギルドは、国という枠組みを超えた組織。

 会員の証であるギルドカードは、世界各国どこででも、身分証として通用する。

 ギルドカードに記されているのは、名前と貢献度ランクと総合力ランクのみ。

 それが世界中で通用するということは、ランクの評価基準が世界共通だということと、偽造は不可能だということが、広く認められてるということに他ならない。

 冒険者は、この信頼を裏切る行為をしてはならない。


 貢献度ランクはポイントの累計で決まる。

 依頼を達成すればポイントが加算され、失敗すれば減算される。

 このランクが高いと、割のいい仕事をまわしてもらいやすくなったり、ギルド内の施設で割引を受けられたりする。

 仕事を真面目にこなしてきた証でもあるから、転職時にも有利に働く。


 総合力ランクは直近一年にこなした討伐依頼から算出され、強さの目安になる。

 討伐依頼は、このランクの一つ上の物までしか受けられない。

 なので、最低でも二か月に一度は、適正なランクの討伐依頼を成功させることが推奨されている。

 ランクはSSS、SS、S、A~Gの10段階ある。但し、SSSとSS、SSとSを客観的に判別すのは困難を極めるため、Sが事実上の最高ランクになっている。

 Sランクに達した冒険者は、自己申告以外でランクが下がることはない。その代わり、非常時の強制招集を拒否できない。拒否した場合は、重いペナルティが課せられる。

 新人は原則Gランクスタートだが、登録時に審査を受けてF以上のランクから始めることもできる。

 冒険者ランク、或いは単に「ランク」と言った場合、こちらを指すのが一般的。


 本部は国ごとに置かれ、ギルドカードの扱い以外は自由裁量権を持っている。

 これは、各国の実情に沿った運営を行うために、必要な措置である。


 登録時に聞いたアレコレを整理すると、こんな感じかしら?


 いや~、しかし、しずくの知識にあったテンプレ展開的なものを実体験するとは……。

 せっかくだから、ちょっとプレイバックしておくわね。


  ☆★


 私は王都エヌマ正門――西の門――近くにある大きな建物、冒険者ギルドのエリシュ本部にやってきた。

 そう。私は冒険者登録をしにきたの。


 エリシュの冒険者ギルドは、たいてい門の近くにある。大きな獲物とか、大量の採取品とかを持ち込むのに都合がいいからね。

 えっ? 誰でも使える魔法の袋があるじゃないかって?

 魔法の袋って、容量が少ないんだよ。騎士だったら、予備の武器と盾が入るぐらいかな?

 生活魔法のランクが上がれば容量は増えるんだけど、オーク――肉は買い取り対象――を丸ごと収納できる人は、めったにいない。

 ついでに、袋の中の時間が止まるわけじゃない。傷むのが早い素材の採集なんかは、スピード勝負なんです。


 王都は南北にも門があるので、それぞれに支所がある。

 王城(グリム城)からの距離は、北門支所の方が近い。

 なのに、なぜ本部まで来たのか? それは、登録時の総合力審査を受けるためです。


 うん。実はね、ここに来る前、北門支所に行ったんだよ。

 ベル付きの扉を開けると、中にいたのはTHE荒くれって感じの冒険者たち。

 聖女な私が気になるのか、好奇の視線を浴びせてきた。

 冒険者登録の受付にいたのは、スカーフェイスでスキンヘッドでマッチョなおじさん。実力はともかく、外見は相当強そうに見える。

 そこで登録時の総合力審査の話を聞いて、「じゃあ受けます」って言ったら、バカにした声で「本部でしかやってねえよ!」って言われたんだ。

 そしてお約束、その一。冒険者たちの笑い声が巻き起こった。

「聖女様が審査って、本気かよ」「受けるだけ無駄だろ」「審査官も暇じゃねえんだぞ」「大人しくGから始めとけ」とフルコースで言われた。

 当然、ギルドの職員も、ニヤニヤしながら見てるだけ。

 もうね、テンプレ過ぎて、乾いた笑いすら出ませんでしたよ。


 私は誰が見ても聖女ってわかるローブ姿だし、普通の聖女が非戦闘員なのは、まぎれもない事実だ。

 でもなぁキミたち。その対応は、「私は弱いです。相手の強さがわからないバカです」ってプラカードを、首から下げてるのと同じなんだぞ。

 何? なぜそうなるのかがわからない? じゃあ、ちょっと脱線するけど、説明しよう。


 私が冒険者になって、聖女として一人で国内を回るって話をしたら、王国の最高戦力(父上母上義母上兄上)は、あっさり許してくれた。

 でも、宰相や文官ズ、騎士団や魔術師団の団員たちは、猛反対した。騎士団や魔術師団でも、団長や副団長は認めてくれたんだけどね~。


 この違いはどこから来てるか?

 それは、強者特有のカンのようなもので、私の強さを漠然とでも感じられたかどうかから来てるんだ。


 私の強さは、外見には1ミリも出ていない。体型も普通だし、筋肉質でもない。どう見ても普通の王女だ。

 実際、騎士団や魔術師団の団員たちも、「戦えばワンパンで倒せる」って言い切ってた。

 そんな彼らを納得させるには、実際に戦うのが手っ取り早いよね?

 で、騎士100人vs私で模擬戦やったら、ただの流星拳一回で試合終了しました。

 魔術師団? 騎士たちと戦う前に、小火球モスボ五指爆炎弾(メ・ラ・ゾ・ー・マ)をやって見せたら全員黙りましたが、なにか?


 そんなわけで、「私を見くびる者=たいして強くない奴」という図式が、王城では確立してるのですよ。


 話を戻そう。

 無駄な騒ぎを起こしたくない私は「そう、ありがとう。じゃあ、本部で登録します」と告げて、外に出ようとした。

 そしたら、冒険者の一人が「先輩の言うことは素直に聞いとけやぁ!」と叫んで、掴みかかろうとしてきたの。お約束、その二よ。

 大人しく捕まってあげる理由はないから、最小の動きで回避。

 冒険者は勢い余って他所のグループのテーブルに突撃。

 後は、想像つくわよね。

 荒くれ冒険者ズが一斉に立ち上がり、私に突進。そして透かされて自爆。もう、大騒ぎだったわ。



 じゃ、冒険者登録に行きますか。


 本部に入ると、受付カウンターで荒くれ風の冒険者が何やらまくし立ててた。

 あの冒険者、ここに来る途中で私を追い抜いてった人だね。追い抜きざまに睨まれたから、なんとなく覚えてた。

 ま、そんなことより、冒険者登録だね。えーっと、新規登録受付は……。

 ゲッ! 荒くれがいるとこじゃん。

 しゃ~ないなぁ……。


 私は件のカウンターに近付いた。聞きたくもないけど、荒くれの話が耳に入る。

「だからよぉっ、クッソ小生意気な聖女が、ここに登録に来るんだよ。しかもよ、ろくに戦えもしねぇくせして、審査を受けるってんだ。ここはひとつ、世間の厳しさってもんを、叩き込んでやってほしいんだよ!」

 ほほう。荒くれは北門支所にいた奴の一人か。わざわざそんなことを言いに来るなんて、よっぽど暇なんだね~。

 そんな荒くれの話を聞いてるのは、ヤンキーっぽいお姉ちゃん。外見だけで人を悪く言いたくはないけど、見るからに頭と底意地が悪そうだ。

「オッケー。世間知らずの聖女サマに、冒険者アタイらのルールをたたっこんでやろーじゃん。退屈タイクツしのぎにちょうどいいぜ」

 ヲイヲイ、そこは荒くれをたしなめるところだろ……。

 エリシュ(ウチ)の冒険者ギルドって、こ~ゆ~のしかいないのか?

 イメージしてたのと全然違うんですけど……。


 うん。嘆いててもしょうがないね。

 エリシュ(ウチ)のギルドが(職員)から(冒険者)までダメダメだったら、完全にぶっ壊してから立て直さなきゃ。

「そのクッソ小生意気な聖女って、私のことかしら?」

 自然な感じで声をかけると、荒くれはギギギッって感じで振り返った。

「そそそそうだよ。おっおまえだよ!」

 本人は凄んでるつもりなんだろうけど、声が完全に裏返ってる。こいつ、正真正銘・完全無欠の小者だね。

 絞り出すように言い終わった荒くれは、職員以外立ち入り禁止なはずのドアに逃げ込んだ。


 一方のヤンキー姉ちゃんはポカン顔。事態を全く呑み込めていないみたいだね。

「冒険者登録と総合力の審査をお願いします」

 私の声で、なんとか再起動できた模様。

「あ、ああ。上にナシつけてくっから、ちょっとそこで待ってな」

 と、レトロなセリフを残し、荒くれと同じドアに入っていった。

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


 冒険者登録時によくあるテンプレから、外見で見下されるパターンを選んで書いてみました。

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