18.地方巡業に出たい聖女様、冒険者登録する
一度王都に戻った私は、アナト義母上とモダメに来てる。
アシラート義母上は少しだけお疲れ気味だったから、王都で休んでもらってます。
――というのは建前で、アナト義母上が「アシラートばっかりズルい! 私も魔物をぶちのめしたい!」って強硬に主張した結果、こうなったんだ……。
モダメの状況は、ヒガイタントと比べたらだいぶマシ。
先触から聖女の羽の設置、そして瘴気の沼を守る魔物との戦闘開始までは、実にスムーズに進んだ。
後は魔物を全滅させて、沼を浄化すれば終了なんだけど、ここでちょっとした問題が……。
アシラート義母上は槍使い。一対一で強いのはもちろん、一撃で集団を屠れる技も持ってた。
アナト義母上は格闘家。一対一ならメッチャ強いんだけど、集団相手だと少し苦しい。魔物に負けるようなことはないんだけど、全部倒すまでには時間がかかるんだ……。
今回の相手はオークの軍勢。
単なる大群じゃなく、脅威度Aのオークキングが率いる大軍だ。王を補佐する将軍――脅威度Bのオークジェネラル――も、結構な数が混じってる。
と言っても、私のスキルで弱体化してるから、実際にはたいした相手じゃない。
当然、義母上はオークを倒しまくってる。
パンチを連打したり、死体をぶん投げたり、回し蹴りで数匹まとめて吹っ飛ばしたり。
でも、いかんせん数が多すぎるんだよね……。
義母上に疲れは見えないけど、時間は確実に過ぎていく。
最初は楽しそうだった顔も、今じゃ感情が抜けてきてる。
これ、明らかに飽きてきてるよね……。
うん。これ以上は精神衛生上よろしくない!
ここは私が片付けよう!
ヒガイタントで出番がなかったから私も戦いたい! ってわけじゃあ、決してないですよ?
「義母上、後は私に任せてください! 一撃で終わらせます!」
義母上は意外そうな顔で私を見た。
私は素手。しかも、大災害級に強いことは、まだ話してない。
当然の反応だね。
ところが、一瞬目を細めて私を見た義母上は、ニヤリ顔で言う。
「よし、任せる! 準備ができたら言ってくれ!」
「了解です!」
私は闘気を右腕に集め、渦を巻くよう拳に送る。
そこに暴風魔法を纏わせ、爆発的に威力を上げる。
魔法力に呼応し、聖女衣が輝く。
技の威力を誇示するかのように、背中に鳳凰の翼が現れる。その数、最大の十二枚!
「義母上、いきます!」
「わかった! すぐ離れる!」
義母上は近くにいたオーク数匹をダブルラリアットでなぎ倒し、素早く私の隣に戻った。
そのタイミングで、私は右ストレートで闘気を撃ち出す!
「暴風捻殺撃!」
放たれた闘気が渦を巻く!
それは見る間に巨大な竜巻となり、獲物を狙う大蛇のように動き回る!
竜巻は、散らばってる多くの死体もろとも、オークの軍勢を一匹残らず飲み込んだ!
巻き上げられてるオークは、まるでゴミのようだ。捻じれて引き裂かれてバラバラだよ……。
「な、なんだぁ、そりゃぁ? まさか、アシラートの技かぁ? すっげー威力だな……」
「はい。その通りです。さっき見せてもらったので、私流にアレンジしてみました」
「アレンジって、お前……。私より強いとは思ってたけど……、そんなことまでできたのかよ!」
《条件を満たしました。オリジナル拳技<暴風捻殺撃>を習得しました》
呆れ声の義母上。
最後を締める天の声。新技ゲット。しかもオリジナル。
しかし、私が強いのは義母上にバレてたのか……。
よく言われてる、強者は強者を知るってやつですかね?
そうすると、アシラート義母上にはもちろん、会議室にいた王族にもバレてそうだねー。
と、まあ、そんな感じで、モダメでのミッションも完了した。
その後、私は聖女の羽を量産――と言っても、一日二十枚だけど――し、エリシュ中の教会に設置して回った。私自らが出向いたのは、聖女としての顔見世も兼ねてたからよ。
教会って、たいてい街の中心にあるし、盗みに入る不届き者も滅多に出ないから、最高の設置場所なんだ。
羽の効果は素晴らしいの一言。エリシュ各地の瘴気は、日を追うごとに、目に見えて減っていった。
ちな、二十枚というのは、一日で再生できる鳳凰の羽の数だったりします。
ん? 何かおかしいことでも?
鳳凰の翼は自己修復機能を持つ聖女衣の原材料。羽が再生するのは当然ですよ?
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
そんなわけで、エリシュは聖女不足で起きた瘴気禍を乗り切った。
だけど、それが気にくわない奴らがいた。
それはマルクト聖国。
ヒガイタントのバカ助祭から報告を受けたらしく、「教会にマルクト様の像以外を設置してはならん!」と上から目線で言ってきた。
当然、そんな戯言は完全無視。聖国には国王の名で断固拒否を通告。ついでに、その戯言を国中はもちろん、近隣諸国にも広めた。
もうね、教会も含めて、エリシュ中がカンカンですよ。
聖国教会とはスッパリ縁を切って、エリシュ国教会を起こそうなんて話まで出てきてます。
聖国と上手くいってない小国は、これ幸いとエリシュに同調。大々的に聖国批判を始めた。
さて、どうなることやら……。
瘴気禍と言えば、ディマンドがどうなってるかも気になるね~。
形だけっぽいけど友好国だし、難民とか魔物に越境してこられても困るし……。
予め言っておくと、エリシュから聖女の羽の提供を申し出ることは、絶対にありません。
向こうがお願いしてきたら、じゃあ考えてみましょうってスタンスです。
当然、提供するときは見返りを求めますよ。
お人好しが綺麗事を言ってるだけじゃ、国の運営はできないんです。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
龍の聖女になってから、ちょうどひと月。
私は聖域に来てる。
冒険者として龍の聖女の力を使う許可をもらうのが目的だ。
いや、実を言うとだね、モダメで暴風捻殺撃を使った後、御使い様に言われたんだよ。
『事情が事情ですから、今回は大目に見ます。ですが、次から龍の聖女の力を使うときは、事前に許可をとってくださいね』って。
今後、私は「聖女」を前面に出して活動しようと思ってる。王女より圧倒的に小回りが利くからね。
そのためには、冒険者になってギルドカードを持つ必要がある。
聖女の本業は瘴気清浄機――もとい瘴気の浄化。病気や怪我の治療、除霊やお祓いなんかは、あくまでも副業。
でも、その副業を必要としてる人は、実は大勢いるんだ。
エリシュの衛生レベルは、日本と大差ないぐらいに高い。
上水と下水はキッチリ区別され、トイレも水洗。汚水処理もちゃんとできてる。
馬糞垂れ流しなんてないし、ゴミもちゃんと処理されてる。
医療面も、相応のお金を出せば、ポーション類が手に入る。
弱い霊なら、教会の司祭でも除霊できる。
でも、重傷者や重病人の治療、悪霊の除霊なんかは、聖女じゃなきゃ出来ない。
聖女は各地を巡回しながら、そーゆーこともしてたんだ。
エリシュと聖国の関係は悪化の一途。当然、聖女の補充はない。
なので、私が国内を巡回することにしたわけ。
そうなると、王女が行くにはちょっと……ってところにも、出かけることになる。
治療を頼む方も、王女様に頼むのはおそれ多い……って、遠慮しちゃうかもしれない。
でも、聖女なら、そーゆー問題は起きない……と思う。
聖女は転移門がない僻地にも出向く。
その場合、冒険者が護衛に着く。
でも、私に護衛は必要ない。強い魔物とかが出たら、私が護衛を守ることになるからね。
となると、護衛の役目は、門番に身分証を提示することだけになる。
だったら、私がギルドカードを持ってれば済む話よね。
というわけで、私は聖域に来てるのですよ。
「御使い様、私が龍の聖女の力を使うこと、どうかお認めください」
『はぁー(溜息) よくまぁ、それだけの理由を(こじつけましたね)……。まあ、いいでしょう。ティア、聖域は、貴女が冒険者として龍の聖女の力を使うことを許可します』
「はい、ありがとうございます!」
☆
王都に戻った私は、その足で冒険者ギルドに出かけ、冒険者登録を済ませた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
五つ星で挟まれてるあたりは、逐一書くと無駄に長くなるので短くまとめました。




