17.くんずほぐれつを目撃した聖女様、そっち方面に興味が……?
王族がアポなしで出向くと、なにかと面倒が多い。
聖域でさえそうなんだから、母国だとなおさらだ。
例えばの話。
エリシュで不敬は重罪になる。雫的にはバカげた話だ。
でも、ここでは、それが法で決められてる。王女な私は、それを守らせる立場にある。
なので、家から飛び出してきた子供が私にぶつかったら、私はその子を罪人にしなきゃいけないわけ。
私が転びでもしたら、一家そろって罪人よ。
私としては、そーゆー事態を避けたい。
というわけで、先触は必要なんですよ……。
はい。私はヒガイタントとつながってる転移門の前で、先触に出かけた文官が戻るのを、じぃーーーっと待ってます。
いや、これ、ちょっと遅くね?
少し離れて座ってるアシラート義母上も苦虫を噛み潰したような顔してるから、遅いと感じてるに違いない。
義母上が一緒にいるのは、私に同行するため。私は王族の顔パスが使えないので、そーゆー事態に対処してもらえる人が必要なんです。
私が「どうします?」的な目線を送ると、義母上は軽くうなずき、口を開いた。
「いくらなんでも、時間がかかりすぎですわね。これは、先方で何かあったと考えるべきでしょう。ティアさん、ヒガイタントに向かいますわよ」
義母上は愛用の槍を手に立ち上がる。
もちろん、私に異論はない。
「了解です」
私と義母上は転移門でワープした。
☆
ワープ先は領主公館。
そこで私が見たのは、興奮した顔で抱きついてるでっぷりしたおっさんを、逆に抱き返そうと頑張ってる貧相なおっさん――先触に出かけた文官――の姿。
これ、ケンカには見えないね。相撲でもなさそうだし……。
じゃあ……おっさん×おっさん!?
ま……、まあ……その……。
愛の形は人それぞれ。それ自体をとやかく言うつもりはないわ。
でもね……。
あんたら、この非常時に何しとんねん!
おっさん同士のカプって、誰得やねん!
右側は美形でお願いします!
……あ、私、腐ってないですよ(キッパリ)
「二人とも、おやめなさい!」
義母上が声を荒げたけど、二人はピクリとも反応しない。
これって、完全に不敬に該当するんですけど……。
しかも、肉だるまなおっさんはともかく、文官まで義母上を無視ってのは、どーゆーことよ?
トスッ、トスッ。
などと私が考えてる間に、義母上が槍を二閃。
石突きで軽く突いて、二人を気絶させた。
☆
「それでは、話を聞かせてもらおうかしら? ヒガイタント伯」
私の隣で仁王立ちした義母上の言葉。
その前で大きな体を小さくして正座してるのは、メタボすぎるおっさんことヒガイタント伯爵。そう、ファットなおっさんは、ヒガイタントの領主だった。
当然、その隣には、頭を床に擦り付けて文官が正座している。
「それがですね、王妃様と聖女様がこちらに来られるという話を聞いているうちに、瘴気の黒い霧がここにまで広がってきまして……」
「それで、訳も分からず目の前の人間につかみかかったと?」
「ははーっ。その通りでございます」
隣の文官も、全力でそれを肯定するかのように、体を動かしてる。
「だそうですわよ、ティアさん。私としては、二人の不敬は不問にしてあげたいのだけど」
「はい。私もそれで構わないと思います」
「それにしても、ティアさんは流石ですわね。私たちが着いたとき、黒い霧はありませんでした。それは、物凄い早さでティアさんが浄化したということですから」
あ、なるほど。そう考えれば、私たちが見たことの説明がつくんだ。
☆
街中の混乱は収まってた。
物が散らばってたり、一部が壊れた家があったりするけど、ケンカしてるような人はいない。その代わり、大半が「私、何してた?」的にポカ~ンとしてるけど。
これからの予定だけど、まず教会に寄って、聖女の羽――例の鳳凰の羽を鑑定したら、この名前になってた――を設置する。
私はここに常駐できないから、その代わりよ。
それが済んだら、瘴気の沼の浄化に向かう。
それをできるだけ早く終わらせて、モダメ領に向かう。
モダメに着いたら、ここと同じことを繰り返す。
他の地域には手分けして聖女の羽を設置してもらってるから、様子を見ながら都度対処ってことになるわね。
教会を見つけるのは簡単よ。鐘楼があって背の高い建物を探せばいいの。
お、あっさり発見。それじゃ、教会へGo!
☆ ☆
聖女の羽は設置できた。
ただ、助祭の一人が最後までメッチャ不満げだったのが気になる。この非常時に、「本部の許可なしにそんな物を置くことは、まかりなりません」って。バッカじゃないの?
危機でピンチで危ないのは、あんたのところの信者なんだよ? そんなこともわからないのかなー(呆れ)
教会長は即決で承諾して感謝までしてくれたというのに、えらい違いだよ。
あー、そんな些細なことで、ぷんすかしてる場合じゃないね。
次は瘴気の沼を浄化しなきゃ。
インキビットには魔物も出るから、首都だろうが小集落だろうが、周りは壁や柵で囲われてる。
もちろん、エリシュもそう。
そして入り口には、必ず門番がいる。ここを顔パスで通るために、義母上が同行してくれてるんだ。私、ギルドカードとかの身分証を持ってないからね~。
☆
門を出た私たちは、早足で瘴気の沼に向かってる。
魔物とのバトルに備えて、聖女衣は龍聖女のレオタードにフォルムチェンジ済みです。
土地勘はゼロだけど、沼の場所は私の直感が教えてくれる。
そして私が歩くそばから、瘴気が浄化されていくのがわかる。
《条件を満たしました。スキル<瘴気感知>を獲得しました》
うおぉぉい! それもスキルだったんかーい!
詳細を調べるのは、今すぐじゃなくていいよね。
小一時間ほど進んだ頃、瘴気感知が沼を捉えた。
ん?
沼の近くに瘴気の塊が点々としてるね。次々と増えて、そんでもって移動してる。
これは……瘴気の塊の正体は魔物で、沼の手前で私たちを待ち構えてるって感じだ。
今のペースだと、接敵まで5分ってところかな?
「義母上、そろそろ沼が見えてきます。ですが、その前に、魔物の群れが待ち構えているようです」
「あら、それは楽しみですわね。聖女不足で国を引っ掻き回された鬱憤、存分に晴らさせてもらいますわ」
うん。さすがエリシュ最高戦力の一人。根っからの戦闘系です。
私たちを待ち構えてたのはオーガの大群だった。
オーガは日本語だと鬼。人型で頭に角が生えてる魔物だ。大柄で力が強くて動きも速い。そして頑丈。
ステータスの脅威度の目安にもなってて、一匹の脅威度はC。魔物化した巨大熊なんかと同じレベルだ。
そんなのの大群だから、小国だとヤバいんじゃないかな? 脅威度はAに相当する。
なのに義母上は、ものすっごくやる気だ。
闘気がメッチャ高まってるのがわかる。
オーガも私たちを視認した模様。雄叫びを上げながら迫ってきた。
と、思ったら、義母上が槍を一閃!
「ハリケーンデストーション!」
穂先から闘気の竜巻が放たれた!
竜巻は生き物のように動き回り、オーガを次々と巻き込んでいく!
巻き込まれたオーガは、アチコチがアリエナイ方向にねじれてる!
あいつら、死んだな……。
生き残ったオーガの足が止まる。
中央がハリケーンデストーションで壊滅し、群れは二つに分かれたような状況だ。
義母上は槍をまわしながら、その片方に突撃!
殺られたオーガがギャグマンガチックに宙に舞う!
これ、私の出番はないよね……。
大人しく沼を浄化してよう……。
と言っても、特にすることはない。
私、そこにいるだけで瘴気を浄化できちゃうからね~。
オーガの数が減るにつれ、沼が小さくなるペースが上がる。
なるほど。あいつら、肉の壁みたいな物だったんだ……。
義母上が最後のオーガを倒すのと、瘴気の沼が消えたのは、ほぼ同時だった。
「お疲れ様でした、義母上。さすがですね」
「ありがとう、ティアさん。今日のオーガ、歯ごたえが全然ありませんでしたわ。ですが、たくさん倒せたのでスッキリしました」
あー、それ、私が原因ですね~。
瘴気浄化と龍聖女絶対領域で、二重に弱体化してますからね~。
とりま、ヒガイタントでのミッションは終了。
一度王都に戻って、モダメにGoよ。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
今回出てきたハリケーンデストーションは、ラーハルトのハーケンディストールが元ネタです。
使い手も槍使いですし、ちょうどいいかなと(笑)
ちな、漢字だと暴風捻殺撃です。
両手で使うと獣王激烈掌っぽくなります。




