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龍の聖女ティア ~鳳翼の異名を持ち龍力を自在に操る光輝なる第13王女~  作者: 狩野生得
第一章 至龍の試練(しりゅうのしれん)
12/53

12.扉に入った聖女様、神様と再会する

「!?」

 選択の間に戻ったはずの私は、高い山の頂にいた。

 周りの景色からして、ここはマアト山みたいだね。

「?」

 マアト山の標高は4000m超。

 ふもとから見上げる山頂付近は雲の流れが速く、風が強いイメージがあった。

 なのに、まったく風を感じない。

「!」

 マジ!? 雲も全然動いてない!


「あっはっはー、気付いたようだね」

 後ろから突然聞こえたのは、能天気そうな少女の声。

 聞き覚えがある声に振り返ると、そこには、私をインキビットに転生させてくれた神様がいた。

「や~、久しぶりだねー、しずくちゃん。おっと、今はティアちゃんか。元気でやっててくれてうれしいよ」

 神様は私より小柄で、私より年下に見える。青い髪と緑色の目は、私と同じ色だ。おそろいの服を着てたら、姉妹で通じると思う。

「ティアちゃんが思った通り、今のインキビットはここ以外の時間が止まってる」

「なんで、そんなことを?」

「それは、他に聞かれちゃマズい話をするからに決まってるだろ」

 神様がそこまで警戒するなんて……。

 話を聞かれたくない相手って、誰? 気になるけど、聞いちゃいけない気がする……。


「わかりました。お聞かせください」

「オッケー。じゃあ、覚悟しておいてね。まだ先のことだけど、ティアちゃんは、最悪、聖域ディルムンと敵対することになるかもしれない」

「マ……」

 思わずマジで!? って返しそうになった。

「うん、マジ。でも、それがインキビットのためなんだ。だから、ティアちゃんが思った通りにやってくれていい。私はティアちゃんの味方だから、そこは安心して」

 それだけ言うと神様の姿は消え、代わりに物々しい扉が現れた。

 雲の動きは止まったまま。

 これは、私が扉に入れば時間が動き出すってことだろう。


 確かに、今の話は誰にでも話せる内容じゃない。

 私は大国の王女。しかも聖女。そんな私が聖域と敵対なんてことになったら、世界大戦だって起こり得る。

 しかも、私はステータスが大災害級と認める力を持ってる。その気になれば、エリシュに敵対する勢力の全てだって滅ぼせるだろう。

 ……あれっ? これって、私が破壊神の類になる流れじゃね?


 でも、神様は思った通りにやっていいって言ったよね。それがインキビットのためだとも。それに、私の味方だとも言ってくれた……。


 よし! だったらそうさせてもらおうじゃないか!

 但し、厄介ごとがあっても神様に投げるようなことはしない! 最後の最後まで自力で何とかしてやる!

 それが、私の願いをかなえてくれた神様への、私なりの恩返しだ!


 そうだね、ここらで雫が前世を終えた後の話をしておこうか。


  ☆★


 ファブラージュのテストプレイ中に意識を失ったわたしは、ハロリインで目を覚ました。そこで、わたしは自分が死んだことを自覚した。

 ハロリイン――正式名称:ハローリインカーネーションは、転生待機者が転生先を探す場所。ハロワみたいな施設だね。


 システムはハロワと同じ。

 転生者を求めてる世界からは、求人票が出てる。

 求人票には、世界の名前、特徴、求める人材と職種、待遇なんかが出てる。

 転生待機者はそれを見て、よさそうな求人があれば、面接なり試験なりを申し込む。

 そこでアレコレやって双方が合意すれば、晴れて転生できる。

 そんな感じだ。 


 周りを見渡すと、わたしは明らかに他より立派な席の並びに、一人で座ってた。

 目の前には、求人票検索用の端末。近未来的なデザインのタッチスクリーンだ。

 わたしは求人票の見方と探し方に目を通し、転生先の検索を始めた。


 まずすべきことは、自分の死因の確認。

 これは、端末に両手を当てるとわかるらしい。

 それによると、わたしの死因はヘッドセットのオーバーヒート。わたしの反応速度に、ハードの冷却が追いつかなかったのが原因とのこと。これは、事故死扱いになる模様。

 死因を確認しておくべき理由は、それが合否に関わることが多いから。

 事故死者限定の世界もあれば、事故死者お断りの世界もある。そういうことだ。


 端末には、そういったわたしのデータをもとに、ぜひとも転生してほしいと希望する世界の求人票が集められてるとのこと。

 それをパラパラ眺めて目に付いたものを選んでもいいし、希望や条件に合うものを絞り込んでから見てもいい。


 希望や条件を特に思いつかなかったわたしは、パラパラと眺めてみることにした。

 結果、求人の大部分は聖女。次いで王女、公爵家令嬢、侯爵家令嬢、悪役令嬢の順だった。それ以外の求人は無い。

 これは……私に聖女になれと、そーゆーことだよね?


 というわけで、聖女の求人で職務内容をチェック。

 ・騎士団の魔物討伐に同行してラブコメ

 ・聖女バレしないように苦労しながらやらかす

 ・異教徒を拳で改宗させる

 ・勇者パーティに加入後、追放される

 なんか、こ~ゆ~のが多い中、

 ・街の中心付近で生活するだけ

 という求人があった。


 わたしが生まれ育った環境は、実力主義・成果主義だった。

 好きでやってたことだけど、わたしは小さいころから、いろんな習い事をこなしてきた。

 学校に通う年になったら、文武両道を神童レベルで実践した。

 結果、15歳で院卒とか、フィギュアの世界ジュニア優勝なんて言う成績も残した。

 でも、その代わりに忙しかった。

 だから、新しい生を送れるなら、のんびりゆったりしてみたい。


 そんなことを思いながら、わたしは求人票の応募ボタンをタップした。


「!?」


 突然、視界が切り替わった!


 わたしは真っ白な部屋にいて、真っ白な椅子に座ってた。

 真っ白なテーブルを挟んだ向かいには、青い髪で緑色の目の少女が微笑んでる。

「初めまして、しずくちゃん。ちょっと驚かせちゃったかな?」

「い、いえ。大丈夫です。は、初めまして」

「そっか。それはよかった。私の世界ところの求人に応募してくれてありがとう。私はインキビットの最上位管理者だよ。住人には神と呼ばれてて、部下たちにはTで通ってる」

当真とうま しずくです。インキビットの求人に興味を持ったので、応募しました」

「うんうん。ありがとね。それじゃ、さっそくだけど、応募するまでに思ってたこと以外で、希望とか条件とかあるかな?」

「そうですねー。あ、希望とかじゃなくて質問なんですが、記憶や人格を消すことってできますか?」

「残念だけど、それは無理。その二つを消しちゃうと、転生じゃなくなっちゃうからね」

「そうなんですか」

「でも、しずくちゃんの希望に沿うことはできるよ。自我と記憶がある状態で生まれると、普通じゃない成長をする。しずくちゃんは、それが嫌なんだよね?」

「はい、その通りです」

「だったら、記憶だけ封印すればいいよ。自我だけあっても、言葉がわからなければ話せない。成長した記憶がなければ、赤ちゃんになってても戸惑わない。前世と比べることもないから、不便とか不自然とか思わない」

「あ、そうですね」

「ただ、人格――魂の本質は変わらないから、しずくちゃんみたいに神童になる可能性は高いね。後は……そうだねー、身体能力も封印しておこうか」

「それは、どうしてですか?」

しずくちゃんレベルで体を動かせる人は、それが魂にも刻まれてるんだ。そうすると、とっさの無意識に体が動いちゃうことがある」

「あー、そうなると、例えばいきなりバク転しちゃったり」

「そうそう。そうすると、あれっ? ってなるよね。そうならないための保険ってこと」

「なるほと、わかりました。じゃあ、一つだけ質問です」

「いいよー。何でも聞いてみて」

「聖女の業務内容が生活してるだけっていうのが、よくわからないんです」

「あっはっはー。確かにわからないよね。実を言うと、インキビットでの聖女の本業は、別にあるんだ」

「それは?」

瘴気しょうきを浄化すること。でもね、それは聖女に与えられるスキルが勝手にやってくれるんだよ」

「あー、なるほど」

しずくちゃんが生まれる前に、神託を下す。すると、しずくちゃんは、そのスキルを持って生まれてくる。聖女はどんな家庭に生まれても、世界中で大事にされる」

「凄い待遇ですね」

「それだけ聖女を必要としてるってことだよ。それで、どうかな、インキビットに転生してくれるかい?」

「はい。よろしくお願いします!」


  ★☆


 てな感じで、今の私があるわけ。


 それじゃ、扉に入って時を動かしますか。

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


 10話のあとがきで未回収要素に触れましたが、あらすじの「私、職業は聖女でって言ったよね!」が抜けてましたね~(笑)

 はい。主人公が聖女に転生した裏には、こ~ゆ~事情があったんです。


 ちょこっと補足しておきますと、雫の魂は、例えるならドラフト会議の超目玉選手のようなもの。

 たくさんの球団が「指名するから入団オナシャス」と挨拶に来てる状態です。

 そーゆー魂にハロリインが割り当てるのが、他より立派な席です。

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