1.仮免の聖女様、卒検をすっ飛ばして限定解除に挑む
私は今、対戦相手の能力を、嫌というほど体験してる。
い、いや……体験してるというよりは、まったく理解を超えてるんだけど……。
あ、ありのまま、今、起こってる事を話すわ!
私は龍殺しの聖剣で相手を斬ったと思ったら、いつのまにか斬られていた。
な、何を言ってるのか、わからないと思うけど、私も何をされてるのかわからないの……。
頭がどうにかなりそうよ……。
催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなものじゃあ、断じてない。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わってるわ……。
はい。というわけで、私、ティアーユ・マート・マルクト・エリシュ(15歳)は、か~な~りヤバい状況です。
アチコチ切られた生成りのトーガはボロボロ! 肌色成分増量中!
とてもじゃないけどニチアサじゃお見せできないことになってます! いや、謎の光の力を借りればワンチャン?
あ、トーガは血だらけだから、そもそも無理か……。
私がいるのは真っ白な異空間。一日で一年分の修業ができる部屋に似てるけど、体にキツイ要素はない。
謎素材の白い床には、私の血が飛び散りまくってる。私の青い髪も、ところどころに落ちてるねー。
えっ? そーゆー状況の割には、余裕ぶっこいてるじゃないかって?
うん。そこは否定しない。
いやね、ぶっちゃけると、斬られたのは大丈夫なんだよ。
私、仮免だけど聖女だからね。
聖域で10年修行してるからね。
回復系の魔法は、神様に褒められるレベルで修めてます(ドヤァ)
具体的に言うとだね、即死じゃなければ大抵の怪我は秒で治せる。手足を切断されてもくっつけられるし、なんなら再生もできる。そーゆーレベルなのですよ。
今は自動蘇生魔法も使ってるから、魔法力が残ってるうちは、まず死なないと言い切れる。
なので、斬られたこと自体は、たいした問題じゃないわけ。
でもね、なんで自分が斬られてるのか、これが全然わかんない。それがヤバいんだ。
あとは、布面積の減少も、そろそろヤバいかな……。
私が戦ってる相手は、鏡竜のジ。人型の竜で有翼。全身メタリック調だ。色合い以外はドル○ーラの使い手に似た感じだね。
戦う前は身長2m超えてたけど、今は私と同じぐらいの背格好になってる。
私がジと戦ってる理由は、龍の聖女になるための必須イベントだから。
イベントには、至龍の試練という厨二っぽい名前がついてる。
龍は竜より高位の存在。だから、竜を倒して龍に至れってことらしい。
倒すべき竜は4体。なので、昔は単に四竜の試練と呼ばれていたとかなんとか。
難易度が高いのは、やる前から分かってた。
だって、仮免許練習中な私が、卒検をすっとばして限定解除を受けてるようなものだからねー。
その辺を説明しておこう。
まず、聖女っていうのは、神託を受けて、聖域で修行をして、一人前と認められた女性のこと。
念のため言っておこう。男の娘や漢の娘な聖女はいないからね!
聖域で修行できるのは、生まれる前に神託があった人か、人となりが認められて神託を受けた人だけです。
私? 私は前者だね。≪三日後に生まれる第13王女は聖女ですぅ≫って神託があったんだ。
……あー、うん。
実は私、エリシュ王国の王女でもあるんだ。
神託を下したのは、神々の長マルクト様。聖女には、神託を下した神様の名前を、自分の名前の中に入れる習わしがある。
私のフルネームが長いのには、そーゆー事情があるんだ。
聖女の数は、現在も過去も、そしておそらくは未来も、常に不足気味。
だって、「聖域で修行して、聖女になってよ!」的な神託なんて、年に一度下るかどうかだからねー。
だから、聖女として生まれた者は、身分に関係なく、5歳になったら聖域で修行を積むことになってるの。
なので、私は王女でありながら、聖女としての道を歩むことになったわけ。
まだ修行中なので、仮免です。
えっ? 神に褒められるレベルの魔法の使い手が一人前扱いされてないのはなぜかって?
必修科目の単位が足りてないからですが、なにか?
教習所と同じよ。実技だけよくても卒検は受けさせてもらえないわ。
聞いた話じゃ、修行を始めた年齢にもよるけど、一人前になるには12年ぐらいかかるのが普通らしいわよ。
次に、龍の聖女なんだけど、マジな話、ここ聖域でも、三日前までは都市伝説レベルの存在だったんだ。
というのもだね、龍の聖女が出てくるのは、マルクト教の教典だけ。エヌマトーラっていうパートに、3人出てくる。
一方、各国が正史としている歴史書には、ただの一人も出てこない。教会が保有してる聖女名鑑にも、龍の聖女の記録はない。
しかも、エヌマトーラに書いてあることが、ぶっ飛びすぎてる。
龍の聖女
世界のバランスが崩れ、瘴気に満ちたとき、必ずや現れるという希望の聖女
その拳は空を裂き、蹴りは大地を割り、あらゆる呪文を使いこなす
天と地と海をも味方に変え、世界の秩序を乱す者を滅する
龍の聖女ってさ、小宇宙と竜闘気を両方使えそうだよね?
どこの私TUEEEE小説だよ!
てな感じで、神学者たちにも実在を疑われてる存在だったんだ。
ところが!
三日前、聖域にマルクト様の神託が下りたんだ。≪ティア、至龍の試練を受けるのですぅ≫ってね。
初めて聞いたマルクト様のお声は、ちょっと残念なお姉さんっぽかったです。
神託を聞いた人間の大半は「至龍の試練って何?」的な反応だった。もちろん、私もそう。
それを見て気づいたらしく、≪ティア、至龍の試練を受け、龍の聖女に相応しい力を示すのですぅ≫と、追加の神託があった。
それでみんなが納得。そして同時に、マルクト様の残念女神疑惑が、私の中で確信に変わったわ。
試練を受けるように言われた私は、内容の確認と準備に取り掛かった。
そこで、致命的と言っていい問題点が発覚した。
それは、内容そのもの。ズバリ! 竜と戦うこと自体よ!
聖女の本業は、瘴気を浄化すること。回復や除霊やその他諸々は、あくまでも副業です。
ちょっと本題からズレるけど、瘴気の説明からしていこう。
瘴気っていうのは、死骸・毒物・人間の邪な思いなど、良くないモノから出る気の総称。
これが濃くなると、黒い霧のように見える。
この状態の瘴気に触れると、生き物に悪い影響が出る。狂暴になったり、魔物になったりね。
さらに瘴気が濃くなると、強い魔物を次々と生み出すようになる。ゴブリンの上位種とか、オークとか、中堅クラスの冒険者でも、一人じゃ勝てないレベルのやつ。
オークの大群とかが出たら、街の冒険者が総力結集とか、国の騎士団が出動するレベルの大事件です。それも、確実に勝てる保証はないというね……。
なので、瘴気は定期的に浄化する必要があります。
そこで、聖女の出番です!
なんと! 聖女は! ただそこにいるだけで! 瘴気を浄化できるんです!
空気清浄機ならぬ、瘴気清浄機です!
そんなわけで、聖女は各国に最低でも二人、大国だと十人ぐらい常駐してます。
一人は首都の教会にいて、他は地方巡業に出てる感じだね。
聖女の修行の大半は、瘴気浄化能力を向上させるためのもの。
より広い範囲を、より短時間で浄化する。浄化された状態を、少しでも長くもたせる。そ~ゆ~修行をしてるわけ。
戦闘訓練なんて、そもそもカリキュラムに入ってないんです!
なのに、試練はバトルだよ?
難易度が高いのも当然だね!
一応、それは考慮されてるんだろう。ルールは挑戦者よりだ。
対戦形式は一対一。
戦う順番は自由。武器や道具の持ち込みも自由。
一戦終えたら、回復や道具の補充ができる。
死亡または降参したら負け。
死亡で負けても、試練が終われば生き返る。
ルールは三日前に教えてもらえた。
戦う相手を選べて、事前に準備したアイテムの持ち込み自由。普通に考えたら、挑戦者有利に思えるよね?
フッ……何をたわけたことを……。
竜と一対一で戦うこと自体が超絶無理ゲーな件!
そうね、前に言った言葉を訂正しておくわ。
聖女修行中の私は聖女をすっ飛ばして、いきなり龍の聖女に挑戦してます。
お読みいただき、ありがとうございます。
ダイ大のアニメが始まったので、つい書いてしまいました。出来心です。
竜の騎士+聖闘士=龍の聖女って感じです(笑)
タイトルの「鳳翼の異名~」のくだりは、スクエ○つながりでライト○ングさんのアレに合わせてみました。
構想の時点では「第13王女」の部分は「女聖騎士」だったのですが、どこかに13って入れたくなり、今の形になりました。
予告。
近々↓な技が出てきます。読み方が同じ技が、ダイ大に出てきます。これを書きたかったので、一作書き始めました。
千花裂孔拳
超高速の連撃。一発一発がアバンストラッシュ級なので、硬い物でも切り裂き、貫く。オリハルコンなど豆腐も同然。
名前の由来は、オリハルコン級の金属生命体に使うと、背中に千の花が咲いたようになるから(適当)
毛枯破細拳
マホイミ的な魔法を込めた一撃。生物は恒常性を乱され代謝を異常促進され、生命維持ができなくなる。
名前の由来は、体毛を枯らし、細胞を破壊するから(超適当)