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不羈の覇王は黎明に彷徨う  作者: 帝亜有花
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荒野にて

タイトルの読み方:ふきのはおうはれいめいにさまよう


 古代、神々が世界を作ってから数億数千年経った時、神々は世界に飽いた。

 世界を育み、世界を見守り、世界の行く末を祈る。

 そんな今まで当然としていた行為をある日突然やめた。

 そして、代わりに神々はある遊びを思いついた。

 極一部の限られた人間に特別な力を与えた。

 それを人々は神からの啓示として『天啓』と呼んだ。

 そして神々は天啓を巡って人々が争い合う(ことわり)を生み出した。



 荒野を黒い短髪の男とそれとは対照的に灰色の長髪を緩く三つ編みにした男が全力疾走していた。

 というのも、二人は運動不足を解消する訳でもなく、仲良く追いかけっこをしている訳でもなく、どちらが早く走れるか競争している訳でもなく、ただ単に、野狼の大群に追いかけられていたからだった。


「おい、ルドそっち行ったぞ!」


「ひぃっ、ひぃっ、若様っ、と言われましても・・・・・・」


 ルドと呼ばれた灰色の髪の男は、自分の長い法衣で走りにくそうにしながら、白い服が砂ぼこりで汚れるのも我慢して必死に走っていた。


「若様って呼ぶなっ! おい、不完全なる辞典、死にたくなきゃなんとかしろ」


「アルフ様っ、そんな無茶な」


 アルフと呼ばれた黒髪の男はルドとは違って軽装の服に黒いフード付きの外套を纏っていた。

 走りながらも着実に短剣で野狼の喉元を掻き切り数を減らしていくが、後から後からと野狼は現れキリがなかった。

 もう片手には仕事で得た路銀や旅の生活に必要な荷物を持っていた為、得意の二刀流が使えずアルフは煩わしく思った。


「お前の辞典で調べれば何か分かるだろうっ?」


 そう言われルドは自分の天啓の力を使い頭の中の辞典を高速で捲った。

 ルドの天啓の力は天啓の中でも上位十名に入る能力であり、十啓と呼ばれていた。

 そのルドの天啓、『全知なる辞典』は歴代の天啓使いから引き継がれ、膨大な知識をもっており、ありとあらゆる事柄を調べることが可能だった。

 膨大な数の植物や動物、魔物等の絵柄の中からあの野狼と同じ絵が描かれたページを見つけだすのは走りながらやる作業としてかなりの苦行に思いながらもなんとか見つけ出した。


「ええと、あれはこの辺でも獰猛な生物で、雑食で、瞳が赤く・・・・・・」


「バカ、そんな情報どうでもいいんだよ。弱点とかあんだろ」


「えっと、弱点は炎・・・・・・」


「よし、やれ」


「えええ……、我十啓が一人、全知なる辞典が火精王(フィアニス)に懇願す、我が敵を灼熱の炎とともに焼き尽くせ、全てを灰に化せ・・・・・・」


 ルドは走りつつ、舌を噛みそうになりながらも詠唱した。


「火炎弾!」


 ルドは詠唱を終えるとくるりと振り向くと後方の野狼に対して術を放った。

 しかし、ルドの手から放たれたのは非常に小さな火の玉で弱々しく空を彷徨うと野狼の鼻先に非常に優しく当たり消えた。

 その野狼は火の玉が当たったことをまるで気が付かなかったかのように平然とし、ルドに向かって吠え、追いかけまわすのをやめなかった。


「あああああああ」


「チッ! お前に期待したのがバカだった」


 アルフはルドが炎等のような攻撃系の魔法を使えはしても威力が弱くなってしまうのを思い出した。

 アルフは黒い瞳を閉じ、内なる魔力を増幅させ瞳を開いた時には金色の瞳に変わっていた。


「ちょ、アルフ様! また力を使うつもりですか!」


「んなこと言ってる場合か!」


 アルフはルドの忠告に耳も貸さず、ルドが詠唱していた呪文を改変しながら真似て詠唱した。


「塵一つ残すことなく焼き尽くせ、火炎烈風!」


 後方に向かって手をかざし、集められた魔力を一気に放った。

 火の波は広範囲に広がり野狼を飲み込んでいった。


「おお、流石は若様!」


 紅蓮の炎とともに黄砂が巻き上がった。

 そして、風が止んだ後、二人は目の前の光景に絶句した。

 野狼は一匹たりとも減ってはおらず、代わりに黒かった毛並みが赤々と今にも燃えだしそうな色をしていた。


「おい、ルド、これはどういうことだ?」


「えーと、あ・・・・・・」


「あ? あってなんだよ」


 アルフは嫌な予感がしていた。


「火に弱いが、火に触れさせると体が赤く燃え上がり爆発すると書いてありました。正式名称火薬狼だそうです」


「はあああああああ? このど阿呆! それを先に言え! 死に物狂いで走れ!!」


 二人は脇目もふらずに真っ直ぐに走った。

 ズダンッ、ドォンッ、ダンッ・・・・・・


「ひぃ、ひぃ、ひぃっ」


 ルドはすぐ真後ろで爆音がするたびに悲鳴を上げた。


「変な声を上げるなっ」


「そ、そう言われましても、物凄い音と爆風が!! わっ、どうしたんです急に立ち止まって」


 ルドは前を走っていたアルフが急に立ち止まったのを不思議に思い、アルフの視線の先を見た。


「なっ、これは!」


 その瞳に映ったのは絶景だった。

 水平線の向こうには青々と生い茂った森と豊かな水源から流れてきたであろう美しい川があった。

 今すぐにでもその先に行ってみたい好奇心に襲われる。

 そこに、足場があればの話だが。


「うわー、いっそ清々しいですね~、これ断崖絶壁ってやつじゃないですか~」


 ルドは現実から逃避するように能天気に言った。


「なら、飛び込んでみるか? もっと清々しく死ねるかもしれねぇぞ?」


「それはできれば遠慮したいですねぇ」


「だが、そうも言ってられねぇようだ」


 グルルルル・・・・・・

 すぐ真後ろに火薬狼が追いついてきていた。

 眼前には高い崖、後方は爆発寸前の狼、所謂、絶体絶命という状況だった。


「丸焼きと飛び降り、どっちか好きな方選べ」


「そんなの選べる訳が・・・・・・」


 ズドンッ!!


「うわああああああーーー」


 ルドは絶叫した。

 究極の二択を選ぶ暇もなく爆発した狼の爆風に追いやられ、二人は崖から落ちた。

 肌を切り裂くような風が二人を包み込んだ。

 このまま落ち続ければ数秒後には岩肌に衝突する未来しかない。

 ルドは崖の上にあった森を思い出し、それに賭けた


「我、十啓が一人、全知なる辞典が木精王(ジュリオス)に命ずる、以下略、永樹の蔦!」


 ルドは詠唱を省略し天に向って魔法陣を放った。


「届け! 頼む、届いてくれ!」


 祈るような気持ちで空を見た。

 そして、間に合わないかと思われた瞬間、森から伸びた一本の蔦が急降下し、ルドに向かって伸びた。

 ルドはその蔦を掴みアルフに手を伸ばした。


「アルフ様っ!」


 アルフはルドの手を掴み、二人は蔦にぶら下がる形になった。

 風で二人の体は大きく揺れ、気を緩めれば真っ逆さまという運命が待っていた。


「ふぅ、間一髪ですね」


「ああ、即席にしては上等だが・・・・・・、その蔦、大丈夫なのか?」


「え?」


 ルドは上を見ると頼りの蔦は悲鳴を上げるように軋み、少しずつ切れ始めているのに気がついた。


「あー・・・・・・・・・・・・大丈夫じゃないですね」


 ルドがそう言った瞬間蔦はブツリと切れ、二人は再び急降下した。


「裂空斬!」


 二人の体が岩肌に叩きつけられる寸前、アルフは短剣を二本腰から引き抜き、地に向かって剣を水平に薙ぎ風の刃を放った。

 その風はアルフ達が落ちる地点を川へとそらした。

 激しい水しぶきがあがった。

 川は激流でまともに泳げる速さではなかった。


「はぁっ、はぁっ」


 アルフは流れに飲まれそうになるルドを掴むと水面に顔を出した。


「ルド、あれ、行けるか?」


「承知しました・・・・・・」


 ルドの頭の中には数多の神獣が描かれた辞典があった。

 その中の一冊を左手に具現化させた。

 分厚い辞典だったが、目的のページは何度か開いているため感覚ですぐにどのページにあるかが分かっていた。

 そしてそのページを開くと素早く詠唱を開始した。


「我十啓が一人、全知なる辞典が命ず、我の声に応えて姿を現せ! 水神龍(アクネリージュ)!」

 呪文を唱え終えると水面下が大きく揺れ、ルドとアルフを背に乗せるように巨大な龍が水面に現れた。

 青く美しい鱗を持ち、体は長く、四肢は鋭い爪、長い角には青い宝珠が付いていた。

 ルドは素早く首元に呪符を掛けると水神龍は甲高く(いなな)き、ルドとアルフを乗せたまま川岸へと飛翔した。

 川岸へと辿り着くと、目的を果たした水神龍はルドが術を解き、すぐに姿を消した。

 アルフ達は川辺に寝そべり荒くなった息を整えていた。

 アルフの目はいつもの漆黒の瞳に戻っていた。

 そして、アルフはある現実を知り、死ぬ程悔しそうに顔を歪め、己の運命を呪うように悪態をついた。


「くそっ!」


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