恋の話 二十六
―その通りです。
ここからは私自身の話をしますね。
私がこの世に生を受けた時、私はいわゆる「普通」の子だと思われていました。この「普通」というのは差別用語にあたるかもしれませんが、他に表現できる適当な言葉がないのでご容赦ください。
しかし私が成長し、言葉が話せるようになると、私の両親は私にある異変を感じ始めました。
私は読み書きも普通にでき、特に問題があったわけではありません。ただ、私は―、全くと言っていいほど笑わなかったのです。
それは、面白いテレビ番組を見てもそうで、また他にどんなことをしても、私は笑わなかったのです。
そのことを心配した両親は私を病院に連れて行きました。そして私の脳波などを検査したのですが、全く異常は見つかりませんでした。
そう、私にはいわゆる「知的障害」などの症状は当てはまらなかったのです。
それで両親は一安心し、
『この子ももう少し成長すれば笑うようになる。』
そう思ったらしいのですが、やはり私は笑いません。そして私が小学校に入学する直前の年齢になった時、偶然、本当に偶然ですが、私の両親の知り合いに哲学の研究をなさっている方がいて、
「一度、その子を見せて欲しい。」
ということになったのです。
そして私はその方の研究室に両親と共に行きました。そしてその方は問診を行い、その後少し変わった研究機材なるもので私を調べ始めました。
その結果、
「平沢さん、この子、美宇ちゃんは『哲学的ゾンビ』の可能性があります。」
―と、診断されたのです。